第4話
[選択.1 強盗ではないと落ち着いて説明する]
[選択.2 睡眠スプレーを使用する]
選択肢は2つだけだった。不思議にも選択ウインドウが現れると、腕だけは動かすことができた。2つの中から選べということのようだ。それなら悩む必要はない。どうせ選択肢1は不可能な話だ。侵入者の話を落ち着いて聞いてくれる人がどこにいるだろうか。
だから2番に指を持って行った。すると、止まっていた世界がすぐさま動き始めた。そして、本来、読み込もうとしていた[アイテム]が目の前に現れる。
[睡眠スプレーを使用しますか?]
ウインドウをタッチして彼女を見つめた。すると、桜井(さくらい)は目を閉じるとそのまま倒れてしまった。近くに駆けつけて顔に耳を近づけると、規則的な呼吸音が聞こえてきた。眠りについてしまったとみるのが妥当だろう。
すやすやと眠ってしまった彼女。
それを見ると、急に性欲が暴れ出した。
家の中には俺と彼女だけ。彼女は1時間くらい起きられない状況だ。再び胸が揺動(ようどう)し始め俺を苦しめた。
ホットパンツとTシャツ。ラフな格好で眠っている彼女の太ももに自然と目が行った。唾をごくりと飲み込んだ。無防備な女性が目の前にいる。ぷりぷりした太ももと突き出た胸を触ってみろという悪魔の囁きが聞こえた。
ここへ来たのも、男女の行為が攻略条件なのかを調べるためだった。ならばこれ以上ためらう必要もないではないか。ゲームがそうならやるしかないだろう。
そうやって自分自身を合理化すると、急にまた世界が止まってしまった。白いウインドウが現れて2つの選択肢がでてくる。
[選択.1 このまま襲いかかる]
[選択.2 俺は紳士だ。ここでやめて家の中をチェックする]
その瞬間、2番は目に入っても来なかった。すでに指は反射的に選択1に向かっている。そしてタッチした。すると白い光の世界が消え、身体が自由になる。
俺は選択肢通り彼女の上に乗り体を重ねた。しかし、その時異変が起こる。
急に玄関のドアが開き、警察が押し寄せてきたのだ。俺は魂が抜けた顔でぱちぱちと瞬きをした。
「動くな! お前を強姦(ごうかん)、強盗現行犯で逮捕する! 弁護人がなんとかかんとか……。」
一番前の警察官が声を張り上げ、たちまち状況は整理された。俺は現行犯で逮捕された。手には手錠をかけられ、そのまま犯罪者になりパトカーの後部座席に放り出された。
セックスが攻略条件なのかどうかはわからない。しかし、無理矢理に襲いかかるということは許されないことだけは、切実に悟ることができた。俺は生まれて初めて乗ったパトカーの後部座席でため息をついた。
とにかくこのままでは駄目だ。俺は指を動かし[ロード]をタッチした。
[ロードしますか?]
世界が再び白く変わると最初に[セーブ]した家の中に戻ってきた。10時30分22秒に。もしさっき実験で[セーブ]をしていなかったら[ロード]地点がなく、どうすることもできないまま警察署に連行されなければならない状況だった。恐ろしい現実に俺は身震いした。
急に現れた警察は俺がゲームのルールからはみ出ようとすると現れる、強制力のようなものではないだろうか。
俺はチェックしてみるつもりで、とりあえず [状態]に入った。
長谷川 亮
年齢:25歳
職業:ニート
体力:55
魅力:12
所持金:3,808,930円
経験値:0
所持金が著しく減っていた。アイテムに使用した95万円と[ロード]をするために使用した5万円が消えていた。しかし[セーブ]をしたこの時点は、まだアイテムを買っていなかった。しかし、95万円が消えている。
俺はすぐさま [所持アイテム]をタッチした。
[現在所持しているアイテムはありません。]
アイテムを買う前に [セーブ]をしたから当然[アイテム]は全部初期化。
しかし、一度使用した所持金だけは再び回復しない、そんなシステムのようだ。
プレイヤーにはあまりにも不利な条件だ。
-はぁ……。
ため息をつきながらゲームウインドウを目の前から消そうとした時、追加されたウインドウがあることに気づいた。
[残り時間]というウインドウだった。いつ出来たのだろう。明らかに最初はなかったウインドウだったのに、急に出現した。何だろうと思い、とりあえず指を持って行った。するとメッセージがポンッと現れた。
