第45話 いや〜! 極楽、極楽!

 施設は入国審査された所よりも天井や幅が大きく、二階まで吹き抜けだった。

 大勢の入国者が楽しそうに歩いたり何かを飲んだり食べたりしているのが見えた。

 私とロリンは受付らしき所に向かった。

 カウンターの前には青色のジャケットを羽織った青年がいて、彼はポーイのお腹にライトをあてると、「はい、大丈夫です。ごゆっくりお過ごし下さい」とにこやかに二つのかごを渡された。

 中にはタオルと石鹸、髪用と書かれた液体の入った瓶、歯ブラシと歯磨き粉が入っていた。

 なるほど、これで綺麗さっぱりにしてから国内を散策するのね。

 彼に施設利用許可書である腕輪をもらったので、利き手ではない方に通すと、リストバンドみたいに消えずに残っていた。

 ポーイが言うにはこれを持っていれば無料で温泉に入ったり、飲食できたりするとのこと。

 あと、淡いピンク色で何の模様もない上着とズボンを貰った。

 どうやらこの施設には汚れた衣服を洗ってくれるサービスがあるらしく、綺麗になるまでの間の代わりの服らしい。

 確かに汗でしみた服に着替えたらお風呂に浸かった意味がない。

 それに入国者をよく見ると、同じような格好をしている人が何人もいた。

 なので、決してオシャレとは言えない服に着替えるのを躊躇ちゅうちょせずに済みそうだ。

 大浴場は受付から真っすぐ進んだ所にあった。

 入り口の前に手荷物預かり所があったので、許可書を見せて私のポシェットとロリンのリュック(ミニスカートや水着は予め取っておいた)、そしてポーイも預けてもらった。

 彼はドラゴンとはいえ、オスなので、乙女の入浴に参加するのはどうかと思ったからだ。

 もちろん、盗まれないか心配だったが、私達以外にも多くのポイドラゴンが待機していたので、安心して大浴場の中に入った。

 脱衣所には不特定多数の女性達が脱いだり着替えたりしていた。

 いつもお風呂に入る時は大体深夜にこっそり浴場に忍び込んで独りで入るか、ロリンに見つかって無理やり入る事になるかの二択だったので、大勢の女性達の前で裸になる事にためらってしまった。

 それとは正反対にロリンは何の躊躇もなくスポポーンと丸裸になったので、こいつに羞恥心はないのかと思った。

 裸になったロリンは自分の衣服とリュックから取り出した服を近くにある箱の中に入れた。

 そこには『汚れた服はこちらへ』という貼り紙の付いた大きめの箱だった。

 みんなポンポン入れていたので、当たり前の事なのかなと思った。

 が、仮に洗濯と乾燥をしたとして、どうやって仕分けるつもりなのだろう。

 あと、下着の着替えはどうしたらいいのだろう。

 まさかノーパンで過ごせとかはないよね?

 そう思って貰った着替えを調べて見ると、上着とズボンの間に無地の下着が挟まっていた。

 あー、良かった。

 ちゃんとその配慮はされているのね。

 生地は伸縮性のあるやつだから、私でも大丈夫か。

 ホッとしていると、ロリンがカゴの中から石鹸とタオルと瓶を持つと、「じゃあ、お先〜!」と鼻歌を歌いながらドアの方に向かい、ガララと横に引いて入っていった。

 私は未だにドレスのままだった。

 ど、どうしよう……このまま公衆の面前でイチゴパンツを晒さわなければならないのか。

 そんなの裸見られるより嫌……いや、待って。

 だったら、パンツも一緒に脱げばいいじゃない。

 そしたら、誰も私がイチゴパンツをはいているとは思わない。

 よし、やろう。

 私は一切無駄のない動きでスポポンと裸になると、一直線に箱の中に脱いだ服(パンツは包むように隠した)を勢い良く入れた。

 そして、入浴に必要なものを一式取り出すと、足早に大浴場に向かった。


 大浴場は私が住んでいたお城に負けないくらい大きかった。

 大理石で作られたと思われる床と天井、100人は余裕で浸かれるほど大きな浴槽があった。

 近くには洗い場があって、石鹸やタオルで髪や身体を洗っていた。

 まるで町を行き交う通行人みたいに至る所に裸、裸、裸……うーん、何だか頭がクラクラしてきた。

「メタちゃーーん! こっちこっちーー!」

 ロリンの声が聞こえたので、頭を抑えながら進んでいった。

 浴槽の隅に湯船の浸かったロリンがいた。

 まず、お湯を手で自分の身体にかけて温度を慣らしてから、湯船に足を入れて徐々に身体を湯の中に入っていった。

「ふやふぃふるへへいへーい」

 全てが脱力するかと思うくらい心地よかった。

 あぁ、あらゆる疲れが湯の中に溶けていく。

 ロリンも見てみると、顔もホカホカにしながら目をトロンとさせていた。

 ほぼ二人同時に「ほぉ〜!」と息を吐いた。

「隣、いいかしら?」

 すると、背後から声をかけられたので振り返ると、艷やかでまとめ上げられた黒髪の女性が中腰で私達の方を見ていた。

 琥珀色の瞳でジッと見つめながら微笑んだ瞬間、思わずドキッとしてしまった。

「ど、どうぞ……」

 私はドギマギしながら少しだけロリンに近づくと、その人は「失礼します」と湯船の中に入っていった。

 近くで見ると、ますます彼女の漂う妖艶さを肌で感じた。

 ほんの少しだけ私の腕が彼女の肌に触れてしまったが、モチっと弾力があった。

 あと、その、言っていいのだろうか……嫉妬するぐらい胸が大きい。

「あの……いきなり何ですか?」

 ロリンが私が釘付けになっている事に気づいたのか、彼女に目つきを鋭くさせて聞くと、その人はフフッと妖しく笑った。

「確かに初対面なのにいきなり話しかけてごめんなさい。私、モミジって言うの。以後、お見知りおきを」

 モミジは口紅より赤そうな唇の隙間から雪のように白い歯を見せて笑った。


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