ep6. 仲間を探せ会議
控えの間に戻ったカナデは、椅子に座って思いっきり頭を後ろに仰け反らせた。
(緊張した! 人生で一番かってくらい、緊張したー!)
脱力しまくっている奏に、マイラが水を差し出した。
「お疲れぇ。何にも覚えて無い割に頑張ったじゃん」
水を受け取り、一気に飲み干す。
「あのゲームのお陰だよ。ゲームの中にも、王様に謁見するシーン、あっただろ。あれを思い出して、台詞とかマルパクった」
自分でも、よくあれだけ流暢に話せたと感心する。
セスティがカナデの肩に手を置いた。
「すまなかった。結局、カナデにオメガ献上の件を飲ませる運びになってしまったね。俺がもっと巧く、話を持っていけたら良かったんだけど」
「セスのせいじゃないよ。あの場じゃ、飲むしかなかったよ、どう考えても」
貴族連中の反応を思い出すと、他に方法など思いつかない。
少なくとも、あの場では最善だったと思う。
リアナとマイラが顔を合わせて微笑んでいるのが見えた。
何となく、首を傾げる。
「ふふ。記憶がなくても、やっぱりカナはカナのままねって、思っただけですわ」
リアナが嬉しそうに笑う。
最推し令嬢が可愛く笑っている姿は、なんだか嬉しくなる。
「私たちはね、カナを只の献上品にする気は無いのだよ」
マイラが得意げな顔をする。
セスティが力強く頷いた。
「国王陛下の前では、ああ言ったが、打開策は模索しているんだ。次の『儀式』に挑める我々でなければ成し得ないからね」
「ですから、迅速に話し合いたいのですわ。それに、キルリスやジンジルの居場所も探さなければなりませんもの。早くアルを起こさなければいけませんし、忙しくなりますわよ」
カナデの手を握るリアナは、とても嬉しそうだ。
「そう、だな。ところでさ、次の儀式って、何時なの?」
急に照れ臭くなって、違う話題を振り、わざと目を逸らした。
さっきのローリスの話では、神様が啓示した三年後は、今年だと言っていた。
逸らした先でセスと目が合った。
「約半年後だよ。今が四月で、儀式は十月だ。だから少し、焦ってもいるんだ」
セスティが、さりげなくリアナの手をカナデから引き離す。
大変不服な顔で、リアナが恨めしそうにセスティを睨みつけた。
「この二年、マイがカナを探してくれている間に、俺とリアはキルとジルを探していたけど、一向に見つからない。特にキルは逃げている節がある」
「逃げてる? セスから?」
セスティが考え込んだ。
「俺からというより、王都から、というべきかな。魔力の反応がどんどん離れていっているんだよ」
セスティの話に違和感を覚えた。
(逃げるかな、あのキルが。ゲームの中で、一番『儀式』に疑問を抱いていたのは、キルだ。もしかして何か、探してる?)
ゲームの中では、『儀式』に参加するために王都にやってきたキルリスが、仲間になるべく自分から主人公に接触してくる。
大精霊と人の間の子である彼は、神様の正体が自分と同じ精霊ではないかと疑っているのだ。
『だとしたら、かなり横暴だと思わない? 神様じゃなくて、人の方が』
あのキルリスの台詞は、カナデの心に強く残っていた。
「なぁ、鈴城……じゃなくて、マイラ。あのゲームの内容って、どこまでこの世界とリンクしているんだ?」
マイラが半目の半笑いでカナデを眺めた。
「恥ずかしそうにマイラって呼ぶカナが面白い」
「じゃぁ、ずっと鈴城のまんまでいいか?」
正直、カナデとしては鈴城の方が呼びやすい。
不貞腐れた顔をして見せると、マイラがぷぷっと笑った。
「それは嫌だにゃぁ。ゲームの内容は、なるべく事実を組み込んであるよ。キャラの性格も本人に近い作り方してる。さすがに全部ではないけどねぇ」
「なら、充分、参考にしていいってことだよな」
二人の会話を聞いていたリアナがうずうずした様子でマイラに迫った。
「ねぇ、その乙女ゲェムというもの、私もやってみたいですわ。皆が出てくるのでしょう? とても面白そうですもの」
キラキラした目で迫るリアナを、マイラが遠ざけた。
「あー、リアはプレイしても楽しくないかもね。あれ、カナが楽しめるように作ってあるから」
