二章 人と天使

第45話【もふもふ】もふもふ天国【もふもふ】


 焼け焦げた赤い世界に、黒い人影が立っていた。


 黒い人影は、ただ何も言わず、じっと赤い世界を見ていた。


「─────何故?」


 そう、黒い影は私に問いかける。


 何故?

 

 ノイズ混じりの女?の声でそう問われる。何故…なんの話だろうか?


 そこで、俺の視界の端に、一際赤い大地が目に入る。


 下を見ると、そばにはとある天使が血を流して倒れていた。白く美しかった髪は黒く焼け焦げ、赤い翼はもう飛べぬほど折れ曲がっていた。


 地面にうつ伏せるように倒れる天使。彼女の表情はわからない。


 ………あぁ、そういうことか。


 そこで、黒い影の問いかけを理解する。


「………………何故」


 もう一度、黒い影は私に問う。哀しみに包まれたその声の主に、私は答えた。
























「──────生きる為だ」



 そう答えた瞬間、世界は真っ白に染まった。




………………………………


……………


……



 目を覚ますと、天国に一番近い場所にいた。


 手を伸ばせば、もふもふとした銀色の尾。


 香水のような人工的な匂いとは違う、自然のような優しく、いい匂いに包まれている。


 そして両腕に押し付けられるように当たるのは人の一番柔らかな部位。


 あぁ、ここは天国だ。俺はここに永住するぞ!


 そんな天国でゆったりしていると、金色の装飾がされた白い浴衣を身に纏い、白色の狐の耳と9つの尻尾を生やした幼女が部屋に入ってきた。


「あるじ。そろそろじかんです」


 外はもう真夏と言っても過言ではない暑さである。だが、この部屋は冷房がしっかりと効いていて、こんなもふもふに包まれていても問題はない。


 だから、俺はここから動かない。最高に可愛い超絶美幼女の狐っ娘の願いでもである!

 

「あるじ、ねてはだめです」

「…あと五年」

「わかりました。ではいなりもいっしょします」


 俺がそうゴネると、とてもキュートな狐ちゃんは俺の上に覆いかぶさり目を閉じる。


 ふっ…俺ってば罪な男だぜ。こんなかわい子ちゃんを一瞬で陥落させてしまうなんて。


『次のニュースです。突如東京都渋谷区にて、女性の遺体が発見されました。警察によりますと、遺体は血が全て抜かれており、外傷や衣服の乱れはなく…』


 そこで、昨日からつけっぱなしにしていたテレビから不気味なニュースが聞こえる。最近多いな〜…物騒な世の中である。


「…?ねむらないのですか?」

「ん?あぁ、すぐ寝るよ」


 テレビを消して、彼女を抱きしめる。


 傍から見れば幼女を抱きしめる変態だが、丁度いい抱き枕なので仕方がない。


「イナリ様。独り占めは駄目です」


 そこで、近くで眠っていたと思われた狐の耳と尻尾の生えた少女達が俺の腕にぎゅっとくっついてくる。


 ……あぁ。やはりここは天国だ。


 真面目に授業を受けろという先生も、仕事を押し付けてくるパワハラ上司も、仕事をしろという親も、予定を一分一秒管理してくる天使もいない。


 可愛らしい華達が、俺のために尽くしてくれる天国。


 さぁ、ここで永久の惰眠を貪ろうではない…か……


 そこで、さっきイナリが入ってきた扉からこちらを覗く悪魔…いや、天使と目があった。


「マスター。何をしているのですか?」

「……ゑ?イマオキタトコロダヨ?」

「…そうですか。では、早く支度をしてください。いないのは天狐族だけですので」

「はい…」


 ルエルはそう言い、扉を閉じた。


(やっぱり…なんか厳しいんだよなぁ…?)


