ニートだった俺が異世界転生したけどジョブがやっぱりニートだった件
滝川 海老郎
1 神ジョブ、ニート
異世界転生した。
物心ついたときには、すでに7歳ぐらいだろうか。過去の地球世界の記憶はあるものの、ベース人格は一応こっちの世界という感じだった。
別に転生したから幼児からツエーとかも、あまりない。
むしろ『変な奴』と思われて、みんなに一歩引かれてしまって、俺は家で寂しく家事手伝いと農作業とかして過ごしている。
俺はそのまま12歳の洗礼式を迎えた。
洗礼式では、ジョブというものが与えられる。
ジョブの概念はややこしいけれど、実際の職業とは別だった。
ただ適しているとされる神から与えられた職業のようなもの、それが日本語でいうならジョブだ。
「アラン・グリフィン・スコット君。君のジョブは、ああ、なんてことだ『ニート』ですね」
神父さんはジョブ鑑定水晶を覗き込みながら、残念そうな顔を隠せないでいる。
「はい? 神父さま、いくらなんでも、あんまりではないですか?」
「神が与えたもの、それが正しいのです。誤りということは、今まで一度もありませんね」
「そ、そんな」
ニートとは、みんな知ってると思うけど、勉強も仕事もしない若い人のことだ。
俺は前世でも高卒から親のスネかじりの22歳ニートだった。
転生してニートからの一発逆転を目論んでいたのに、やっぱりジョブはニートとか、なんてこったい。
この世界でニートという神ジョブを引いた人は、神父曰く、初めてらしい。
うちは田舎領主の下にいる田舎村、ベルード村の村長の次男という、極めて中途半端な家だった。
村長と言っても半農半公というのか村のトップだけれど、野菜と薬草それから数は少ないものの家畜の牛、豚、羊、鶏なんかがいる。
うちの一番の出荷物は、乾燥薬草だ。あとはほとんどが自給品に消えている。
というのも、輸送コストもあるし、肉類も野菜類も長期保存が苦手ときている。
他の家では未だに麦を安い値段で売って生計を立てていた。
「ほれ、アラン。今日も薬草、干しといてくれよ」
「あいよ、父ちゃん」
こうして今日も、外貨を稼ぐため、薬草を干す俺。
ニートなら働いちゃダメ、というわけではない。
ただ俺には――
『適している職業が存在しない』
という事なんだと思う。
南無三。俺の人生終了待ったなし。
しかし前世の知識もりもりで楽して生活したい。
と思ったのに、特に困っているものはなく、欲しいとしても再現が無理なものばかりだ。
この生活も、村長の家というちょっとリッチな立場なのもあるけど、まあ、あまり悪くはないんだ。
魔法。魔法な。
転生と言えば、やっぱり魔法だよな。
これに関しては、俺はあまりよくわからない。なんせ村には碌に魔法を使える人がいない。
たまに駐留している冒険者パーティーの若い女の子とかが火魔法なんかを使えるということぐらいしか知らない。
それからアイテムボックス。さすがにアイテムボックスはなぜか使える。
これは物心ついた時にはすでに使うことができた。
だから親にもバレまくっている。
「残念ながら、アイテムボックスを持っていたとしても、非常に、本当に非常に、惜しい人材だとは思いますが、ニートは商業組合には登録ができません」
これで『商人』とかジョブガチャで引けば、いっぱしの旅の商人として名を馳せたかもしれないんだけど、商業組合はニートには冷たいのだった。
許可、ただの木の板だけど、それを貰えなかったので、正規の商人にはなれなかった。
もちろん、冒険者とかして副業で稼ぐことは可能だ。
アイテムボックスの希少性は折り紙付きで、何人に一人とか統計を取れるわけもないんで、わからないけど、少なくとも村と商業組合のある町では、ほぼ皆無であるらしい。
町にたまに来るAランク冒険者パーティーに一人いる、らしいという話は小耳に挟んだことがある。
とりま、俺は、今日も薬草を干して、乾燥薬草を作るんべ。
それから80年以上経過。俺は95歳になった。
当初、次男として家に寄生し、農作業を続けていたんだけど、俺は15歳のときのまんまの容姿を保っていて、今も現役だ。
つまり、神のジョブ『ニート』の『若い』という部分が、適用されたらしく、ずっと若い容姿のままだったのだ。
20歳ぐらいでは若いね、で済んだが、30ぐらいになると若づくりでは済まなくなり……。
そして結局ついにお嫁さんは、ニートということや、色々巡り合わせも悪くて独り身だった。
同年代の友達もみんなもう居ない。若い子はみんな、あまり俺に懐かなかった。
今では、兄も他界しその息子も他界した。兄の孫が今の村長なのだが、俺は名誉職「長老」の座に着いていた。
すでに村の最高齢をほしいままにしている。
もちろん、名前だけの役職で、お金は貰えない。
尊敬もされているが、同時に、非常に、気味悪がられている。
俺が村長に就くことは、ニートの加護が失われるとして、村人全員が反対するのだった。
「んじゃあ、そういうことで、みなさん、長い間、ありがとうございました」
「長老さん……達者でのう」
「長老さん……行ってしまわれるか、まあ、村も飽きるよのう」
比較的歳が近い、おじいさんたちに見送られる。
俺は旅立つことにしたのだ。95歳の年齢で。
いや実際、何歳まで生きるんだ、この身体……大丈夫なんかこれ。
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