第36話 初めての友達
「ま、長いこと生きていると俺達とは違うものも見えてくるってことだ。もちろん、デリカシー皆無な発言は慎めよ」
「うっ……肝に銘じておきます」
直近で、トリスに飛べないのかと尋ねてしまったこともあり、ルミナは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。
「というか、トリスはこっちの馬車に来てていいのか? 調査団の護衛任務があるだろ」
トリスの率いる部隊は元々調査団の護衛任務を受けていた。
現在は遺跡から帰還している最中であり、ルミナ達の馬車にトリスがいるのはおかしいことであった。
「ライ君達がいれば護衛としては十分ッス。それよりも先輩がいるとはいえ、皇女殿下の護衛に人手がある方が大事ッスから」
「お前、絶対こっちの方が楽しそうだから来ただろ。部隊長になったんだから少しは自覚を持てよ」
トリスは自由奔放な性格をしており、規律を重んじる軍では浮いた存在であることはソルドも知っていた。ソルドが近衛騎士団に入る前もトリスは孤立していたこともあり、彼女のことは気にかけていたのだ。
そんなトリスが部隊長になったと聞いて内心喜んではいたのだが、実際は任務を放り出して自分達に付いてくる始末である。ご丁寧に皇女殿下の護衛強化のためという言い訳まで用意している辺り、無駄に知恵まで付いていた。
「まあ、いいじゃないですか。旅は道連れ世は情けと言いますし」
「旅どころか絶賛帰還中だけどな」
ルミナに宥められ、ソルドは肩を竦める。
あまり褒められた行為ではないのは確かだが、これから先向かう場所を考えればトリスがいた方が都合が良いことも確かだった。
「それじゃ獣人街の案内は任せた」
「了解ッス!」
ソルドの言葉にトリスは元気良く返事をした。
「獣人街といえば、城下町の外れにある場所ですよね?」
「ああ、ちっとばかし治安は悪いけど、その辺は俺やトリスがいるから安心しろ」
獣人街はその名の通り多くの獣人が暮らしているため、獣人街と呼ばれている。
城下町ではあまり獣人を見かけることがないのは、獣人街という獣人にとってまだ城下町よりも住みやすい環境があるからである。
「そうだ皇女殿下――」
「ルミナでいいですよ」
トリスが思い出したように何かを言おうとしてルミナに遮られる。
名前で呼んで欲しい。一見、微笑ましく見えるやり取りだが、獣人兵団所属のトリスが帝国第一皇女であるルミナを呼び捨てにすることは不敬に値する。
トリスとしては、素直にルミナの要求を聞き入れることには抵抗があった。
「うーん……」
「別に人がいないときくらいいいだろ」
見かねたソルドが助け船を出す。
「そうですよ。それに不敬かどうかを気にしてたらソルドなんて何度打ち首になっているかわかりません」
「そうそう、こんなじっとしてることも碌にできないポンコツ皇女に敬意なんて払うだけ無駄だぞ」
「打ち首ィ!」
いつもの容赦ないソルドの不敬発言に怒りを顕わにするルミナ。そんな二人のやり取りを見て吹き出すと、トリスはルミナに笑顔を浮かべた。
「わかったッス。二人のときは友達として接するッスよ、ルミナ」
「ええ、これからよろしくお願いしますね、トリス!」
初めて友人ができたルミナは弾けるような笑顔を浮かべた。
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