第28話 翡翠竜達は下水処理場の依頼を完遂する
「ううう~~っ」
ユグドラを頭に乗せたマリアがジト目で俺を睨んで、唸る。
ちなみに、【
「酷いですね」
俺の後ろを歩いているファーナはマリアと同じくジト目で、先頭に立って、汚濁に塗れた道を進む俺を恨みがましく、言葉短くそう非難してきた。
「そうは言っても、こういうことは、早いうちに一度は経験しておいた方が良いだろう? それとも、【消臭】が使えない環境で経験した方がよかったか? 冒険者として先達であるはずのファーナも、下水の臭いは初めてみたいだったようだが、ここはまだ
俺は嘆息しつつ、そう返した。
「え?
マリアが心底信じられないという表情を浮かべて訊いてきた。
「にゃお」
(そうね。私もアソコにはもう二度と行きたいとは絶対に思わないわね)
ユグドラが当時のその現場を思い出して、距離をとられて先行している俺の代わりにマリアの問いに嘆息しつつ、応えた。実際、俺とユグドラは
「ああ、ダンジョンの
あのときは転移直後で、不意に吸い込んでしまった強烈な腐臭で、パーティーメンバーは全員が呼吸に異常をきたした。その中で、身命の危険を即座に感じ取った俺は【消臭】、【滅菌】、最上位の【浄化】を無詠唱で発動すると同時に、メンバー全員の呼吸のための酸素も生成した。
あの場には
そして、
「今回の経験で、臭い、嗅覚は馬鹿にできないことが分かっただろう? 嗅ぎなれない臭い、特に今回の様な悪臭は危険察知という判断基準ではとてもわかりやすい指標だ。依頼失敗にはなったが、俺達よりも前に担当した冒険者が解決手段がないから、無理をして、先に進まずに退いたのは適切な判断だった。それに対する芳香、例えば爽やかな柑橘系の匂い等はモチベーションを上げてくれる。この辺の知識は【錬金術】、【調香術】の分野の話になるから、ほとんど興味を持たれないけれども、甘い匂いで誘引してくる魔物もいるから、知っておくといい」
俺はそう苦笑いを浮かべながら、【アイテムボックス】から【調香術】で作成したグレープフルーツに似た果物の香水のサンプルを作成。そのにおいが苦手でないかを確認後、その匂いを気に入ったマリアとファーナに作成した香水のサンプルを渡した。ちなみに、柑橘系の匂いを猫は嫌がるが、ユグドラの猫義骸には影響がない様にしてある。
また、変装としてマリアが身に着けている猫耳・尻尾セットにはレベルを任意調整できる【聴覚増強LV5】以外の装備効果は付けていない……今、気付いたことだが、マリアだけでなく、ファーナもいつのまにか猫耳・尻尾セットを完全装備している。なぜだ?
ジュウゥゥッ
早くもなく、遅くもないペースで下水道を進んでいると、また、下水中に潜んでいたスライムが【浄化】で消滅していった。今回消滅したスライムも野良にしてはかなり大きめの魔石を落として逝った。
ふむ、ドロップした魔石の大きさから察するに、完全にFランク冒険者では脅威となりうる相手だ。
スライムという魔物は某ドラ〇エ等の先入観から弱い魔物であるというイメージをもつかもしれないが、この世界では当てはまらない。苦手である火や主要器官である『核』を破壊できる手段がなければ、とてつもなく厄介な魔物だからだ。
しかも、スライムの中にはいろいろな方法で、広く知られている弱点の火を克服した個体も存在が確認されている。また、捕食以外に合体・融合して強化、進化する可能性を秘めている魔物でもある。生息環境の影響による個体差が激しい魔物でもあり、全身を捕食した金属で覆う希少個体もいる。
判明しているスライム出現方法は、高濃度の魔力空間で魔力が結石化して発生した魔石を核にして生まれるか、【錬金術】で生み出されるか、【召喚魔術】でよびだされるか。ああ、
スライムの種類は【鑑定】系統のスキル以外に、倒したときに入手できるその核となっていた魔石からも調べることができる。今回、遭遇して倒しているほとんどがスライムは
「ギィャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!?」
また、1匹。潜んでいた低ランク冒険者では荷が重く、ちゃんと対策がなければ危険な死霊が【浄化】で消滅して、スライムよりも2まわり以上大きい魔石を残していった。
「この依頼は完全に低ランク冒険者向けの依頼じゃないですね……」
冒険者ギルドカードをかざすと発動する便利機能である【
死霊が出ている時点でマリアが言う様に、低ランク冒険者の受注できる依頼ではなくなっているのは確かだ。
そして、回収した遺品である、魔物の餌食となった冒険者の冒険者ギルドカードの中にはアーク侯爵領の冒険者ギルド所属のカードが複数枚あった。キナ臭いことこの上ないことだなぁ。
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