虹色の英雄伝承歌(ファーレ・リテルコ・ポアナ)紅刃の章
新景正虎
紅刃の章1~復讐の果て、さまよい続ける死神剣士~
序章 振り下ろされし、紅き復讐の刃
第1話 死神の剣
「どうやらここで生き残れたのは、おれとお前だけのようだな」
雷の予兆である不気味な音がうなり、空には厚い灰色の雲が垂れこめている。今にも雨が降りだしそうな空の下に広がるそこは、戦場。
戦いに傷つき倒れた無数の兵士たちの中に立つ二人の人影。だが、どこの国の兵士かを示す兜の意匠はそれぞれ異なる。
つまり、この二人は敵同士……
そう確信したのか、片方の兵士が無言のまま手にした剣を相手に向ける。
「おいおい、まてよ。そう殺気立つな」
一方、剣を向けられた方は剣を収め、慌てた様子で手を上げる。
「この戦もそろそろ終わる、俺のいる『オーヴェ・スタフィ王国』の勝利でな。
…で、これは提案なんだが、お前、俺のところに来ないか」
「なに?」
その言葉に、剣を突き付けていた方の兵士はわずかに反応を見せる。
「…お前さんも傭兵だろう?俺もそうだ。名はブル・フレッチャー。
このままだとお前は帝国の敗残兵として追われることとなる。報酬だってもらえるかどうか。だがな、俺のところに来れば王国から報酬がもらえる。死んだこいつらの代わりにな」
そう言うとブルは足元に折り重なっている兵士たちに目をやる。
彼らはブルと同じ兜を身に着けている、つまり仲間。だが、そんな彼らを見下ろすブルが発する言葉には悲しみも怒りも感じられない。
「……そんなことをしてあんたにどんなメリットがある」
「俺は戦いの中でお前の戦いぶりを見ていた。あんた『エダ・イスパー』だろう?死神の剣とあだ名される」
その指摘に相手の体が一瞬震える。
「戦の行方が決まったのにそんな奴とやりあうのはごめんだ。それに、俺はこう見えてもこっちの方も回る。戦が終われば傭兵業は剣だけじゃやってはいけない、……何、悪いようにはしないさ」
自分の頭を指さし、ブルはそう得意げに言い放つ。それに対し……
「……分かった」
そう言うと傭兵、エダは剣を収め、兜を脱ぐ。
そこから現われたのは、表情こそ険しいものの、顔つきにはまだあどけなさを残した青年だった。
「ほう、若いな。これはまた末恐ろしいというものだ」
そう言うとブルも兜を取る。だがその顔は仮面によってなお隠されている。
「これか?昔の戦いで顔に傷を受けてな、人に素顔は見せられんのだ」
そう言いながらブルがエダの方へと足を歩みだした……次の瞬間! エダは兜を投げ捨て、猛然と相手の方へと駆け出す。
「な!」
その突然の動きにブルの反応が一瞬遅れる。だが、その一瞬でエダは懐へと踏み込み、体当たりを食らわせる。
その勢いで倒れ込むブル。それに対し、エダは腰に帯びていた短剣を引き抜くと、ブルの首筋ではなく、甲冑に覆われていない彼の左太ももの脇へと突き立てる。
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