第22話 翡翠竜の許に……
俺がアーク侯爵領に行っている間のテオドール達にやっておいてもらうことは伝えた。テオドール達は見習い達を除いて、悲嘆の表情を見せることはなく、むしろより強くなれると生き生きとしていた。
そして、俺の目の前には1匹の黒猫の子猫のぬいぐるみ……ではなく、黒猫の子猫のぬいぐるみにデフォルメされた魔導義骸―――魔導技術を使った人工の魂の器―――が一生懸命に毛繕いをしている。
「なんで
俺が声をかけると黒子猫は毛繕いをピタッと止めて、こちらを向いた。
「みゃう♪」
(ジェイドが迎えに来てくれるのが、大分先になりそうだったから、来ちゃった♪)
黒子猫は可愛いらしく鳴いて、ユグドラは【念話】で返答した。
「『来ちゃった♪」じゃないんだが!
ユグドラが使っている猫型義骸は生命維持が困難などの緊急事態に備えて、俺が超希少素材で作った特製品。元の肉体の生命活動と魔力を大幅に節約する特殊な仮死状態にして完全保護するカプセルベッド型魔導具と完全連動を前提に動作する仕様だ。
「にゃあ、にゃあ!」
(大丈夫、問題ないわ!」
どこかで聞いたことのある台詞に近い反応を黒子猫義骸inユグドラは元気よく返してきた。
「にゃお」
(帝都に見つかると、お店に迷惑をかけそうな人達がやってきたから、いなくなるまで、この
「おい、その迷惑かけそうな奴等って……」
「……」
(貴方の察しの通り、堕天した
子猫の義骸は不機嫌そうなユグドラの言動に合わせて尻尾を揺らしている。
「あいつ等、見逃してやったのに恣意的に事実を捻じ曲げて広めているみたいだな。やはり根絶やしにすべきだったか……」
「にゃ、にゃぁ!!」
(おっ、落ち着いて! 魔力が漏れているわよ!……ッ!?)
「ぶっ、何をする?」
奴等への怒りから思わず怒気が漏れた俺に唐突に黒子猫inユグドラが飛び上がって、顔に張り付いてきたので、俺はその首根っこを掴んで引き離して、睨む。
(お客さんよ)
「客?」
俺がユグドラに聞き返すと同時に借りている客室の扉が控えめにノックされた。
※※※
「お休みになられている所、すいません」
ノックの主はテオドールとクローディアの娘のマリアだった。
「いや、あとは汗を流して休むだけだから構わないが、それで、ん? なんだ?」
マリアのこれまで何度か目にした好奇心に満ちた視線が俺に首根っこを掴まれてプラーンと宙吊りになっている、心なしか憮然とした感じを醸し出している
「そのこは、一体……」
予想通り、マリアは両目を輝かせて、好奇心に満ちた問い掛けがきた。
「使い魔兼黒猫型魔導具のユグドラだ。自律思考ができて、スキル【念話】を介して意思疎通もできるぞ」
今はユグドラが義骸の主導権を握っているが、猫型義骸には緊急回避のため、
「【念話】ですか……わたしはそのスキル、持っていません……」
花が咲いた様な明るい表情から一転、マリアの表情は落胆したものに変わった。
「……」
なんかユグドラから、無言の圧をかけられてきている。やれやれ。
「ここに【念話】のスキルオー(ガシッ)う?」
俺が【アイテムボックス】から、ストックしているスキル取得アイテムの『スキルオーブ』を取り出すと、無警戒だったとはいえ、俺の反応速度を超えて、マリアがオーブを取り出した俺の手を瞬時に両手で掴んだ。しかも、クローディア譲りの儚げそうな
まぁ、クローディアも大剣を振り回す程パワフルな面があるから不思議ではないかもしれない。
「どうすればこの道具でスキルを習得できるのですか?」
妙な圧を放ちながら、
「オーブを額に当てて、オーブに封入されているスキル名を唱えればいい」
「【念話】」
マリアは俺の返答を聞くや否や、両手で掴んだ俺の手をそのまま引き寄せた。そして、俺の手が握っているスキルオーブをそのまま自分の額に押し当て、スキル名を唱えた。
「ミャーオ」
(わーお)
マリアのあまりに即断で迅速な行動力にユグドラは目を丸くして驚いていた。
「【念話】は取得しただけでは意思疎通できるスキルではないのだが……それはこの後すぐ教えるとして、とりあえず、供の者を連れずにどういった要件だ?」
合流してから、これまでいつもマリアの傍にいたミシェラまたはファーナといったお付きと思しき2人の姿が今はない。
時間的に譲歩してもギリギリセーフな時間帯ではあるが、それでも、結婚適齢期の次期辺境伯家当主が異性の部屋に単独でき来るのは外聞が良くない。もっとも、バレればの話ではある。バレれば。
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