 どんどんと遠慮がなくなっているというかなんというか。


 はぁ…仕方がない。起きるとするか。


「イナリ。起きて?」

「…んんっ?もうごねんですか?」

「そうだよ。もうごねんも経っちゃった」

「そうですか。では、いきましょう」


 俺がそう冗談を言うと、彼女はそれを信じて起き上がり、俺の袖を引いて扉へ向かう。


 大地の試練を攻略してから、早二ヶ月の月日が経過した。


 大地の試練を攻略した伝説の探索者、しかもその探索者はダンジョンを運営しているという話も広がっていて、その熱は冷めることはない。


 俺を求めてマスコミやらテレビ局がダンジョン前に集まっていたり、俺のSNSにインタビューさせてくれという大量のメッセージが送られていたり、テレビではフラムの一撃や俺達の戦いが何度も再生されていたりと…恥ずかしいことこの上ない。


 ああいうのは苦手である。


 そんなわけでこの二ヶ月はダンジョンに引きこもりダンジョン制作に勤しんでいた。天使も増え、ダンジョンも全体的に完成が見えて来ている。


 あとは、このダンジョンの名前が決まった。


 ダンジョン名は『ノスタルジア』


 ちなみに安価で選ばれた名前だ。まあまあ良い名前ではないだろうか?


 そして現在、俺がいる場所はノスタルジアの第三層である荒廃した街のビル群の東に存在する和の街、その中心にある天狐族てんこぞくの社であった。




………………………………


……………


……




「おセェ…おセェぞイナリィ!」


 社の中でも一際大きな和室に入ると、そんな怒鳴り声が響き渡る。


 怒鳴り声を上げたのは、顔を真っ赤にした赤髪にオールバックの長身の男。


 天猿族てんえんぞくの族長、ハヌマト。


「うるさい。はぬまと」


 そんなハヌマトに辛辣な声を浴びせるのは真っ白な狐娘。


 天狐族てんこぞくの族長、イナリ。


 でも、遅れたのはこっちだからちゃんと謝ろうね?


「ノスター様が付いているのですから、何か特別な理由があったに決まっているでしょう?猿は頭が悪いですねぇ」


 完全にこちらが悪いのにもかかわらず、俺達をカバーするほぼ肌といっても過言ではないほどの際どいチャイナドレスを身に纏った紫色の髪と瞳にそしてふわふわの耳と尻尾を持った美女。


 天狼族てんろうぞくの族長、グレイ。


「どっちが悪いとかどうでもいいんだが、早く始めないか?」


 冷ややかな目でそう言うのは、金色の髪と碧色の瞳に猫の耳と尻尾を持った人物。


 天貓族てんびょうぞくの族長、ヴィリィ。


「同意であります!遅れてるんですから早く始めるべきであります!」

「ぼ、僕もそう思います…」


 勢い良く手を上げてヴィリィに同調するようにそう声を上げるのは、銀色の髪と赤い目のうさ耳美少女。


 天兎族てんとぞくの族長、イーナ。


 椅子の上で縮こまりながらそう自信なさげに主張する茶色の髪と瞳の少年。


 天齧族てんげつぞくの族長、アルウス。


「いやいや、ここは遅れてきたことへの謝罪はするべきでしょう?謝罪もできないなんて、獣以下でしょう」


 メガネをクイッと上げてそうイナリに謝罪を求めるのはスリーピーススーツを着た黒髪の青年。


 天翼族てんよくぞくの族長、ミネル。

 

「………」


 その様子を無言で腕を組み、深く椅子に腰を掛けて眺めている白い熊。


 天熊族てんゆうぞくの族長、テルア。


 そんなわけで、このギスギスとした八種族が三層の防衛担当というわけだ。


 ちなみにこの八種族は全て安価で選ばれた種族である。マーモットが選ばれたときは流石に無理だろと思ったが、ちゃんと齧歯類の分類があったことには驚いたものだ。


 ちなみに、この三層は二層とは比べ物にならないほど広い。


 天使の数は一種族平均五百人を超えていて、多い種族は千以上、合計の数は数千は優に超えている。


 しかも意思疎通のできる大天使が条件のため、この三層にかかった費用は数億DP。


 小さな国と言っても過言ではない程である。


 二層の防衛が四名ということを考えても桁違いだということがわかるだろう。


 さて、ここで疑問に思ったはずだ。そんな大量のDP、どこから生まれたんだ?と。


 俺が貯められるDPは1,000,000DPのはずではないかと。


 当然それは変わらずだが…これを見てもらおう。


──────────────

DP︰85,000,000

FW︰1,250,000

『召喚』『調整』『交換』

──────────────


 うん…とんでもない事になってるんだよね!


