黒猫と魔女のお店
鈴音
前編
ある日の帰り道、友人と喧嘩し、憂鬱な気分のまま歩いていた時のことです。
その日は、いつもと変わらず他愛ない話をしていたはずなのに、どっかから急に論点が変わって、お互い言いたいことを言ったせいで喧嘩になっちゃって、気づけば私は友達のところから走って逃げていました。
きっと、あの子は悪くない。私が、なにか変なこと言ったんだろうなって、それはわかっていました。でも、だからって、すぐ仲直りできるとも思えませんでした。
だから、明日からどんな顔してあの子と会えばいいんだろうって困っていた、その時です。
視界の端に映った、黒い影。ふんやりと動いたそれが、何故かとっても気になって。
私は、その影を無意識のままに追いかけました。
普段は通らない、住宅地の狭い裏道を何回も何回も抜けたその先に、ぽつんと怪しげなお店がありました。
看板には、「黒猫と魔女のお店」とあって、その横に「猫の手お借しします」と、書かれていました。
その店の前にいたのは、一匹の黒猫で、どうやらさっきの影の正体はこの子だったようです。
正直、こんな怪しいお店には入りたくないと思ったけど、さっきまで曇りだった空から、急に大粒の雨が降ってきたことと、突然店の扉が開いて、黒猫が入口の所に立ってこっちを見つめていたことが気になって、意を決して、入ることにしました。
窮屈な店内には黒い布で隠されたたくさんの棚があって、黒猫の後を追って歩くたびに、嗅ぎなれない変な匂いがつんと鼻の奥を刺激しました。
ぐるぐると棚と棚の間を歩き回り、そして最後に急な階段を、手をつきながら登って行ったその先に、一人の女性が座っていました。
黒猫が短く鳴くと、その女性はこちらを向いて、猫を抱きかかえながら話しかけてきました。
「ようこそ、黒猫と魔女のお店へ。私は、ここの店主のマウ・アスワドゥ。お困りごと、お願いごとがあれば、何でも言ってください。猫の手で出来ることまで、お手伝いします」
招き猫のように、丸めた手を差し出したマウさんは、猫のように細めた目で、私をじっと、見つめてきました。
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