第17話 また手を掴むために
霧切が休みということは学園全体で噂になっていた。
霧切の大ファンである男子たちは嘆いており、女子たちの間でも心配の声が上がっている。
相変わらずの人気者だなとは思ったが、霧切のことを考えるだけで胸が苦しくなった。
学校を休もうかとも思ったが、ずっと家にいたら霧切のことを考えてしまいそうだったので、無理に登校した。それと、霧切のことだからいつものようにケロっと登校しているかもしれないと思ったから。
会ったところでどうするべきかはまだ考えは纏まってないが、霧切の顔を見て安心したかった。
「よぉ! 相変わらず辛気臭い顔してんなぁ!」
「おう……羽賀か」
羽賀の相手をしてられるほど心に余裕がない俺は、何もない空間を見つめながら淡白に答えた。
「お前、メッセージ無視すんなよ……って、お前大丈夫か? 顔色悪いぞ」
いつもの雰囲気とは違うのを悟ったのか、羽賀が心配そうに俺の顔を覗く。
「俺の顔そんなに悪いか……」
朝に洗面台で顔を洗った時は涙を何度も拭ったせいで目元が腫れていたからそのことだろう。
「いや、悪いっていうか、今にも死にそうな顔してるけど、寝不足か?」
どうやら俺の顔は相当やつれているらしい。
実際、あの後霧切のことを考えるたびに泣いてばっかりだったので、一睡もできなかった。
「なんかあったのか? 何かあったら相談乗るぞ」
羽賀が俺の右肩に手を添えながら優しい口調で言った。
羽賀が千夏と付き合ったのは優しくて聞き上手だからだと前に千夏がうっとり顔で言っていたが、まさかここでその片鱗が垣間見れるとは思いもしなかった。
いつも羽賀のことは雑に扱うことが多いので、少し申し訳ない気持ちになった。
今度からは羽賀に優しくしよう。
「俺、霧切が好きなんだ」
羽賀の優しさに触れてしまったからか、俺は霧切に抱いている気持ちを雑談するときの軽い口調でカミングアウトしていた。
「あーなるほどね……って、えっ!? どゆこと!?」
思いがけない俺のセリフに羽賀が真剣な顔から驚いた表情に変わる。
「霧切って、あの……霧切美鈴のことか!?」
「あぁ……ずっと黙ってたんだけどな」
霧切のことが好きな男子生徒はごまんといるので、俺がここでカミングアウトしたとしても特に不思議なことではないのだ。
それに今までの関係がバレるわけではないから特に問題はないだろう。
「お前、随分と高嶺の花を狙ったなぁ。ということは、霧切に告白したいってわけか」
近からず遠からずと言ったところだ。
今の俺のセリフだけでそこまで汲み取れるとはさすが羽賀だ。
「まぁそんなところかな……」
「まぁたしかに可愛いしな! 好きになるのも無理はない」
「俺、どうしたらいいかな」
俺は何気なしに羽賀に相談していた。今の俺は相当参っているらしい。
そもそも羽賀に相談すること自体出会って初めてだ。
それなのに羽賀は困った表情一つ浮かべず、真剣に俺の話を聞いてくれる。なんて頼もしいんだろう。
すると、羽賀は俺の背中を思い切り叩いて笑顔でこう言った。
「まぁ大丈夫だ! 俺が千夏に告白した時もめちゃくちゃ緊張したからさ! だからお前も当たって砕けろだ! 付き合えたらそれはそれでいいじゃねぇか! それで無理ならステーキでもなんでも奢ってやるから元気だせ!」
羽賀の屈託のない笑顔で俺は落ち込んでいた気持ちが一瞬で晴れ晴れとした。
そうだな。たしかにその通りだ。
後悔したって過去に戻れるわけじゃない。切り替えて霧切を救う方法を考えるんだ。
まずは、霧切が住んでいる場所から知る必要がある。
「ありがとう。ステーキの話忘れるなよ」
「へへ! なんだよお前、砕ける前提で話するなよ!」
落ち込んだ時に励ましてくれる友人がいて本当によかったと心から思った。
そうと決まればまずは美香さんの元へ行かなくては、身近な人物で霧切の住所を知ってるのは恐らく美香さんだけだろう。
美香さんの病院は学校から少し距離がある。
時計を見ると、お昼休みが終わる時刻へと差し掛かっていた。
この際午後の授業はどうでもいい。いますぐにでも霧切の居場所を突きとめなければいけない。
「悪い羽賀、午後の授業は欠席する」
「えっ、お前……どこに行くんだよ」
「霧切に会ってくる! じゃあな!」
「霧切に会うってお前……今日は休みだろ? 告白ならまた今度に……っておい!」
気づけば俺は、教室から駆け出していた。
急に羽賀が大きい声を上げたのと同時におとなしくて目立たない俺が急に駆け出したことで、周りが何か何かと俺のことを見つめる。
今までの高校生活で無遅刻無欠席だった俺だがこの際どうでもいい。今は霧切のことが最優先だ。
俺は急ぎ美香さんの元へ向かった。
またこの手で霧切の手を掴むために、今度は絶対に離さない――そう誓いながら。
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