 これに気がついたのは大地の試練から帰還したその日の夜であった。


 信仰心を奪う。ルエルの説明していた話の意味をそのとき理解した。


 手に入ったDPは5億くらいだったか?


 ただ、今の所DPは減る一方で、この二ヶ月の間は一度も増えていない。つまり上限は変わっていないというわけで、日々もらえるDPが勿体無いのでこうやって三層に大半をつぎ込んでいるというわけだ。


 こんなにも数が多いと無理ゲーでは?と思う者たちもいるだろうが、そこは安心してほしい。彼らは自分たちの縄張り以外にはあまりに外に出ないのである。


 天兎族と天猿族と天翼族は積極的にこの荒廃した街を駆け回っているようだが、それを躱しながら進めばクリアできる位置関係にはなっている。


 とは言ってもそんなことを知らない人々がそれを理解するのにどれだけの期間が掛かるかは不明だが…

 

 探索者の進捗は、少しずつ二層も最深部に近づくものが増えてきている。そろそろクリアも目前という者もいた。


 そのため、探索者をどう扱うかを決めようと今回彼らの会議に参加したのだが…見てもらってわかる通り、この八種族はとても仲が悪いのである。


 天熊族以外は各地で殺し合ったり、他の種族の縄張りに侵攻したりするレベルだ。


 まぁ、死んだ天使は3日後何事もなかったかのように復活するので問題はないのだが。


 とはいえ、ただなんの意味もなく争い続けていてはキリがないので、一月に一回、全種族の族長が集まってこういった会議を開催するということになっているのだ。


 会議では、縄張り争いによって変化した縄張りの確認や、討伐数によって勝敗をつけたりするのだが…


「これだからサルは…天族になっても人間以下の知能なんて、可哀想としか言いようがありませんです」

「なんだとクソウサギ!!テメェら」

「確かに、叫ぶことしか脳のない猿には同情しますね」

「あらあら?今月一番殺されたNo.1の鳥さんがそんなこと言えるんですかぁ?」

「僕は…」

「………」


 いつも通り、仲の悪い七種族の言い争いから会議は始まる。天熊族はその争いを静かに目を閉じて聞いていた。


 そんな彼らを上座からルエルとともに眺める。


(長くなりそうだなぁ…)


 普通なら俺がやめろといえば彼らは一旦は落ち着くのだろうが、それはしたくない。


 その理由は彼らは実は純粋な天使ではないからだ。


 俺には純粋な天使か天使じゃないかは全くわからないのだが、フラムが言うには彼らは天族と言う部類で、神に創られた天使ではなく、獣から天使へとなった者たちらしい。


 つまり、彼らはもともと獣であり、種族によって生き方がある。


 神の命令を執行するためだけに生み出された天使とは最初から違うモノなのである


 そんな彼らを命令によって無理やり縛るのは、あまりいいことではないだろう。


 俺はアットホームな職場を築いていきたいのだ。


 まぁ、この景色はそこまで良いものではないので、どうにかしたい気持ちもあるが…どうしようか?


 そんなことを考えていると、隣に立っていた少女が、1歩前に出る。そして…


「静かにしてください」


 左手の構えられた黒く長い筒から、膨大なエネルギーが解き放たれた。




──────────────────────

以下、特に本編に関係のないあとがき


ある程度物語に合わせるため改変があります。ご了承ください。

(名前や外見、服装など)


多少物語に影響するキャラと影響しないキャラの差はありますが、そっちも許してください。使いやすいキャラと使いにくいキャラがあるんです…

階級については全部一緒だとおかしいなと思っていい感じにバラけさせました

ちなみに実力に階級は関係ありません(←ここ重要)


あ、泣きながら半分くらいは自分で考えました。

やっぱり話数が多くなるごとに離れていく読者も多い…そう実感します。離れてゆく彼らの心をつかむ話を書かなければ…!


狐っ娘は申し訳ないですが枠が埋まっていて、他はできるだけ読者様のご意見を採用しました。

とはいえ種族はほぼ私の考えていた案と同じだったのでイナリちゃんメインの話で使うかもしれません


採用された方でこの子にはこんなことしてほしいと思うことがあればぜひ感想でご意見よろしくお願いします。

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