寂しいわすれもの

こたこゆ

それはなに?

 その“わすれもの”があったのは


 それはいつかの 電車の中に

 ポツリと手すりに かかった傘は

 もう外の雨も 止んでいて

 ビニールに ついた雫も 乾いていた

 だあれも それを助けよう とは思わない


 かく言う自分も どうしようとも 思わない



 それはあの日の 音楽室

 楽器と一緒の 楽譜ファイル

 持ち主の 3年間は 終わっていて

 楽器らも 新しい 誰かのものに なりかけて

 いつまでも それを彼女は 取りに来ない


 かく言う自分も なあにも できはしないのに



 それはだれかの 心臓の中

 茶化しふざけて 言えなかった 気持ち

 道はもう 交わることは なくなって

 あの人が こちらを向く こともない

 どこかに それを置いて いくしかなかった


 かく言う自分も ひとつも支えて やれなかった

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