第49話 バーシル記念館
準備を終えてバーシル記念館に到着すると、捜査二課の人がすんなりと中へ通してくれた。
「おい、変装の達人がいつ紛れ込んでるかわからないのに顔パスは緩すぎないか?」
「こういうガバガバ警備してるからいつも逃げられるんじゃないかなぁ」
「もし俺達の中の誰かが既に変装して入れ替わってるとかだったらしゃれにならないだろうに」
「……あとでお互いに身体検査しましょうか」
俺とアイが警備の緩さに苦言を呈していると、ディアナはため息をついていた。
それから考え込むような表情を浮かべると、不思議そうに呟いた。
「どうしてベオウルフはまた表舞台に顔を出したのかしら?」
「怪盗って人種は派手好きでプライドが高い。どんな状況だろうとロゼミみたいに挑戦状を叩き付ける奴に対して引くって選択肢はないだろうよ」
「本心では来たくないって思っててもプライドがあるから引けないってことね」
本来、泥棒とはいかに相手に気づかれずに物を盗むかというところが重要だ。
しかし、怪盗はワザと注目を集めて不可能と思われる状況で盗みを働く。
犯罪を一種のエンタメに昇華して、自分の名声を高める。
そんな過度な目立ちたがり屋に逃げるという選択肢は存在していないのだ。
中に入る前にお互いに身体検査を行う。
今更だが夫婦になったとはいえ、俺が体を触ることに抵抗はないのだろうか。
「…………」
ふと、ディアナの顔を見てみれば耳まで真っ赤になっていた。
いや、めっちゃ抵抗あるじゃん。
「お前、よくそんなんで俺と結婚しようと思ったな」
「し、仕方ないじゃない! あのときは後先考えずに突っ走っちゃったの!」
「ま、ディアナのそういうとこは嫌いじゃない」
自然と笑みがこぼれる。
この日常がずっと続けば良いのに、と柄にもなくそんなことを考えてしまう。
「うふふー、パパとママ仲良しだね! よっ、おしどり夫婦」
アイは俺達のやり取りをにやけ面で眺めてくる。
「実際のおしどりって一夫多妻らしいぞ」
「子供相手にやめなさいよ……」
それから身体検査を終えて展示室の中に入ると、ロゼミが優雅にこちらへと歩み寄ってきた。
「あら、みなさんお揃いでしたのね。ディアナ警部、ライアンさん、この度はご結婚おめでとうございます」
「ロゼミ、いろいろ協力してくれてありがとね。今日はよろしくね」
ディアナとロゼミはいつものように喧嘩をせずに、お互い笑顔で挨拶をしていた。
「で、今日はどんなトンチキ発明品で警備するんだ?」
「トンチキ発明品とは言ってくれますな」
俺の言葉に反応したヴィクトルがすかさず会話に割って入ってくる。地獄耳かよ。
「今宵の装置は特別ですぞ。何せケースを開ければ電流が流れますからな!」
「だから電流好きすぎるだろ。スタッフに化けてすり替えられたら意味ないだろうが」
相変わらずガバガバな防犯装置である。
何でこんな発明家がいくつも特許を持っているレベルで優秀な発明品を生み出しているか不思議でしょうがない。
「ノンノンノン! この装置は生体認証によって本人か否かを判別することが可能なのですぞ!」
「つまり?」
「登録のない人間がケースに近づくだけで床から電流が流れますぞ」
「俺達は登録なんてしてないんだが……」
「もちろん、名探偵殿にも登録していただきますぞ」
ヴィクトルはそう言うとタブレットPCを取り出し、指紋、瞳、声紋など、を登録していく。
一般に販売している機器だけでこういったデータを取れるプログラムを作れるという時点で、彼が優秀な発明家だということは疑いようもないが、やはり才能を使う方向性が間違っている気がする。
「うっ……なんかお腹痛くなってきた」
俺とヴィクトルが話していると、ディアナは唐突に腹を押さえて苦しそうに呻きだした。
「大丈夫かディアナ? おいしいからってエリィのサンドウィッチ食い過ぎたんじゃないか」
「確かにパパの分もちょっともらってたもんね」
「まったく食いしん坊な方ですわね」
全員からの冷たい視線を浴びたディアナは、いたたまれない表情を浮かべて早足でトイレへと向かった。
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