第11話 お風呂でハプニング!?

「ふわぁ~~ねむ……ちょっと寝すぎたな」


 休日――。

 貴重な休日にも関わらず、俺は自宅警備員として昼寝を洒落こんでいた。時刻はすでに夕方。微睡む意識の中、狭い部屋を見渡す。どうやら霧切はバイト先からまだ帰ってきていないようだ。

 長く寝すぎた罪悪感に苛まれた俺は、上体を起こして腕を組んだ。


「さて、何しよう……」


 休日とはいえ俺にはやることがない。勉強に勤しもうかと思ったが期末テストはもう少し先だ。するなら霧切と一緒にした方が効率がいいと判断し、今日はやめることにした。

 格ゲーをしようにも霧切がいないとつまらない。


「これじゃ暇人だな……」

 

 こうしてダラダラしている間にも霧切はクレープ屋で切磋琢磨しているというのに……。俺といったら……。

 男子高校生の休日とは思えない暇さ。何もない。虚無。

 俺は少し考えた末、お風呂の湯を張ることにした。

 霧切が帰ってきてすぐに疲れた体を癒せるように準備しておくのだ。それがせめてもの自宅警備員の仕事だろう。ついでだ、先にお風呂に入ってしまおう。

 微睡まどろんだ意識の中、リビングで服を脱ぎ、洗濯機へ入れる。


「あれ? 電気が点いてる……?」


 一瞬霧切が帰ってきているのかと思ったが、バイトが終わって帰ってくるには若干早い。恐らく消し忘れだろう。

 俺はなんの躊躇いもなく、裸のまま浴室の扉を開けた。

 そして俺はすぐにとんでもない過ちを犯してしまったことに気づく。


「は……? えっ?」


 なんと目の前には裸姿の霧切が湯船に浸かっていた。


「え……なんで……」


 キョトンとした表情を浮かべる霧切。

 濡れた黒髪はカラスの濡れ羽根のように美しく、肌も白く透明感があった。

 ぱっと見でGカップぐらいはありそうな胸元は、幸い黒くて長い髪によって隠されている。

 見てはいけないと分かっていてもまるでブラックホールのように視線がそちらの方へ吸い込まれてしまうのは男のさがなのだろう。

 そして少しの静寂の後――。





「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああああああ」





 その悲鳴と共に微睡んでいた俺の意識が正常に戻った。


「わ、悪い! 帰ってたのか!」

「変態! エッチ! 馬鹿! 阿呆! 変態! 変態!」


 顔を真っ赤にし、上半身を両手で隠しながら悪口という悪口を全て言いきった霧切は周辺にあったシャンプーや石鹸を俺目がけて投げつけてくる。これじゃまるで鬼は外だ。


「ちょっと落ち着け!」

「これが落ち着いてられる!?」

「悪い! まさか帰ってるとは思わなくて!」

「もしかして、裸が目当てでウチのこと泊めたんじゃないでしょうね! 木下のこと信じてたのに!」


 もちろん俺は霧切のためを思い、湯船を張りに来ただけだ。このようなムッツリスケベイベントを望んいでいたわけではない。決して。

 しかし、今の俺の格好を見て、どう言い訳するのが正解なのだろう。


「ちょ、ちょっと落ち着け! 誤解だ! まずは俺の話を聞いてくれ! なぁ! 頼むよ!」

「話すことなんてない! っていうかいつまでいるわけ!?」


 俺はなんとか弁明しようとするが、それをすればするほど、女性の逆鱗に触れてしまうことを理解していなかった。


「もしかして……見た?」

「見たって……?」


 霧切は目元を鋭くしながら俺に訊いた。

 見たというのはのことだろうか。


「ウチに言わせる気? で、見たの?」


 しかし、ここで嘘を吐くのはいかがなものだろうか。

 ここは駆け引きだ。もしここで嘘をついてもどうせ霧切の攻撃は止まらないだろう。

 しかし、本当のことを言って許してくれる霧切とは思えない。ここは素直に弁明したほうが被害は少ないだろう。

 逡巡した末――。


「み、見ました。でも、髪の毛で上手く隠れてたぞ! いやー危なかったな! あはは!」


 と、霧切に向けて親指を立てながらありのままを伝えた。


「それじゃあ木下の記憶から抹消する必要がありそうね……」

「えっ……」


 落ち着いた声色で霧切はそう言うと、シャワーのノズルに手をかけた。


「覚悟はできてる?」

「か、覚悟とは…………?」


 石鹸やシャンプーとは違ってシャワーのノズルは金属でできている。当たったら相当痛いのは見るだけで分かった。

 というかそれ外せたのか。


「制裁!」

「ちょ、ちょっと待て! それは凶器になる! それだけはやめてくれ!」


 その後、なんとか落ち着きを取り戻した霧切は、腕を組みながら恥ずかしそうに頬を赤らめた。


「もう……気を付けてよ……」

「す、すみましぇん」

「ウチもちょっとやりすぎたかも……次からはお互い気を付けよう」

「お、おう……」


 その後、話し合いの末、お風呂に入る時は必ず一声かけるルールが敷かれた。

 そしてさっき見たものは全て忘れるようにと念を押されたが、忘れようにもあんな刺激的なイベントを忘れろと言う方が無理な話である。

 これは俺の人生で一生刻み込まれるであろう出来事なのは間違いない。

 そして俺は改めて、女性と暮らすことの大変さを身に染みて感じたのであった。

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