第28話 『パールニ方舟ハオラズ』

ー第一航空艦隊旗艦・空母『赤城』艦橋内ー


択捉島・単冠湾から出航して真珠湾を目指していた第一航空艦隊旗艦・空母『赤城』の艦橋内にも、野村達よるアメリカへの宣戦布告に関する記者会見が行われている事は、無線や放送が傍受されていた。


「しかし・・・、若大将の考えが、ここまで面白いくらいに展開しているな・・・。」

そう言って、南雲は苦笑いした。

それは、草鹿と源田も同じ気持ちだった。

「いやはや、ここまでくると、笑うしかないですね・・・。」

「正直、彼は戦場よりも政治の舞台が似合っていますね・・・。」

彼等は、遠藤から話を聞いた山本を通して、南雲達にアメリカへの意趣返しと、陸軍に対しての楔を打ち込む事を聞かされていた。


そして、南雲達は『もう一つの情報』を待ち続けていた。

それは、遠藤が築き上げていた情報網から、作戦実行時、真珠湾にアメリカの空母がいるか否かの連絡がくる事になっている。


空母がいるか否かで、第一航空艦隊と第二航空艦隊の攻撃目標が変わるからだった。

空母がいた場合は、第一航空艦隊の目標は、ホイラー飛行場とヒッカム飛行場で、第二航空艦隊の目標は、基地施設と燃料タンク施設になっていた。


ただ、湾内のアメリカ太平洋艦隊は、最初の攻撃段階からは外されていた。

遠藤曰く、

「湾内の水深は浅いから、せいぜい、大破着底が御の字です。その後で引き揚げられて、此方の長門型や伊勢型の様に強化されるのは、正直、御免被りたいです。」

との事だった。

だから、艦隊は真珠湾を出航させて、水深の深い海域で戦艦または航空攻撃で叩いた方が良いと言うのが、遠藤の考えだ。


実際、第一航空艦隊には、高速戦艦として改装された『伊勢』と『日向』も加わっている。

同じ第一航空艦隊に配備されている『霧島』と『比叡』を合わせたら戦艦は4隻。

そして、第二航空艦隊は『土佐』、『長門』、『陸奥』、『金剛』、『榛名』の5隻がいる。

絶対ではないが、艦隊戦でも戦える事が可能になっていた。


そんな中、一人の伝令兵が艦橋内に駆け込んできた。

「どうした?」南雲の問いに、伝令兵が答えた。

「たった今、真珠湾にいる諜報員からの電文ですっ!!内容は『パールニ方舟ハオラズ』ですっ!!」

電文の中にある『方舟』は、勿論、空母を指していた。

電文内容を聞いた南雲達は、引き締まった表情になった。


「どうやら、若大将の予想通り、1隻はミッドウェーの飛行基地で、もう1隻はウェークの飛行基地へ航空機の補充をしに行ったみたいですね・・・。」

源田が言った内容に、南雲と草鹿も頷いた。


第一航空艦隊と第二航空艦隊に、定期的に遠藤の情報網から報告が来ていたが、第一航空艦隊と第二航空艦隊が出航する前に真珠湾に停泊していたのは、ヨークタウン級空母『エンタープライズ』とレキシントン級空母『レキシントン』の2隻だった。


その2隻が湾内に不在という事で、攻撃目標は一部が変更になる事になった。

「これで決まったな・・・。我々の攻撃目標は、ホイラー飛行場とヒッカム飛行場に加えて、燃料タンク施設だ。2隻の空母は、若大将に任せよう。」


南雲の言葉に、草鹿と源田も頷いた。

これから、アメリカにとっては『悪夢の一日』が、間もなく始まろうとしていた・・・。

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