第6話 新天地へ

 私たちのアラムドラム帝国への移住は、とても順調に進められた。


 予定通り両親の説得を行い無事に成功して、王家や他貴族などに察知されないよう秘密裏に準備を進めた。仲介役の人物は帝国での根回しを進めてくれて、とてもスムーズに話が進んだ。帝国内での足場固めと各所への情報通達、前もって評価を高める工作を念入りに行い、私たちは大歓迎された。


 帝国内での役職も用意されていて、それだけの働きを期待されていた。ある意味では大きな責任を背負わされる大変な立場を与えられたが、その分やりがいもあった。援助もあるので生活に困ることもなく、私たちは帝国での生活を始められた。


 各々の貴族家が王国には代役を置いて、メインの活動は帝国で。これからは帝国に忠誠を尽くし、実績を積んで地位を確立させていく予定。帝国では新興貴族としての再スタートになるが、かなり優遇された状態からなので苦労も少ない。




 婚約破棄を告げられた者たちに、新たな暮らしを用意する。私の仕事は、これで完了した。大満足の結果である。しばらくは落ち着いて、徐々に存在感を消していき、最終的にはひっそりと暮らしていく。家の財産を減らさないように気をつけながら、平穏な人生を過ごしたいと考えていた。


 貴族の娘としては、そういう考え方は良くないかもしれないけれど。もっと大きな野望を持って、家を大きくしていくように努力するべきなのだろうけれど。私には、そこまで野心はないのよね。




 色々な問題が解決して、帝国での暮らしにも慣れてきた頃。仲介役を務めてくれた人物に改めて感謝を伝えようと、彼の屋敷を訪れた。


 上級貴族だけが所有することを許されている屋敷を構える彼は、多忙な身でもある。私の訪問を迷惑に思われるかもしれないので、事前に手紙で訪問の旨を連絡しておいた。いつでも歓迎するという返事を受け取ったので、こうして足を運んだ次第だ。


 彼の屋敷は、黒を基調とした立派な門構えである。門番はいるけれど、来訪の目的は伝えてあるので特に止められることなく通してもらった。


「これはこれは。ようこそおいでくださいました、エレノラ嬢」

「ごきげんよう、ジャスター様。本日は、お時間を割いていただきありがとうございます」


 屋敷の玄関で出迎えてくれたのは、ジャスター様。わざわざ、私の到着を待ってくれていたらしい。そんな彼は、今回の仲介役であった。


 友好的な笑みを浮かべているジャスター様の歳は、まだ20代半ば。それなのに貫禄があって、いつでも落ち着いており、常に身なりも整っている。紳士という言葉がとても似合う男性だった。


「どうぞ、こちらへ」

「ありがとうございます」


 彼自ら案内をしてくれて、応接室まで通される。何度か彼と打ち合わせするために訪れたことがあるので、部屋の様子は把握していた。私はソファーに腰を下ろし、彼の屋敷の使用人が紅茶を淹れてくれるのを待った。


「どうぞ、おくつろぎください」

「とても美味しそうな紅茶ですね。ありがたくいただきます」


 私は紅茶を一口飲んでから、さっそく本題に入る。


「ジャスター様のおかげで、帝国への移住は順調です。貴方の協力がなければ、ここまで上手く事は運びませんでした。改めて、感謝を申し上げますわ」

「こちらこそ。エレノラ嬢のおかげで、私の帝国内での評価が一気に上がった。お互いに利益のある協力関係でしたよ」


 そう言って微笑む彼に、私も笑顔を返した。最初はビジネスライクな雰囲気があった私たちだけど、今では信頼し合える友人関係になっていると思う。


「王国から、優秀な人材を引き抜くことに成功した。これで、王国は大幅に弱体化する。皇帝からお褒めの言葉も頂いた。感無量だ。計り知れないほどの結果を得られた。これも全て、君のおかげだよ」

「それは何よりですわ。ですが、私の力じゃありません。実家や、友人も協力してくれたので成功したこと。本当に、みんなには感謝しております」


 私がそう言うと、彼も嬉しそうに頷いた。


「これからも、君とはいい関係を続けていきたいものだね」

「ええ、もちろんですわ」


 そんな会話を交わして、私とジャスター様は微笑み合った。お互いの目的のために手を取り合って行動してきた私たちは、今後も仲良くやっていけるだろう。利害関係が一致している間、この関係は安泰だと思う。

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