第7話 翡翠竜が賢者を嫌う過去の因縁

俺だって最初から“この世界の”賢者を嫌っていた訳ではない。

当然、切掛けとなる出来事があって、それが何度も繰り返し積み重なったからだ。


この世界の賢者は、某RPG の様に白魔法と黒魔法が使えるからとか、僧侶と魔法使いの

【まほう】が使えるからなどといった基準で賢者になれる訳ではない。


多くが稀に神から与えられた初期職から賢者だったケース。他にもいくつかの条件を整えることで他の魔術系職から賢者に転職できるが方法がある。この賢者に転職できる方法は初期職から賢者だった奴等に秘匿されて、実行しようとする者は結託した先達の・・・賢者達によって妨害され、失敗させられる。


俺がこれまで出会った賢者の9割9分が初期職から賢者だった奴等で、全員が例外なく、自尊心が極端に高く、他職の人間を見下し、馬鹿にしてマウントをとろうとしてくる。


確かに賢しいは賢しいのだが、本当に小賢しいことばかりする小者が多く、他の魔法職の手柄や成果を平気で横取りするなど平然とやってのけ、それがさも当然の様に振舞うから、俺は冒険者をやっていたときは関わりを持たないため、近寄らない様にしていた。


相棒のルベウスとコンビを組んで俺は依頼をこなしていき、地道だが、実績を積み上げていって、順調に冒険者ランクは上がって、実質的に二位層である白銀シルバー級の昇格試験のときに、よりにもよって、いかにも気位が高く、典型的な嫌味な貴族を絵に描いた様な眼鏡の青年も同じ昇格試験の受験者だった。案の定、そいつの職は“賢者”だった。


その賢者はなぜ、銀級の前の等級である青銅ブロンズ級になれたのか、どうやって青銅級の試験を通過したのか不思議に思える程、冒険者の基礎的な知識と冒険者として最低限必須レベルの持久力が欠落して、集団行動で俺とルベウス、他の受験生達の足を引っ張っていた。


後で判明したことだが、その賢者は、没落して平民落ちした貴族、子爵家の天才と呼ばれていた期待の存在だったらしく、貴族としての家格は1段階下がるけれども、冒険者の銀級になれれば、男爵位相当の扱いを受けられるため、お家復興の第一歩として、嘗ての家のコネを最大限に活用して強引に紛れ込んだらしい。


試験結果はお察しの通りで、その賢者とそのパーティーのメンバーが不合格だった。偉そうに指示を出していたが、どれも机上の空論で、実行性を度外視した的外れなものばかり。最初は賢者だからと、指示に従っていた他のパーティーも次第に離れ、結果、賢者の所属していたパーティーのみ冒険者の銀級試験に不合格となった。


賢者は不正を声高に主張し、特に俺とルベウスと他2名で組んだ臨時パーティーを目の仇にしてきて、パーティーメンバーをけしかけてきたが、盛大にブチ切れたルベウスによって返り討ちにあい、襲撃してきた全員が辛うじて一命をとりとめた。その負傷者の中には当然、賢者も含まれていて、奴の頬はもちろん、顔全体が膨れ上がって、原型をとどめていなかった。


賢者とその仲間達はルベウスの過剰防衛を主張してきたが、ルベウスが素手で対応したのに対し、賢者のパーティーメンバー達は数名が剣を抜いて襲撃してきたことで、その訴えは取り下げられ、更に殺意と悪質さ、男爵相当の地位にある俺達を襲撃したことが加算されて、懲役刑の実刑が科された。それによって、前科者となった賢者は実家を貴族として再興するどころか、名声を再興不能まで落とすことになった。


これで終わりかと思いきや、前科1犯となった賢者は俺達、特に魔導師の俺に対して逆恨みをして、全く懲りずに復讐者となった。そして、身内に激甘な賢者コミュニティを頼って、執拗に俺達の邪魔をしてくるようになった。


依頼の邪魔は日常茶飯事で、拠点への帰還時の暗殺者ギルドの刺客を雇っての襲撃など細々とした悪事は徐々にエスカレートして着実に俺のストレスは溜まっていった。


そして、逆恨み賢者と賢者コミュニティは俺とルベウスの周囲の人々も攻撃対象とし始め、遂に大罪となる魔物大氾濫スタンピードの誘発を行った。禁制の魔物を誘引する香を碌な準備もせずに焚いた賢者コミュニティと逆恨み賢者は魔物大氾濫の第一波に飲まれ、逆恨み賢者の遺品の眼鏡は残っていたが、遺体はなく、手助けしていた者達も遺品だけ残して遺体は残っていなかった。


発生した魔物大氾濫は、総力戦となり、最終防衛ラインを突破されそうになる危機を何度か迎えることもあったが、俺とルベウスが要所で竜とバレない様に力を解放して魔物を殲滅したことで、怪我人こそいるものの、愚か者共以外の死者を出さずに済んだ。


余波で残った魔物の駆逐と、発生源の根絶を確認するまで警戒を続けなければならず、大変疲れる作業だった。


そして、一線を踏み越えた賢者コミュニティの残党には俺とルベウスで、全員に【竜呪ドラゴンカース】をかけて、無残な最期を迎えさせた。


これで賢者コミュニティは根絶したと思うだろう? 残念だが、俺が冒険者として活動していた頃に別の賢者コミュニティからの、同様の嫌がらせと妨害を後8回繰り返し受け、全てを返り討ち、殲滅する羽目になった。


俺の視点だけではあるが、保管していた各場面の記憶結晶の映像を交えて俺が賢者を嫌っている理由を説明したため、テオドール達は納得した様子だった。

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