No. 8851 銀河流域におけるタバコの栽培について

定期報告書 No. 8851

銀河流域におけるタバコの栽培について

新暦 23 年夏季第 3 月 30 日


 植生に統一性が見られないことから注目されていた銀河流域において、タバコの栽培がおこなわれていることが判明したため報告する。

 また、このタバコの葉を用いた煙草の製造についても詳細を記す。


 この煙草は地上で製造されている紙巻きと同様の工程を経て作られる。すなわち、加水と加熱の後に再度乾燥し、熟成した葉をブレンドして巻き上げる。


 加水には銀河の水、加熱には石炭を用いる。

 特筆すべきは、巻き上げ紙の原料には使用済みの銀河鉄道の切符が使用されている点である。


 日々相当量が廃棄されていると予測されていた切符の処理方法は他分野にまたがる関心を呼んでいたが、今回の調査でその一端が明らかになった。


 切符は一般的な再生紙と同様、破砕と加水によるパルプの作成、整形、乾燥を経て巻き上げ紙へと加工される。


 この「再生紙」には、元の切符に印刷されていた模様や文字がランダムに現れることがある。

 そのため完成した煙草はそれぞれユニークな外見を持つ。これを目当てにしたコレクターも存在しているようだ。


 煙草本体の製造に話を戻す。


 煙草には数種類の銘柄が存在し、それらの特徴を出すため数種類のタバコの葉がブレンドされる。これは専門の職人が手作業で行う。


 このブレンド技術に関しては資料の発見に至らなかった。

 不確実な情報ではあるが、これは師匠から弟子にのみ口伝で伝えられ、記録を残すことは一切許されていないらしい。また技術のすべてを知るのは当代に一人のみであるとも言われている。


なお、煙草の味わいについては、

「銀河の左岸と右岸で葉の風味が違う」

「銀河の下流に向かうほど《辛い》味わいになる」

など、愛好家同士の経験則や噂として知られている情報を入手できた。


この「銀河の煙草」は現在銀河ステーションで販売されている。

ただし、多くの工程を人力で行っているため大量生産が不可能であり、数年ほど品切れ状態が長く続いている。

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