第42話 キンメル長官の覚悟

ーアメリカ太平洋艦隊旗艦・戦艦『ウェストバージニア』艦橋内ー


戦艦『ウェストバージニア』の艦橋内にいたキンメル達の元に、報告が来た。

「報告しますっ!!先ほど、ミッドウェーに現れた戦艦1隻により、ミッドウェーの燃料タンク施設、発電所、飛行艇基地、飛行場の滑走路が破壊されて、ミッドウェーの基地機能が失われたそうですっ!!」

報告を聞いたキンメル達は、言葉を失った・・・。


スミス参謀長は、

「馬鹿なっ!!1隻の戦艦で、ミッドウェーの基地機能が破壊されたなんて・・・!!」

そこで伝令兵が報告の詳細を伝えた。

「基地の報告によると、敵戦艦の全長は約300mくらいで、連装砲塔を4基搭載していたそうです。更に、主砲の口径は破壊力などから20インチ(50cm)ではないかと・・・。」

伝令兵の報告を聞いたキンメル達の表情は、蒼ざめた・・・。


ザワつく幕僚達を、キンメルが落ち着かせた。

「皆、落ち着きたまえっ!!真珠湾の惨状、ハルゼー艦隊の件、ミッドウェーの件も有るのは分かるが、まだ、我々が敗北したわけでは無いっ!!逆転勝利とまでは言わないが、敵艦隊に一矢報いたいと思う。皆の力を貸してくれっ!!」 

そう言って、キンメルはスミス参謀長達に頭を下げた。


キンメルの言葉と姿を見て、スミス参謀長達も落ち着きを取り戻した。

「長官、私達も取り乱して申し訳ございませんでした。長官の言う通り、敵艦隊に一矢報いましょうっ!!」

スミス参謀長だけでなく、マクモリス主席参謀達も、同じ様にキンメルに謝罪した。


キンメルは楽観視してはいないが、悲観的にはなってはいなかった。

(危機は同時にチャンスでもあるっ!かつてのネルソン提督やアドミラル・トーゴーみたいに、この危機を幕僚達と共に脱してみせよう!!)

キンメルの決意が表れているみたいに、彼の拳の握りは強くなっていた・・・。


こうしてキンメルは、アメリカ太平洋艦隊の全戦力を投入して出航した。

キンメルもまた、戦艦『ウェストバージニア』を旗艦にして、自ら指揮をする事になった。

その艦隊編成内容は、旗艦である戦艦『ウェストバージニア』を筆頭に、戦艦8隻、重巡洋艦6隻、軽巡洋艦1隻、駆逐艦25隻に加えて、正に『太平洋の王者』に相応しい大艦隊で、日本艦隊に一矢報いる為に出撃した。


キンメルがスタッフ達と共に『ウェストバージニア』の艦橋内にいる中、伝令兵が報告に来た。

「報告しますっ!敵艦隊発見と偵察中のカタリナ飛行艇から連絡が有りましたっ!!」

伝令兵の報告を受けたキンメルが「敵艦隊の規模は?」と尋ねると、伝令兵が戸惑っていた。

「どうしたのだ?分かる範囲で報告してくれ。」

キンメルに促された伝令兵が伝えた。

「敵艦隊は戦艦が8隻、重巡洋艦が4隻、軽巡洋艦が3隻、駆逐艦が9隻になります。」

スタッフ達が首を傾げる中、キンメルは再度、尋ねた。

「空母がいないだと?空母の行方は分からないのか?」

「はい。周辺には、いませんでしたっ!!」


報告を終えた伝令兵を下がらせて、キンメル達は協議した。

スミス参謀長は、

「空母がいないのが、気になりますが・・・。何か狙いが有るのでしょうか?」

それに対してマクモリス主席参謀は、

「艦隊勢力は五分五分ですが、相手が誰であろうと、我々で叩き潰しましょうっ!」

ハガティ航空参謀は、

「長官、やりましょう。ハルゼー提督達の無念を晴らしましょうっ!!」


キンメルが拭えない不安は、二つあった。

一つ目は、日本の空母が1隻も見つからない事だ。

そして、二つ目は、ミッドウェーに現れた巨大戦艦報告の事だ。

アメリカでも、日本海軍が新型戦艦を建造しているという未確認情報はあった。

断片的な情報によれば、新型戦艦の投入は早くても、あと1~2ヶ月先と言われていたのでミッドウェーに現れた『未知の巨大戦艦』を無視する事が出来なかったのだ。


だけど、幕僚達の一通りの意見を聞いた事で、決意した。

「よしっ!これから、日本艦隊を叩くぞっ!!艦隊針路をこの海域に向けろっ!!」

そう指示したキンメルの指先は、地図上のある『海域』を指していた・・・。


その頃、偵察隊の報せから、南雲達もキンメル艦隊の動きが逐一、報告されていた。

「遂に来たか・・・。草鹿、全艦に通達しろ。目的地はカウアイ海峡、そこでキンメル艦隊と雌雄を決するっ!!」

南雲の言葉を受けて、草鹿達も慌ただしく動き始めた。

(若大将が指揮する『土佐』の合流は、多少、遅れるが、キンメル艦隊相手に時間稼ぎをしてやろう・・・。)

内心で、南雲は腹を括った。


後に、『カウアイ海峡戦』と呼ばれる戦いの幕開けが刻一刻と迫りつつあった・・・。





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