第38話 『真珠湾攻撃サレル演習ニアラズ』

ー1941年12月8日 朝 真珠湾内ー


キンメル達が日本艦隊の索敵を始めようとしていた頃、湾内に停泊しているアメリカ太平洋艦隊の主力艦の甲板では水兵達が日課にしているモップでの掃除が始まっていた。


また、真珠湾の浜辺で日光浴をしている民間人達が何事も無く過ごしている。


一方、南雲の第一航空艦隊から放たれた第一次攻撃隊は、低空飛行で真珠湾に近付きつつあった。


ハワイ・オアフ島北端のカフク岬に展開するアメリカ陸軍第五一五対空警戒信号隊のレーダーに一瞬だけど反応があった事から、士官が、外にいた部下に確認させた。

だけど、異常は見当たらなかったので、彼等は上への報告をしなかった。


実際は、レーダーに反応したのは、間違いなく日本の攻撃隊だった。

しかし、キンメル達が陸軍の監視所に些細な事でも直ぐに報告させる旨の連絡を徹底していなかった為に、結果、報告がされない失態を作り出してしまった。


そんな中、ヒッカム飛行場に近付きつつあった『赤城』と『加賀』の攻撃隊は、いよいよ作戦を実行しようとしていた。

九七式艦攻に搭乗している攻撃隊長の村田は、コクピットのハッチを開けて上空に向けて『攻撃開始』を意味する信号弾を数発、放った。


信号弾が放たれると同時に、遂に始まったヒッカム飛行場への攻撃。

零戦隊による射撃が飛行場にいた敵航空機を次々と破壊して戦闘不能にしていき、九九式艦爆隊と九七式艦攻隊による爆撃で滑走路が破壊されていった。


ほぼ同じ頃、『飛龍』と『蒼龍』の攻撃隊も、ホイラー飛行場への攻撃を開始して、同じ様に敵航空機を次々と戦闘不能にすると同時に、滑走路も破壊していった。


そして、極め付けは、『翔鶴』と『瑞鶴』の攻撃隊が、燃料タンク施設へ次々と爆弾を投下していき、燃料タンクの爆発が相次いだ。

正に、現場は、『阿鼻叫喚の地獄絵図』と化していた・・・。


勿論、アメリカ側も一方的に攻撃された訳ではなかった。

ベローズとハレイワにも陸軍基地があり、ハレイワからの緊急出撃したP-40Bウォーホーク戦闘機が10機だけとは言え、第一航空艦隊から出撃した攻撃隊の一部に果敢に挑んだ。

結果、零戦1機、九九式艦爆3機、九七式艦攻1機を撃墜する事が出来た。

それでも、第一航空艦隊の攻撃隊にダメージを与えるまでには至らなかった・・・。


辛うじて、爆撃を逃れていた基地施設の建物から飛び出したキンメル達は、目の前の惨状に言葉を失った。

そんな彼等の上空を数機の零戦が通過していった。

翼に印された日の丸マークを見て、キンメル達は真珠湾が日本の航空攻撃を受けていると実感した。


やがて、第一航空艦隊が送り込んだ第一次攻撃隊は、母艦への帰途についていった。

勿論、キンメルは、また日本の航空攻撃があるのを確信した。


そんな中、キンメルは近くにいた兵士に命じた。

「今すぐに、平文で良いから本国に打電してくれ、『真珠湾攻撃サレル演習ニアラズ』とな・・・。」

慌てて通信室に兵士が向かった後、キンメルは湾内を見回した。


そこで、何故か、艦隊は攻撃されていないのに気付いた。

敵の思惑は不明だが、艦隊を見てキンメルはスミス参謀長に告げた。

「今すぐに、艦隊に向かい、出航しよう・・・。目標は、真珠湾を攻撃している日本艦隊だっ!!」


キンメルの様子を見たスミス参謀長達は、未だにキンメルの心が折れていないのを実感した・・・。


そして、間もなくして第一次攻撃隊と入れ替わりに、第一航空艦隊が放った第二次攻撃隊が爆音を響かせながら、真珠湾に迫りつつあった・・・。

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