[残り時間 : 8755時間 ]
[経過時間 : 5時間 ]
[残り時間内に完全クリアできなかった場合、あなたの本来の身体は死亡します。 ]
そしてその内容は俺を驚愕(きょうがく)させた。恐怖感が全身を支配し始めた。命がかかっているから必死にやらなければ殺すという鉄槌を下すような知らせだった。完全クリアをするには一体どうすればいいのだろう。ゲームの攻略条件さえ説明してくれないくせに完全クリアしろとは。
人の命を担保(たんぽ)に取るとはあまりにも横暴すぎる。
それに[ロード]に戻ったとしても、残り時間はそのまま流れるようだ。眠りから覚め、この状況を理解し、パトカーで[ロード]して再び戻って来てから、ちょうど5時間が過ぎていた。もしセーブをしていなかったらそのまま警察に連れて行かれ、刑務所で8755時間を過ごし、そのまま死んでいたかもしれない。
気を引き締めて俺が処された現実を直視した。時間を超過したら死ぬというのは本当だろうか。アイテムの絶大的な能力をみるとどうやら本当のようだ。俺をこんなゲームの世界に追いやったやつらは全知全能な能力を兼ね備えているのだろう。俺は神々の遊びに陥(おちい)ってしまったのかもしれない。従って、クリアできなければ死ぬという文句を無視するのは不可能だった。結局はずっと身体を張って攻略方法を1つずつ探し出し、クリアするしかないということだ。
とても恐ろしいゲームの中に吸い込まれてしまったようだ。正直怖かった。しかしこうしている間も時間は流れていく。現実に順応するしかなかった。与えられた現実に。
俺はウインドウをタッチして再び [アイテムショップ]を読み込んだ。
[Lv.1スカウター 10万円 ]
[睡眠スプレー 25万円 ]
[万能キー 60万円 ]
[カメラ 10万円 ]
[外車 5千万円 ]
[国産車 8百万円 ]
今回はむやみに全ての[アイテム]を購入するような考えはしなかった。俺はアイテムを購入するかどうかを真剣に悩んだ。悩んだ末[睡眠スプレー]と[カメラ]は、一旦保留することにした。今すぐ使う予定はない。後で必要になった時に買えばいい。だからパス。
次は万能キーだ。勿論、使い道はあった。しかし万が一、万能キーを使用して家の中に潜入しただけでまた警察が押し寄せてきたら無駄に60万円を浪費することになる。
ただ、[万能キー]にある回数制限もどうもひっかかる。6回という微妙な回数。策略アイテムには回数制限があるはずがない。便利なアイテムだけに、乱用できないように制限をかけておいたのだろうか。
女性を襲おうとしたため、警察という強制力が発生したようで、ドアを開けて入るだけでは強制力は発生しないようだった。そうだとしたら[万能キー]の回数制限は本当に無意味だ。家に侵入しても女を襲うことはできない、正に使えないアイテムだった。
しかし、どんなドアでも開けることができるという点はやはりかなり魅力的だった。どこかに潜入したり逃げたりすることがある時なら有効に使えるようにみえる。そこまで考えるとやはり[万能キー]を無視するにはメリットの方が膨大だった。そんな理由で再購入を決めた。
[万能キー 60万円購入しますか?]
金額に少し躊躇(ためら)い、深いため息をつきながらウインドウをタッチした。俺は60万円を消費すると[所持アイテム]に入り、万能キーを読み込んでみた。
[万能キー]
[どんなドアでも開けることが出来ます。]
[希望するドアの前に立ってウインドウをタッチすれば使用可能]
[使用回数: 5回]
- 再購入をしても回数は変わらない。
- レベルが上がると再購入による回数の回復が可能。
使用回数を確認するためだった。予想通り、使用回数は6回から5回に減っていた。どうやらこのゲームは [ロード]をしても重要なアイテムの数値は回復しないと理解した方がいいだろう。
アイテムを購入したため、俺は直ちに [セーブ]を更新した。
[セーブ]をしないまま、さっきのようにせっかく購入したアイテムを手放すわけにはいかないから。
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