黒百合の騎士ブラックサレナ

如月千怜【作者活動終了】

前編 正体不明のマスカレードナイト

 私には、憧れの人がいる。

 あの日グリフォンに襲われて死にかけた時助けてくれた、仮面の騎士だ。

 しかもその人は、見かけではわからなかったが確かに女性の声で話しかけてきた。今思えば男性にしては細身な人だったから、きっと女性で間違いない。


「――ふうん、黒い鎧を着て拳銃を扱う仮面の騎士か」


 彼女にもう一度会いたい、そう思ってギルドマスターにその話をしてみたところだった。


「申し訳ないけど、僕のギルドにはそのようなみかけの冒険者は所属していないな」

「……他のギルドには、確認をとったのですか?」


――実をいうと彼女を目撃したのは、私だけではなかった。私以外にも多数の人を救護した。目の前にいるギルドマスターネロも、彼女のおかげで戦線を立て直すことができたとその実力を高く評価している。


「横のつながりがあるギルド全部に声をかけたよ。だけどみんな知らないって言っていた」


 だけど手がかりは、全く出てこないようだ。


「――ただ気になったのがね」

「?」

「君のご主人様でもあるユークリッドにも僕から直接その仮面の騎士のことを聞いてみたんだ」

「……どうだったんですか?」

「……それが、あいつは『知らないね』と言っていたんだが、明らかに何か知っているようなはぐらかし方だった」

「――!!」


――それが本当なら、彼女は旦那様の知り合いということになるのか。旦那様と距離が近いのか、遠いのか。それまではわからないが、何かしらの手がかりがやっと出てきた。


「僕にはすぐわかったよ。あいつは隠し事が大好きな奴なのは君も知っていると思う。図星を突かれた時に嘘をつくのが昔からヘタなんだよ」


――だったら、なおさら聞き出したい。だけどこういう態度をとる人から真実を直接聞き出すのは現実的ではない。


「……とにかく、その仮面の騎士の正体が知りたいなら、ユークリッドの動向に注意を払うことだね」

「さりげなくボロを見せるのを、ゆっくり待つしか方法はないということですか?」

「まあそういうことだ。ユーグリッドが詮索されるのを嫌がった以上、僕は君を手伝うことはできない。くれぐれも今の話は内密に頼む」


 そう言って、応接室の席を彼は立ち上がった。


「――少なくとも、あいつには黙っておくのが賢明だ」

「……ありがとうございます」

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