第24話 古代遺跡の謎
「こ、これが古代遺跡ですか!」
「……せっま」
遺跡内部へ足を踏み入れた途端、ルミナは目を輝かせ、ソルドはガッカリしたような表情を浮かべていた。
「何をそんなに落ち込んでいるのですか?」
「いや、だって古代遺跡って聞いたらピラミッドみたいな超ドデカイの想像するじゃん。外観からそんなに大きさはないと思ってたけど、内部はめっちゃ広いみたいなの期待してたんだけどな……」
ソルドは前世でのファンタジーの世界への憧れからか、古代遺跡と聞いて広大なダンジョンのようなものを想像していた。
だが、実際に遺跡を目にすれば目の前に広がるのはせいぜい四十平米程度の広さの石畳。その中心部に四体の石像が建っており、壁には古代文字らしきものが書かれていた。
壁も両側は柱だけで外の景色が見えており、あまり閉鎖的な印象もない。
「がっかり名所ってこういうのを言うんだろうな」
「そう言わずに調べてみましょう! 案外調べたら新たな発見があるかもしれませんよ」
「だと良いんだがな」
ルミナはワクワクとした様子で石像を調べ始めた。
一方、ソルドは周囲を見回して警戒を始める。
「っ」
「ブオォォォォォ……」
調査隊が言っていたように、遺跡内部には時々獣のようなの鳴き声が聞こえてきた。
しかし、鳴き声の主が姿を現すことはない。ルミナも最初こそ驚いていたが、すぐに興味をなくして石像を調べる作業に戻った。
「さっきから壁の文字と石像を行き来してるみたいだけど、何かわかったのか?」
ルミナの行動にソルドは首を傾げる。
ルミナは石像の周囲をグルグル回りながら何かを確認していた。
そして、満足したのか彼女はソルドの傍へと駆け寄った。
「これはもしかすると大発見かもしれません!」
「ほー」
「あっ! 信じていないでしょう!」
全く興味を示してくれなかったソルドにルミナは憤慨する。
ルミナは咳払いをして気持ちを整えると、ソルドに向かって説明を始めた。
「まず、壁に刻まれた文章は古代文字でこう書かれています――
1.勇敢なる王は兵を統べて前線を駆ける。
2.知略に富んだ軍師は後方で戦況を窺う。
3.闇に紛れし間者は王の傍で控える。
4.檻から解き放たれた獰猛な戦士は後方から戦場へと突入する。
5.戦場において突破口を開くのは、突如として前線に現れた食わせ物の呪術師だ。
直訳ですが、こんなところでしょう」
ルミナは幼い頃から英才教育を受けていたこともあり、古代文字の類も読むことができた。そのことに感心しつつ、ソルドはルミナの考察に耳を傾ける。
「それから、石像を見てください」
ルミナは遺跡内部に存在する動物を模した石像を指さす。
そこには、獅子、狼、蝙蝠、虎、狐らしき石像が等間隔に並んでいた。
形だけではなく、それぞれの石像の台座には動物の名前もしっかりと刻まれている。
・獅子:Lion
・狼:Wolf
・蝙蝠:Bat
・虎:Tiger
・狐:Fox
もちろん、古代文字でだ。
「床の石畳はまるでチェス盤のように規則的な正方形に配置されていて、動物の石像もそれぞれ等間隔に並んでいます。壁に刻まれた文章は戦においての兵の強さを表していると考えると、この遺跡の内部は巨大なチェス盤を表しているともとれるのです」
「おお!」
ルミナの仮説を聞き、ソルドは感嘆の声を上げる。彼女の仮説はそれなりに筋の通っているものだった。
さすがは帝国第一皇女、その頭脳は伊達ではない。
どんな結論を聞かせてくれるのかと、ソルドはルミナの言葉を待つ。
「つまり、この古代遺跡は昔のチェスのルールと駒を展示したものだったんですよ!」
「期待した俺がバカだった」
「何でですかぁ!?」
呆れ果てたソルドの表情を見て、ルミナは涙目になりながら詰め寄る。
ソルドはやれやれといった感じでため息をつくと、
「いくらなんでもそのまますぎる」
「後世に残したとき用にわかりやすくしてたかもしれないじゃないですか!」
ルミナは頬を膨らませてソルドに抗議するが、彼は気にせず言葉を続ける。
「昔のチェスの駒を展示してるだけだったら、もっと明確にこの駒はこの役割を持っているとか書くだろ。それこそわかりやすく伝えたいのならな」
「うぐっ」
ソルドの正論にルミナは何も言い返せなかった。
「でも、途中までは筋が通ってたし、案外ルミナの考察はあと一歩で大発見に繋がるかもしれない。俺も偉そうなこと言ってるけど、答えがわかったわけじゃないからな」
落ち込むルミナを見かね、ソルドは苦笑交じりにフォローを入れる。その言葉で少しだけ元気を取り戻したルミナは、再び石像を観察し始める。
「ブオォォォォォ……」
すると、先ほどから何度も聞こえていた獣の鳴き声が遺跡内部に響き渡った。
「またこの鳴き声ですか」
「見たところ生き物がいる様子はないし、風が原因かもな」
「風でこんな音がなるのですか?」
「水の入った瓶の口を吹くと音が鳴るだろ。あれと同じ……ん?」
そこでふと何かが引っかかる。
遺跡の柱の間から入り込んだ風で音が鳴ったとして、こんな不気味な音になるだろうか。
低く鳴り響く、獣のような鳴き声。水の入った瓶の口を吹くと鳴る音。そこまで考えて、ソルドはハッとした表情を浮かべる。
「ルミナ。もしかしたら大手柄かもしれないぞ?」
「へ?」
唐突のソルドの一言にルミナは気の抜けた声を漏らした。
そんな彼女を尻目に、ソルドは遺跡の床に触れながらニヤリと口角を上げたのであった。
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