第34話 保健ちゃん


 清白すずしろ帆乃花ほのか

 整備士養成Bクラス所属の、保健衛生管理官見習い。


 通称“保健ちゃん”。


 いつも保健室にいて、怪我したり体調不良になった人を看てくれている。


 勤務態度はほどよく真面目。

 活躍に派手さはなく、けれど目立った失敗もしない。


 青みがかった白髪や、小柄な体にハッキリとしたメリハリなど。

 よくよく磨けば光る要素もいっぱいあるが、総じて――地味。


 そんな評価を周りから受けている彼女は。


「ありゃ、完全にパイロットとして戦うために存在するような技能だ」


 その実力を隠していた。



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 “アーカイブ”を起動します。

 記録している最新の、清白帆乃花のステータスを表示します。


   ・


   ・


   ・


 Name:スズシロ・ホノカ Age:15


 【Status】

 体力 :958/1118〔S〕

 気力 :872/1006〔S〕

 

 運動力:1032〔S〕

 知力 :801〔S〕

 魅力 :442〔A〕

 感応力:945〔S〕

 士気 :56〔F〕


 【所持技能】

 殻操3・格闘3・射撃3

 狙撃2・夜戦2・隠密1

 事務1・医療2・情報3

 家事2・歌唱1・話術1

 同調2・幻視1・幸運4

 戦士3


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 ……うむ、強い。

 HVVハベベ初見でここまで育成出来たら神と呼んでいい能力値&技能だ。

 生き延びることで達成できるBエンドくらいなら、余裕で迎えられるだろう。


 ちなみにこの世界基準なら、600もあればその能力において一級品。

 技能に関しちゃ1でもあれば、十分その道で役に立てるといわれるくらいだ。


 清白さんは間違いなく、トップクラスのステータス保持者だといえるだろう。



(特に精霊殻せいれいかくを操作する技能である殻操かくそう技能と、戦士系の職に就くためのライセンスである戦士技能を両方とも3持ってるのがあまりにも偉い)


 この世界において、殻操&戦士技能を持っているという事実。

 それすなわち、精霊殻パイロット資格持ちということに他ならない。


(しかもだ。戦闘技能複数持ち、かつ個人の精霊契約に必要な超常技能の同調&幻視技能まで持っていると来たもんだ。こりゃもう、パイロットにしてくださいって言ってるようなもんだぜ)


 現在、精霊殻1番機のパイロットは整備に回った佐々さっさ君が兼任している。

 彼は整備技能4レベルというチート持ち。できれば後方で活躍させたい。


(パイロットとして即戦力になる清白さんを、見逃す手はない)


 そう、見逃せないのだ。


 いろんな意味で。



(清白さんの能力に関してまだ突っ込みたいところがあるにはあるが、今は置いておこう)


 今考えるべきは、どうやって彼女をパイロットにするか、だ。


(司令官も配属されたし、今なら権力を使って強制的に配置換えすることもできる)


 が、それをやって万が一逃げられたりすると困る。


(あくまで彼女自身の意志で、パイロットになってもらいたい)


 清白さんは、自身のスペックを超常能力“隠れ身”で隠蔽していた。

 あれは自分の意志で発動させる能力だから、彼女は自ら隠していたということになる。


 つまりはそうすべき理由がある、ってワケだ。


 心当たりは……ないワケじゃない。

 多分メイビー十中八九あれ関係だとは思うんだが、そうなると……うーん。



「……ひとまず、一日一回の提案を繰り返すのは前提でっと」


 天2軍学校の小隊員相手には、どういうわけだかゲーム版だけの仕様だったはずの好感値変動システム――FESが適用されている節がある。存在の確認はできてないが。

 であれば、一日に何度も同じ提案を繰り返すと好感値が下がり提案成功率も下がる、って仕様が適用される可能性は無視できない。


 今はまだ清白さんと交流を重ねつつ、目に見えない好感値を上げていく段階だ。

 それに毎度毎度断られちゃいるが、手応えがないわけじゃない。


(なんかこう、受け入れられてる気はするんだが、仕事中だから断られてるみたいに、別の理由でダメにされてる感じなんだよなぁ)


 ともあれ継続は力なり。

 ワンチャンに期待だ。



「あ、黒木! このボクと一緒に語ろごたったいに出演――」

「すまない。今考え事をしているんだ、一人で行ってくれ」


 佐々君への塩対応で、上げすぎた好感値を下げる作業も継続中だ。

 もっとも、今の誘いはそうじゃなくてもお断りだがな!


 ノーモア和田英子!


 プリーズギブミー黒川めばえ!



「――そ、そうか。わかった……このくらい一人でこなせということだな。いいだろう。キミの唯一無二の友たるこの佐々千代麿。全力で成し遂げてみせるさ!」


 謎に張り切りだした佐々君を見送り、俺の視線は保健室のドアへと向く。

 ターゲットはこのところ、以前にも増して保健室に引き籠るようになっていた。


 今そこに押しかけたところで、逆効果だろう。



「……もうちょっと、外堀から埋めていくかな?」


 穴熊よろしくガードの堅い、保健ちