第30話 第一次攻撃隊、発艦せよっ!!

ー1941年12月8日 ミッドウェー島近辺ー


日付が変わり12月8日夜明け前、遂に第二航空艦隊は2隻の空母『エンタープライズ』と『レキシントン』への攻撃可能範囲に迫りつつあった。

12月7日の夕刻に6隻の空母から発艦していた索敵隊により、空母『エンタープライズ』と空母『レキシントン』の現在位置が特定出来ていた。


索敵隊の情報からミッドウェー近辺で、『エンタープライズ』と『レキシントン』が合流する事が判明していた。


いよいよ、洋上を移動中の艦船を初めて航空攻撃のみで撃沈する機会が訪れようとしていた。

勿論、6隻の空母の搭乗員達の士気も最高潮に達していた。


そんな中、淵田が遠藤に出した『条件』が到来したので、特に淵田のテンションは搭乗員達の中ではトップクラスだった。

そんな淵田に遠藤は声を掛けた。

「淵田。」

淵田は遠藤の話を聞き終える前に念を押した。「長官、まさか、出撃は認めないとは言いませんよね?」

遠藤は苦笑いしながら否定した。

「お前との約束だし、そんな事を言ったらお前を尊敬する搭乗員達によって、俺が簀巻きにされた挙げ句に、海に捨てられてしまうのは御免被りたいから、安心しろ。」

淵田は安堵しながら、

「それを聞いて、安心しました。それなら若大将は何の話で?」

と遠藤の話の続きを聞いた。

遠藤は少し茶化すような表情で話した。

「今後もお前達には戦って貰うから、命は無駄に落とすなよ。俺は人使いが荒いからな。」


淵田もそれに答える様に、

「勿論やっ!!パイロットとしてだけでなく、航空乙参謀としても存分に働きまっせ!!」

そんな淵田に遠藤はもう一つの厳命をした。

「淵田の艦攻隊の攻撃目標は空母『エンタープライズ』だな?ならば、攻撃が成功した後も確実に『エンタープライズ』の最期を見届けてくれ。」


淵田は遠藤のもう一つの厳命に首を傾げた。

遠藤は更に言葉を続けた。

「ある程度、魚雷や爆弾が命中しても、見た目の雰囲気で撃沈と誤認したら、後々の作戦や戦略などに影響してしまうからな。」

それを聞いて淵田も納得した。

「ならば、カメラを持参してハッキリと『エンタープライズ』の最期を撮影して長官に提出しますよ。」

それを聞いた遠藤は淵田に、

「頼むぞ、淵田。」と満面の笑みを浮かべながら言った。


淵田が空母『大鳳』に向かい、第一次攻撃隊の発艦準備が進む中、鼓舞がある提案をしてきた。

「若大将、Z旗を掲げましょう。」

Z旗は、1905年の日露戦争時で日本海海戦の際、連合艦隊司令長官の東郷平八郎は、トラファルガー海戦の信号文「英国は各員がその義務を尽くすことを期待する」に倣い、「皇國ノ興廢此ノ一戰ニ在リ、各員一層奮勵努力セヨ」という意味を持たせたZ旗を旗艦「三笠」のマストに掲揚した。日本海海戦の逸話以降、日本海軍ではZ旗は特別な意味を持つ事となっていた。

鼓舞から提案されて、勿論、遠藤も賛成した。

「そうだな。直ちに、『土佐』にZ旗を掲げろっ!!」


そして、1941年12月8日午前4時00分、『土佐』にZ旗が掲げられた中、第六航空戦隊、第七航空戦隊、第八航空戦隊の各空母の飛行甲板上では、零戦:96機、九九式艦爆:84機、九七式艦攻(雷装):72機、九七式艦攻(爆装):72機で合計324機が、発艦命令を待っていた。


「若大将、いつでも発艦可能です。」鼓舞の報告を受けて、遠藤は頷き発令した。

「第一次攻撃隊、発艦せよっ!!」


この発令によって、日本海軍上層部にとっては大きな方針転換日となり、逆にアメリカ側にとっては地獄の一日が幕を開ける事になった・・・。

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