その赤ちょーだい

豆腐数

第1話 こんにちはガーネット

「その赤ちょーだい」


 休日の朝寝坊の朱美あけみちゃんが、お昼兼朝ご飯のサラダのプチトマトにフォークを突きさして食べようとすると、真っ赤な髪の、手のひらサイズの小さな女の子が、朱美ちゃんの周りをブンブン飛んでおねだりしました。


「いぇーい」


 でっけぇ虫だなあと思ったけど、朱美ちゃんは生トマトはそこまで好きじゃなかったので、とりあえずフォークを突きさしたまま献上しました。


「ああ、違うのよ。赤だけ。色だけ分けてもらえればいいの」


 妖精は背中のリュックから、苺ジャムくらいの大きさのビンを取り出し、よいしょ、よいしょと苦心して開けました。すると朱美ちゃんのプチトマトから、ふんわりと赤い綿菓子のような煙がわいて出て、ビンの中に潜っていきます。煙はビンの中に納まると、透き通った赤色の液体に変わるのでした。まるで空の雲が雨になって落っこちるみたいに。代わりに朱美ちゃんのプチトマトは、収穫一歩手前みたいに色が薄く変わっています。


「おおー、すごい」


 物珍しさから朱美ちゃんはプチトマトを口にいれましたが、味はいつも通りグジュッとして青臭い感じです。


「うぇー」


 幼稚園に持っていくお弁当箱にプチトマトが入っていると、残したりウサギ小屋のウサギにあげたりアリさんにあげたりして怒られる朱美ちゃんですから、たまに食べてもこんな反応。


「私、妖精のガーネット。このビンいっぱいに赤を集めないといけないのよ。手伝ってくんない?」

「おおー、たのしそう。あたし、あけみ!」


 朱美ちゃんはさっそく、お兄ちゃんが愛用している赤いノートパソコンの前に妖精さんを連れていきました。お兄ちゃんは「シャアではなく俺専用だ、触るなよ」などとメガネをクイッとしつつ朱美ちゃんに言うのですが、まあ触ってないからいいだろうという朱美ちゃん判断なのでした。


「これはちょうどいい赤ね」


 妖精はビンのフタを開けてお兄ちゃんのノートパソコンから色を拝借しました。


「もっともってっていーよ」

「マジでー? よっ、太っ腹ー!」


 掃除機の勢いでビンがパソコンの色を吸い込んで行きました。どんどんお兄ちゃん専用パソコンの色が薄まっていきます。


「ぬおー!! なんだこれはぁ!!!」


 シャア専用というか、グフイグナイテッドくらいのオレンジになっちゃいましたが、まあ問題ないでしょう。作者もお兄ちゃんほど詳しくないし。朱美ちゃんはシンプルに「カキのみみたい」とケラケラ笑っていました。

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