「どうして私では、楽しくないんですの? カナが楽しいのなら、私もきっと楽しめますわ」
マイラの言わんとすることは、わかる。悪役令嬢役で自分が出てくると知ったら、リアナは怒りそうだ。
「そもそも何で乙女ゲだったのかが、俺的には気になるんだけど」
「記憶を失くしているかもしれないカナに情報を伝えるためだよぅ。乙女ゲって性格とか世界観とか伝えやすいから。あーでも、BLゲーのが良かったか」
ニンマリと笑われて、何も言えなくなる。
確かにオメガバースなこの世界なら、そっちの方が助かったかもしれない。正直、BL系はあまり知識がない。
(でも、運命の番くらいは知ってるぞ。セスがそうなら、本当なら俺はセスと結婚してるってことだよな)
男同士で結婚する姿が、全く想像できない。けれど、同じベッドに寝ていた時、あまりにも幸せで何もかもどうでもいいと思った、あの感覚は覚えている。
(恋愛に性別なんか、関係ないか。きっとゲームをプレイしていた時から俺はセスのこと、好きだったんだ)
自分の反応を振り返ると、妙に納得できてしまう。
ちらりとリアナを窺う。マイラと話をしているリアナの横顔は、やっぱり可愛い。
(でも、リアを好きだと思った気持ちも、本当なんだよな。今だって、リアに手を握られると照れるし、嬉しい)
自分の手を見詰める。さっき、何気なく触れたリアナの手の感覚が残っている。
(俺って浮気性? 二人とも好きとか、やっぱり最低?)
変なところで悩んでしまう。
(悩んでも、仕方ないか。俺は神様に献上される生贄なんだし。皆が何か考えてくれているみたいだけど。次は失敗できないんだから、いざとなったら食われる覚悟しとかないとな)
オメガを献上というのが、どういう意味なのかよくわからないが、何があってもいい覚悟だけはしておこうと思った。
「そういえばさ、マイラは何で俺が記憶を失くしているって知ってたんだ? ここからいなくなる時には、俺ってもう記憶なかったの?」
マイラがリアナと目を合わせた。
「カナの記憶が無いってわかったのは、日本に行ってからだよ。けど、可能性は考えてた。ジルが、そうだったから」
「ジルが? ジルの行方は、まだわからないんだろ?」
「実は、ジルとは一度、接触しているんだ。その後、また行方不明になってしまってね。彼は元々、知己でない者に対する警戒心が強かったから」
セスティの話には納得できた。
この国で敵う者はないとまで称された最強魔剣士は、無口で人見知りで、極度の方向音痴だ。
(ゲームでも道に迷っているジルを主人公が道案内してあげるのが、出会いイベントだったなぁ)
「確かジルが一番仲が良いのって、キルだよな。一緒にいたり、しないかな」
「可能性は、なくもないね。記憶が戻っていればの話だけど」
セスティの言葉に力がない。
どのみち、どちらも見つからないのでは意味がないと考えているのだろう。
「やっぱり、アルを起こすのが最優先だにゃぁ」
首を傾げるカナデに、マイラが説明してくれた。
「アルは、ちょっとすごい精霊と契約してる魔術師なんだよ。精霊を介せば、キルの居場所がわかるかもだにゃ」
確かにゲームの中でも、結界師で精霊術師という肩書だった。皇子様は現実でも強キャラ設定であるらしい。
「そうだね。カナも帰ってきたことだし、明日はカナにアルの状態を診てもらうのも、良いね」
頷くセスティに、カナデは控えめに一言添えた。
「俺、何もできないよ。まだ魔力とかよく分からないし、魔法の使い方も思い出せない」
「明日はただ、アルを診てくれれば、それでいいよ」
「それじゃ、役に立たないだろ。何か一つくらい、出来ることがあればいいけどさ」
セスティがカナデの肩に手を添える。
「焦らなくても、俺たちが傍にいれば、きっと思い出す。思い出さなくても、カナなら使えるようになるよ」
セスティの優しい眼差しと手の熱が嬉しくて愛おしくて、カナデは自然と頷いていた。
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