第9話 翡翠竜は前世の●●と再会?する

ジェイド視点~


コテージ型魔導具の自分以外立ち入りを禁止にしている私室で、俺は今日の自分の行動を振り返った。


かなり薄くなったとはいえ、血縁と出会えたことで、俺は浮かれすぎていた様だ。テオドール達とはまだ今日出会ったばかりで、おそらく、彼等は俺と血縁関係にあることに気づいていないだろう。反省しなくてはと、俺は自省した。


初対面からDOGEZAしてきたテオドールの第一印象は確かに、悪くはないだが、彼の爵位は辺境伯。国では上から数えた方が早い上位貴族。赤竜の里に引き篭もる前に、上位貴族達に利用されて嫌な思いをしたことが多々あったことを俺は思い出した。無条件に見極めきれていない彼等を信用する訳にはいかないな。


理想としては、付かず離れずの付き合い。お互いが対等な関係の上での、ビジネスライクなギブアンドテイクの関係が結べればいいだろう。


一先ず、そう結論付けた俺は雑務を終えた私室から魔術研究用の工房へ【転移】した。今日の最後の一仕事として、大森林の龍脈の状態を調べるためだ。


魔物大氾濫スタンピードが起こる確認されている原因の1つに、龍脈がなんらかの要因で、停滞し、ダムの様にどんどん魔力が周囲の瘴気を取り込みつつ蓄積していき、臨界をむかえて決壊することで、魔物を狂奔させ、極度に圧縮された瘴気から魔物が生み出される。


瘴気というのは憎しみや妬み等の負の感情を帯びた魔力の総称で、属性で分類するならば、“邪”といった表現が最も当てはまる。“闇”は“邪”とどう違うのかと思われるかもしれないが、この世界の“闇”を適切に表現するならば、プラスとマイナスのマイナスが最も近い。


魔物大氾濫が起こる原因の多くは、大多数の死骸が放置されて発生する場合が、自然発生とされるケースでは一番多い。頻繁に魔物大氾濫が発生したら困るが、大森林の様な生態系が確立されている場所では実は魔物大氾濫は自然発生することは滅多にない。理由は明快で、生態系の食物連鎖の流れによって、すぐに死骸は自然に還るため、龍脈に影響を与える前になくなる。


裏を返せば、人為的な物、例えば瘴気を出す魔導具や死骸に捕食者を近寄らせない等があれば、前述のプロセスで魔物大氾濫は起こせるため、俺はその龍脈の異常がないかを調べることにした。


確認方法は、いくらヒト種を遥かに超えた宝石竜の身でも、なんの用意もなく、龍脈に直接接続すると、体内を駆け巡る膨大な魔力の半端ない過負荷で死ねる。


俺に対抗するための強化方法として、とち狂った賢者達が無用心に龍脈に直接魔力を繋げた。龍脈の濁流の様な膨大な魔力に体内の魔力回路を破壊され、脳が過負荷によって、顔の穴という穴から出血を始め、最終的にその頭部が爆砕して血の噴水が上がった。しかも、連続で、狂笑浮かべた後にボンッだから、グロが苦手な俺にはキツかった。そんな状況だから、当然、龍脈に接続を試みた賢者連中に生存者はいない。


俺は身内にはこのときの記憶を共有して、龍脈には絶対に不用意に接続しない様に周知した。一応、賢者共に変な冤罪をでっちあげられても困るので、この一連のいきさつ全ての俺の記憶映像を繋がりのある権力者関係各所にメッセージと共に送っておいた。


俺が龍脈と直接接続したときの体感と前世で似た様な体験で思い当たるものは、いろいろな種類の風呂があるスパにあった電気風呂。あれに長時間浸かっている様な体の感覚に異常を感じ続けるもので、その異常が頭にも広がった状態。個人的に電気風呂にはまた浸かりたいとは思えなかったし、龍脈と直接接続は勘弁。



その後、俺は魔法陣と魔導具を併用することで安全性を確保。それに魔力で構築したカラーの立体映像でもって、龍脈の異常を視覚的にわかりやすいようにした。その結果、魔物大氾濫の発生を未然に防ぐことに大きく貢献した。


ただ、当時は賢者達が俺と仲間達の様々な活動を妨害してくる件数が増加していたため、必要に迫られてセキュリティをガチガチに固めたため、俺以外では2人しか使えなかった。



手早く済ませて明日に備えて休むため、魔力を込めて魔法陣と魔導具を起動したのだが、予想外の異常事態が発生した。表示される立体映像がいつもの龍脈の分布と状態を現すものではなく、古代ギリシヤ人女性の衣装であるイオニア式キトンに身を包んだ、女神の様な、緑髪のエルフの美女の姿が浮かび上がっていた。


悪意あるハッキング等の敵性攻撃に対しては、魔法陣と魔導具に設定している前述のセキュリティが即座に発動して、対象に悪辣かつ、凶悪なカウンターをお見舞いする様になっている。魔法陣、魔導具の両方は正常に動作していて、逆撃が発生していない。つまり、


「お久しぶりです、ジェイド。お変わりないようですね」


そう言って、エルフの美女は花が咲いた様な嬉しそうな笑みを俺に浮かべた。


「ああ、とりあえず、まだ……生きてはいるよ。ルシア」


思い返すと、もっとましな返答をすればよかったと思うが、その時の俺はそんな余裕が全くない程、感情が激しく揺さぶられていた。


その理由は彼女、ルシアは俺がヒトに紛れて冒険者生活をしていたころの俺の妻。たくさん愛し合って、子供をつくって、その成長を一緒に見守った彼女がその人間の天寿を全うするのを看取って別れて以来からだ。


「今度は人間ではなく、エルフになったのか? それに、普通のエルフとは、髪の色が随分違うな……」


ルシアの前の生の種族は確かに人間だったが、唯の人間ではなく、天使が人の身に生まれ宿った存在だった。以前のルシアが人間だったときの髪は金髪で、瞳の色は水色だった。しかし、今の彼女の髪の色は緑色で、瞳の色は深い蒼だ。


俺が知る限り、この世界の一般的なエルフ達の髪の毛は金髪が最も多く、瞳の色は緑が多い。この世界のエルフも、前世のゲーム等のファンタジー作品に登場するエルフ像とほぼ同じ存在だ。


「この髪の色は前の人生で、あなたの魔力をたくさん注がれ続けていた名残ですよ。ジェイド。また、そのおかげで、私も熾天使セラフィムから、まだ新米ですが、世界樹を司る女神に昇華しました。名前もルシアからユグドラシアになりましたよ」


ルシア改め、ユグドラシアはそう言って笑みを深めた。


確かに、ルシアと結婚してから、いや、より厳密には、その前からそういう関係になった日の夜から、いたして、気が付いたら、朝になっていたのはいい思い出……なのか?


当時のいたしているときの記憶のアレコレが軽く連続でフラッシュバックしてしまい、思わずユグドラシアの薄布に包まれている豊かな胸部装甲に俺の目線が向いてしまった。


「……どこを見ているのですか、ジェイド?」


顔は笑っているが、目が笑っていないだと!?

完全に俺がなにを考えていたか、バレテーラ。


「こほんっ、私はこの度、女神の化身としてですが、ハイエルフの身に降臨しています。詳しくは再会したときにお話しますが、諸事情で、今は奴隷となっているので、どうか、私を助けてください」


ユグドラシアは俺に縋るような瞳でそう懇願してきた。

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