第38話 Mr.ネロの死
世界的なマジシャンMr.ネロの死はあっという間に世間を騒がせた。
新聞もテレビもネットニュースも親父の死をセンセーショナルに報道している。
「ったく、何が我が国の損失だよ……」
あのクソ親父は今頃地下にでも潜ってピンピンしていることだろう。
俺は酒を呷りながら携帯で眺めていたネットニュースを閉じる。
行きつけの店である〝Café & Bar HAIMA〟は昼にはカフェ業態、夜にはバー業態として営業している。
店内にはダーツ台も用意してあり、俺は憂さ晴らしに飲み仲間とダーツに興じていた。
「ライアン、次はお前の番だぞ」
飲み仲間に呼ばれたため席を立つ。
余計なことを考えていては的を外してしまう。今はゲームに集中しよう。
俺はダーツを構えると、狙いを定めて投擲する。
刺さった場所は二本が中心部分、一本は僅かにズレて二十点の位置だった。
「だー! またライアンに負けた!」
「お前強すぎるだろ!」
「少しは手加減しろよ!」
「ダーツで俺に勝とうとするなんざ百年早い」
「何でそんなに酔ってるのに正確に投げれるんだよ!」
俺が最高得点を叩き出したことで、飲み仲間達が項垂れながら賭けていた紙幣を差し出してくる。
「エリィちゃん! ライアンは今日調子悪いんじゃなかったのかよ!」
「あはは……調子が悪い程度じゃライアンさんには勝てないと思いますよ」
八つ当たり気味に恨み言を吐く飲み仲間にエリィは苦笑する。
「エリィ、おかわり頼むわ」
俺は空になったグラスをエリィに差し出す。
すると、エリィは困ったような表情を浮かべる。
「もう飲み過ぎですよ、ライアンさん。そろそろ帰った方がいいんじゃないですか?」
「そうだそうだ!」
「調子が悪くてその腕前じゃ毟り取れねぇだろ!」
「子持ちはさっさと帰ってガキにミルクでも飲ませてろ!」
「お前らなぁ……」
飲み仲間のガラの悪さにため息が出る。
「俺だって何も考えずに飲みたいときがあんだよ」
「わかりました。これが最後の一杯ですからね?」
エリィが用意してくれたおかわりを俺はゆっくりと味わう。
どうにもここ最近は調子の狂う出来事が多すぎた。
ディアナとの出会いに、親父との再会。
どう足掻いても俺は厄介ごとから逃げられない運命にあるみたいだ。
「ハロウィン・シンジケート、か……」
親父が組織から命を狙われている理由はわかっている。
怪盗として名を馳せた親父は、盗んだ宝石を元の持ち主に返却したり、この街に蔓延っている美術品の偽物を盗み出して贋作師の悪事を白日の下に晒したりしている。
それによって組織が被った被害を考えれば、邪魔な親父を消そうと考えていてもおかしくはない。
姉さんもそうだが、どうにもスローン家は組織とは深い因縁がある。俺だってそうだ。
これからどうするべきか。
少なくとも、現状維持というわけにもいかないだろう。
そんなことを考えていると、店内のドアが開いてベルが鳴った。
「ライアン、また飲んでるの?」
店内に入ってきたのはディアナだった。どうやら、帰りが遅いからわざわざ見にきたようだ。
「ディアナさん、いらっしゃいませ! お迎えですか?」
「ええ、そこの大きな子供のね」
ディアナは呆れたように冷たい視線を向けてくる。
「おい、ライアン! 嫁さんが来たぞ!」
「ったく、こんな美人の嫁ほったらかしやがって!」
「かー! 俺も美人の嫁が欲しいぜ!」
「だから嫁じゃないっての……」
飲み仲間の間でもすっかりディアナは俺の美人嫁として有名になっていた。
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