第13話 岩塩

 ガルドが手持ちに余裕があるときは、毎回塩を買っていっていた。

 それから北の洞窟のゴブリンも同じように塩は使っているようだった。

 北の洞窟の岩塩も少し分けたのだが、塩の在庫がそろそろ乏しい。



「みんな、今日は岩塩を採りに行く」

「ゴブゴブ」

「はいぃ」

「グレアも行っていいの?」

「ああ、もちろん」

「やった!」


 大勢、この前の戦士、十五名ほどがルフガルを出て途中で北のバッダグ洞窟に寄っていく。


「俺たちは塩を採りに行くが一緒に行くか?」

「グフグフ」

「それはいい、行きますべ」


 とまあ話がすぐついて、バッダグ洞窟の連中も連れていく。

 エルへレス森の中を進んでいき、北のベレリスト山に到着した。


「ギャアアアア」

「んだんだぁ、ワイバーンの咆哮だ」

「うわああ」

「もう終わりだぁああ」

「まぁまぁ、ファイア」


 俺たちが武装の火魔法の棒を何本か空中に向かって攻撃すると、さすがのワイバーンも逃げていった。


「ふぅ、助かっただべ」

「怖かぁ」

「もう、おっちんじまうかと」


 まあ何とかなった。

 森林内はまだいい。

 とまあこんな感じに岩塩の採掘場へ向かう山道は命がけなのだ。

 木が途絶えて、地面が露出しているところを歩いていくので、空から見たら丸わかりなので、こうしてワイバーンが遊びに来る。

 あいつらも暇なのかもしれない。

 上位捕食者はお腹いっぱいにイノシシとか獲って食ってるのだろう。


「よし、到着。今回は犠牲者ゼロだ」

「やったな」

「やっと着いた」


 新品のナイフを使って岩を四角に削りだりしていく。

 定期的にやっているから慣れているが、前はボロボロのナイフだったので今回はだいぶやりやすい。

 背負えるように一キロぐらいの塊にしていく。


 不思議なもので上と下の層は茶色だが、この層の部分だけ分厚く白くキラキラしている。これ全部塩なのだ。


「よし。とれたべ」

「おおお」

「帰るべ。帰るべ」

「こんなおっかない所はさっさといくべ」

「んじゃ、帰りまーす」


 長である俺の合図で、山を下る。

 ワイバーンも上空で旋回しているようだが、さっきの火魔法の棒を警戒しているようで、近づいてはこない。

 やっぱり遠距離武器は持っているとこういうとき役に立つ。


 グレアは文句も言わず、見るものすべてが珍しいのか、キョロキョロしていたがワイバーンに岩塩、そして山の上から見える遠くまでの景色と勉強になるだろう。


「ほら、あの遠くにある壁、人間の町マーベルス町だ」

「マーベルス町」

「ここら一体を支配しているマーベルス侯爵の町だ」

「へぇ」


 グレアに人間社会、貴族などがいると言う話をすると、目を輝かせていた。


「え、もしかして長もエライんだら、貴族になれるかな?」

「ゴブリン村が人間の町村制度に参加することになるならそうだな」

「ふーん。そういう予定はないの?」

「今考え中」

「そっか」


 途中、バッダグ洞窟に寄ってからルフガル洞窟へと戻ってくる。


「塩を持って帰ってきたぞ」

「おおおおお」

「なんと犠牲者ゼロだ」

「やったあ、うおおおおお」


 塩も持ち帰ると、宴がはじまった。

 みんなで火を囲んで歌って踊り出す。いつものあれだ。

 まったくいつも飽きずによく踊るもんだ。


 それだけ岩塩の採掘は危険だと言う意味でもある。

 今まで、何回も犠牲を出してきた。対抗措置として人員を増やして大勢で作業するようにはしていたのだ。

 今回は装備も強化してやっとのことで被害ゼロという実績を残せたことになる。

 今までも運よく被害ゼロのことはあったものの、今回は運だけではない。今度からこれが当たり前になるはずなのだ。



 さていつもより多く塩を採ってきた。


「ガルド、塩いっぱいあるぞ」

「助かる。人間の町はたくさんあるからな、塩はいくらあっても足りない」

「そうか。犠牲もゼロにすることができるようになった。これからはちょくちょく採りに行く」

「そうして欲しい。頼んだ」

「ああ」


 塩の層は砂の非常に少ない綺麗な岩塩だ。

 本当はこれを一度、水に溶かして製塩をすると完璧なのだが、ゴブリンでは人出も足りない。


「まあ、岩塩のままでも十分だしな」

「製塩は面倒だからなぁ」

「そうなんだよ」


 そりゃ完璧な真っ白な塩なんて高級品だ。

 だが村人がそんないい塩が欲しいといっているわけでもないしな。

 領主くらいか?


「特注ということで領主向けに作ってみるか?」

「ああ、いいな」


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