第20話 食物ダンジョン五階まで

 三階になると、小麦を刈る冒険者はいなくなった。手押し車を階段で運ぶのが大変なんだろう。


脳内地図マッパエムンディ!」で調べると、まだ冒険者は多い。それと、木が所々生えている。


「そろそろ斧の出番かな?」

 ジャスが大剣を背中に納めて、レンタルした斧を手に持つ。ビュン、ビュン! と振り回しているけど、トレントがいるの?

 

 赤い点も複数になっている。だから、穀物を刈るタイプの冒険者はいないのかもね。


「アレクは魔物を討伐してくれ。俺たちは、トレント狩りだ!」


 えええ、遠くに見えた木がこちらに向かってくる。早い!


「おお、ラッキー! 胡桃だ!」

 ジャスは喜んでいるけど、その胡桃が飛んでくる。そして、爆発するんだ!


「バリア!」を自分達と荷物持ち四人に掛ける。


「こちらは任せて、魔物を頼む!」

 ビッグエルクが三頭駆けてくる。

 弓で二頭、そして一頭はバリアで仕留める。


 ドロップ品は、肉、肉、えええ、小麦の袋?


 その間に、ルシウスとジャスはトレントを斧で倒した。


「やったな! 胡桃だ!」


 胡桃も大袋に入っている。神様ガウデアムスの考えは、絶対にゲーム脳だね。


「もしかして、果物もトレントからドロップするのか?」


 何を当たり前な事を聞くのだって顔を二人にされちゃった。


「林檎とオレンジの依頼があったから、頑張ろう!」


「それは、私も欲しいけど……胡桃が爆発したって事は、林檎やオレンジもなのか?」


「当たり前だろ! それよりビッグカウがいると良いな。ミルクとチーズの価格が高いぞ!」


 ミルク……もしかして、ミルク瓶に入ってドロップするのだろうか?


「それより、高価なトリュフとかドロップしないかな?」


 ジャスとルシウスは、不思議に思わないのかな? 


「あああ、だから二人は解体が下手なんだ!」


 ルシウスとジャスは、ダンジョンに潜るのが多いから、解体に慣れていないんだね。私が不自然に感じるドロップ品にも平然としているし。


「確かに解体は下手だけど、ダンジョン外でも荷物持ちを雇うのが普通だから」


「そう、そう! アレクみたいに一人で依頼を受ける冒険者の方が変わっているのさ!」


 そんな事を話しながら、四階への階段に進むけど、トレントが集まってきた。


「あいつら斧が嫌いだから、振り回していたら寄ってくるのさ!」


 嫌いなら逃げるんじゃないの? と思うが、どう見ても攻撃体勢だ。


「俺も手斧で攻撃してみる!」


 今回のは、何のトレントなのか見た目では分からなかった。松ぼっくりを飛ばしてきたから、松なのか?


「アレク、あの根本のコブを狙うんだ!」


 松ぼっくりも当たると爆発するので、バリアを掛けてから攻撃する。


 でも、枝を振り回すから、なかなか根本のコブに手斧で攻撃できない。


「アレク、手伝おうか?」


 ゲッ、ジャスとルシウスは二本ずつやっつけたんだ。


「自分でやるよ!」

 手斧じゃなくても、魔法で「遮断ディスコンティ!」で倒した。


 ドロップ品は、松の実が三袋、松脂、そして何故か肉?


「おお、この肉は別にしとこうぜ!」


「トレントから肉がドロップ?」


 訳が分からないよ!


「ははは、深く考えても無駄だぞ。それに、トレントからドロップする肉は美味いんだ。これは、金熊亭の女将さんに焼いて貰おう!」


 ジャスって、気配りができる奴なんだよなぁ。私も心掛けよう!


