6 何にも無かった頃

その昔

おれは仕事もなく

学校にも行かず

行き所も無かった

おれはただ毎日を

虚しく生きて

何の楽しみも

生きる勇気も

希望も無かった


そんな時が

二、三年続いたが

それだけで

毎日が

苦しかった


ちょうど同じ時期に

おれの自宅の近所で

おれと同じように

仕事にも行かず

学校にも

通っている

様子もなく

毎日手ぶらで

一人で外を

出歩いている

若い男を

度々見かけた


そのあと

おれは仕事も見つけて

苦しいことや

辛いこともあったが

それなりに

楽しいこともあったし

嬉しい出来事もあった


あれからもう

二十年近くの

時が流れた


あの時から

毎日ブラブラ

一人で

出歩いていた

男は

今でもたまに

見かけるが

相変わらず

仕事にも

学校にも

行っている

様子もない


おれには今では

良い仲間も数人出来たし

これから将来の

楽しみも出てきた


でもあの男は

未だに良い仲間もいない

未だに何の楽しみも

将来の展望もなく

毎日一人で

ブラブラしながら

ただ鼻から

息をしている

それだけだ


人ごとながら

あんな生き方は

したくない


おれは何にも無い状態が 

二、三年続いただけで

もうイヤになった


あの男は

それが二十年以上

続いている


人ごとながら

あんな人生は

まっぴらだ

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