第16話 吸血鬼の焦燥
時は美夏が拉致された時点に遡る。
「フフフッ」
白色のワンボックスの車内でベルテは会心の笑みを浮かべていた。
エリザベートが所望していたエルフの少女が、簡単に手に入れられた事に拍子抜けと共にHSSを嘲る感情が抑えきれない。
自分と一緒に3列シートの一番後ろに昏睡している
通信機や武器になりそうなものを奪って、それらはシートに転がしてある。
次に黒いケースから血液採取用の道具を取り出して、その針を美夏の腕のどこに刺すか考えていると、ハンドルを握っているアインが聞いて来る。
「お嬢様、行き先はどこにしますか?」
「予定通り新羽田空港に急ぐわよ。EAWアラートは発報されるまで家族も警察も発報の判断をするのに平均1時間はかかるから十分に逃げ切れるわ。
それを音声認識したナビAIが答えを表示する。
『現在は
「ふーん。空路が1時的に封鎖されたとはねぇ。私達に気が付いたワケじゃないようね」
吸血姫エリザベートが美夏の確保の為、準航宙型プライベートジェットを飛ばしているが空路の一部にが30分封鎖されたらしい。
プライベートジェットに外交官コードを与える事も出来たが外務省を刺激する事を避けるため、民間コードにした事がマイナスに働いた結果だ。
「ま、いいわ。この程度はバッファで吸収できるだろうし」
「お嬢様、そろそろ幻影魔法でこの車を包まないといけない時間ですが?」
「煩いわね!指示されたレベルの魔法はかなり疲れるの、到着時間を考えると新羽田まで持たないから高速に入ったら使うわ!」
アインを怒鳴りつけてベルテは美夏の腕に注射器を刺す、ビクッと少女の身体が小さく跳ねる様子が、嗜虐心を刺激して止まない。
ゾクゾクとした衝動を抑えながら注射器を操作する、血がシリンダーを経由し保存容器に入って行く。
この娘の体重は把握している、命の危険に陥る出血にはまだまだ大丈夫だろう。
本国に戻った時に、エリザベートと謁見できる身体状況なら問題ないだろう、とベルテは思っている。
「それにしても凄く美味しそうな血ね」
容器を交換する時に1滴垂れた美夏の血を舐めとると、瞬時に脳内へ多幸感がバッと広がり、体の芯がゾクゾクッと痙攣する。
恍惚な表情で息を乱しながら美夏を見つめる。
「うはぁ、これはいいわぁ・・・少しくらいおこぼれを貰えるなんて最高かも」
ベルテが美夏から血液奪取をしている中、彼女たちの乗る車は来訪者出現後に増やされたスマートICから関越自動車道に進入する、料金所にはナンバー読み取り機はあるが美夏の家族がアラート発報にまごついている筈だ。
それであれば幻影魔法でナンバーを隠さなくてもいいだろう。
そう思った時だ。
自分の持つ情報端末とナビが耳障りな警報音を上げ、すぐに音声と画面情報でEAWアラートが発報された事が分かる。
『EAWアラート発報:岩戸市総合病院から女性のエルフ1名が拉致されました。周辺の警察組織、ブレイカーギルド、防衛組織は捜索行動に入って下さい。詳しい情報は・・・』
ガン!
途中までその情報を見たベルテは、怒りに任せて画面にシリンジを投げつけ、破壊する。
「はぁ!?こんな早くアラートが来るって・・・この娘の家族は常識知らずなのかしら!?鈴木も何をしていたのよっ!」
アラート発報には様々なメディアに割り込むので、例えばTV番組の編成変更、アニメの画像への割り込みなどの復旧コストがかかる。
それ故、発報が義務化された当初より発報までは様々な判断のためにそれが遅れる事が常識だったはずだ。
一息に怒声を発してから装飾が施されたナイフ形のMLを持ち、幻影魔法を展開する。
ほぼ瞬時に車を幻影が覆い、ナンバーまでもが違う黒のセダンが出現する。
「お見事です、お嬢様。進路はどうしますか?」
「あなたに言われても嬉しく無いわ!・・・ナンバーが読み取られたけど、まだ私の車の情報までは分かっていないはず」
ガリッと爪を噛んでベルテは心を落ち着けにかかる。
情報ではHSSは警察組織とは連携があまり取れていないと聞いている、それであればナンバーの情報を共有されるまで時間がかかるだろう。
自分の魔力残量、手持ちの
「このままで良いわ。何も起きなければ新羽田まで魔法は持つはず。でも急いでっ」
怒りに任せてナビを壊したので、スマートフォンのナビ画面を見ながらアインに指示をする。
エンジンが高回転の音を立てて速度がグングンと増加していく、制限速度を超える速度でベルテ達の車は外環自動車道を疾走し始める。
だが、ベルテの持っている情報は細部が間違っていた。
HSSは確かに警察組織と連携はしにくい、と言われているがそれは岩戸市警以外の場合だけだった。
これは今でも警察の悪癖として残っている“管轄”と同じと言って良い。
岩戸市防衛のためのHSSの必要性は岩戸市警の人員のほとんどが理解している。
この為、警察組織はいつもでHSSと連携を取れる態勢になっていた。
HSSは魔導大戦の前から、敵味方関係無く数多の組織と情報戦を繰り広げている。
その中で作られたのがHSSネットワーク対策班。
過去と現在までに彼らが放った偽情報の断片が、ジワジワとベルテ達の計画を蝕んでいる事にまだ、吸血鬼たちは気が付いていなかった。
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