「蛮族死すべし、慈悲はない」件
本日最初の目的地がなくなったことで、重苦しい空気を車内に漂わせた俺達が乗っているゴーレム馬車は予定を前倒しして、大半を雑草に覆われてしまっている街道を安全優先ではあるが、通常の馬車の7倍半の速度、現代日本の自動車の対面通行の法定速度位の速度で駆け抜けていく。
馬車はファンタジー世界の乗り物で、この世界でもポピュラーな物の1つだが、現実的な速度は積載貨物、積載量にもよるが、最大で時速8キロメートル。
但し、生物の馬には当然、疲労があるため、2から3時間の休憩をとらなければ道半ばで、馬が
俺が作って箱馬車を牽いているゴーレムの馬にも、動力源である魔石の魔力容量の問題があるが、魔物のレベルとして中級のレッサーオークの未使用の魔石で、俺の作ったゴーレムならば各部パーツの損耗を考えない条件で、最大速度で3日は走り続けられる様に設計してある。
普通の馬車は〔駅〕がある村や街で、都度、馬を交換することで、最大時速を保つ手がない訳ではないが、その都度馬を買い替えることになるため、下手をすると大幅な赤字になってしまう。
余程の事情がない限り、商人達は馬を買い替える選択をせずにスケジュールに余裕を持たせた馬車旅をしている。
また、馬が所かまわず馬糞を垂れ流すという衛生面の問題もあって、俺は郷に引き篭もる前に、馬の代わりをさせて箱馬車を引かせるための馬型ゴーレムを開発し、幅広く売り出して普及させ、その姿をよく目にしていた。
しかし、ルドラ王国から今のシヴァ帝国になったこの国では、その影すら、全くなくなっていて、昔の馬に引かせる馬車に戻っていた。
アーク侯爵家の監視のために派遣した使い魔の働きにより、ゴーレム馬車が
しかも、賢者共が裏で暗躍して建国した「
今後の予定を確認していたら、不意に、俺の両耳に無骨で、無機質な警告音が届くと同時に、視界が赤く染まって、
「索敵範囲内に複数の殲滅対象の生命反応を確認しました。
これにより、称号【
速やかに、対象を殲滅してください」
という懐かしくも冒険者時代で頻繁に目にしていたメニューウィンドウが空中に表示されたので、俺はそのウィンドウの右上の×印を押し、表示されたそのウィンドウを閉じた。
「みぃ……」
(久しぶりにその姿の
俺の変化に最初に気が付いたユグドラがここ最近の定位置だったマリアの頭の上から、座席の背もたれを器用に飛び移りながら、俺の傍までやってきた。
俺が保有している称号【蛮族死すべし、慈悲はない】は、俺の索敵範囲内に殲滅対象である、山賊、盗賊、海賊、空賊等の類いの存在を感知すると、自動で発動し、俺の両目の色が真紅に染まって、俺自身には分からないが、非常に剣呑な雰囲気を発する様になるそうだ。
また、どうやら殲滅対象達には俺の瞳が、赤く不気味に光って見えるらしい。
この称号の効果が発動中は、俺の各種ステータスが常に3倍に上昇するという大きなメリットがある。
その反面、索敵範囲内の殲滅対象を全て殲滅しないと、俺に起こっている身体変化は解除されず、次第に、俺の思考が殲滅対象の排除することのみへと傾き出して、更に殲滅に時間をかけ過ぎて限界時間を迎えると、俺は対象の殲滅を最優先に活動する状態になって、大暴走する恐れがあるというシャレにならないデメリットがある。
条件を満たして、称号【
しかし、今では半日は冷静な状態を維持できる。
とはいえ、そこまで殲滅対象の殲滅に時間がかからなくなっているので、メリットの方が大きいのが現状だ。
「ああ、条件を満たさないと解除できないし、急がないと間に合わなくなるかもしれない」
俺は専門職ではないが、種族補正と索敵スキルによる補正がかかった俺の索敵範囲は最大で十五キロメートルあるから、あと十五分弱で接敵することになる。
ちなみに、仕事に大変熱心な殲滅対象達は獲物となったカーン辺境伯領への亡命者を引き連れた不幸な商隊を追い立てている。商隊の護衛達が殿となって、土系魔術の【
とはいえ、察知してから3度目の【石壁】の発動を最後に、再度【石壁】の発動がないため、術者の魔力がなくなったと思われる。
最後の石壁で、近接職達による本格的な白兵戦に移っているのが、視界の隅に表示されているスキル【索敵】のレーダーでわかる。
殿としてその場に残った護衛達9人の中に1人、突出した猛者がいるけれども、相手の数は約10倍。
石壁で相対する数を制限しているが、多勢に無勢。最終的に数の暴力に屈することになるだろう。このまま援軍が来なければ……。
「このままの馬車の速さだと、到着するころには足止めに残った護衛達は全員殺されてしまうな。だからと言って、馬車の速度を上げると、整備がされていないこの道だと最悪、馬車が横転しかねない」
カーン辺境伯領だったときの道が舗装された名残は見えるが、碌に整備されていないので、路面の凸凹や雑草の存在が顕著だ。
「俺は
(わかったわ。
ユグドラの頼もしい【念話】の返事に俺は頷いて、左の箱馬車の扉を開けた。
「あのっ、……頑張ってください!」
いつもと違う様子の俺の剣呑な雰囲気に気圧されたマリアが声を辛うじて振り絞って、声援を送ってくれた。
「ああ、行ってくる!!」
俺は彼女のその言葉に頷いて応え、外に飛び出した。
馬車の扉は操作を熟知しているユグドラによって自動閉鎖機能が作動し、閉じられた。
地面からの着地の衝撃を、膝を屈伸することで和らげた俺は、態勢を整えて駆け出した。
そして、自分が飛び出した疾走するゴーレム馬車を追い抜き、すぐに遥か後方に置き去りにして、俺は先を急いだ。
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