「前にドングリを食べたビッグボアが美味しかったのと同じ感じなのかな?」


 そんな事を言ったからじゃないだろうけど、ビッグボアの団体さんが出てきた。


 二人がいるなら、魔法は節約して、矢で攻撃する。

 私が二頭討伐している間に、ルシウス達が六頭討伐していた。もっと、連射速度を上げなきゃね。


 ビッグボアは、肉が多かったけど、何故か林檎も二十個ほどドロップした。


「果物や野菜は、この袋に分けて入れろ」

 ルシウスは、きちんと売る時の事を考えて籠に入れさせている。


「松脂は要らないだろう!」なんてジャスが言うから、止めた。


「松脂は、俺が貰うよ。軟膏になるから」


 薬師関係の素材は、集めておきたい。


「それと、中級薬草があれば採りたい」

 ギルドマスターにも圧を掛けられているし、オークダンジョンの探索隊には必要だろうからね。


「わかった! 見つけたら採取したらいい」


 脳内地図マッパエムンディで、中級薬草を探索する。


「あっちにありそう! でも、木もいっぱい生えているね」


 全ての木がトレントではないだろうけど、ちょっと林っぽい中に入るのは嫌かも。


「それなら、こうしたら良いだけさ!」


 ジャスが斧をビュンビュン振り回すと、トレントがわらわら寄ってきた。


「アレクは採取しろ!」


 十本もいるトレントの相手は任せて、私は袋の中に中級薬草を採って入れる。


 後二本になっていたから、根元に「遮断ディスコンティ!」を掛けて倒す。


「今回は、果物だ! ラッキーだな!」


 オレンジの山と林檎の山ができていた。それと、懐かしいマンゴーぽい果物の山。


「これは、なんて言うの?」


 荷物待ちの男が「ポポだ」と教えてくれた。ルミナス号の切符の売り子、そばかすの可愛い笑顔が思い出される。


 だけど、そんな思い出に耽っている場合ではない。


「なぁ、トレントを討伐したら、魔物の集団が現れないか?」


 私の質問をジャスが笑う。


「ダンジョンで脚を止めたら、魔物が襲ってくるのは、当たり前だろう!」


 今度は、ビッグエルクの群だ。十頭以上いる。まぁ、三人だったら、楽勝だね!



 四階は、冒険者が少なかった。つまり、魔物が群れて出てくる。


「なぁ、キラービーの巣を見つけたんだけど……討伐して良いか?」


 魔物の群れをやっつけたばかりだけど、ロイヤルゼリーは補充しておきたい。


「もしかして……中級回復薬の素材なのか? 前に準竜の肝が必要だと言っていたが、作ったから変だと思っていたんだ」


 ルシウスの許しが出たし、巣の周りのトレントは、ジャスが斧を振り回して引き寄せてくれたから、巨大な巣の周りをバリアで囲んで空気を抜いていく。


「げぇ! 女王蜂だ!」

 やはり、巨大な巣だったから、空気を抜くのにも時間が掛かり、怒った女王蜂がバリアを攻撃してくる。


「バリア! バリア! バリア!」

 三重に掛けて、空気を抜く。


「やっと消えた……怖いよ!」


 あの女王蜂のアップには精神が削られる。へたへたと座りこんでいたら、トレントを討伐した二人がやってきた。


「アレク、ビーハンターになれるぞ! ダンジョンの下にはキラービーの進化系のデスビーがいるんだ!」


 ルシウスは褒めてくれているんだろうけど、正直、昆虫系は嫌だ。ロイヤルゼリーの為に頑張っただけだよ。


「そっちは、どうだった?」


 にまりと、二人が笑う。


「メープルシロップがドロップしたんだ!」

 

 それは、欲しい! ハチミツとは別の美味しさがあるよね!


 でも、二人は甘い物にはあまり興味はないみたい。金になるのが嬉しいんだってさ。


 こちらの巣からロイヤルゼリーが二瓶、それに多数のハチミツの瓶。


「あれ? 針とかはドロップしないんだ」


「当たり前だ! 食物ダンジョンなんだから!」

 

 ジャスに笑われたけど、松脂は? まぁ、食べられない事はないのか?


 こうして、立ち止まると、魔物の群れに襲われる。


「コカトリスの群れだ!」

 これは、弓より「バリア!」の方が効率的だし、石化攻撃は受けたくないからね。


 卵と肉、羽根はドロップしないんだね。でも、ルシウスは卵は高価買取りだから嬉しそう。



 五階は、林が広くなり、トレントが多くなった。その上、魔物の群も多い。


「まだ、花やキノコは出ないんだな」


 ジャスは五階なんて、何年も来た事が無いから忘れたなんて言っている。


「花? キノコなら分かるけど? 食べ物がドロップするの?」


 神様ガウデアムスの魔物辞典を、もっと読んでおこう!


「花からは、高級な香料や野菜がドロップするんだ。ルミエラちゃんに香料をお土産にあげたい」


 聞くんじゃなかった! でも、香料は興味があるけどね。ヒーリング効果がある物もあるから。


「あれは六階からだろう! それにしても荷物が多いな。五階で一旦、上に出よう」


 キラービーの巣、針が出なくて、ハチミツの瓶とロイヤルゼリーだったから、かなり重い。


「ああ、地上で昼食にしようぜ!」

 そんな気楽な事を言って! と呆れていたけど、五階の転移陣前のボス戦、ヴリシャーカピの集団だったけど瞬殺だった。


「さぁ、飯だ! 飯だ!」

 ジャスが騒ぐから、荷物持ちが慌ててドロップ品を拾っている。

 肉は理解できるけど、バナナは? 猿の好物だからか?


 

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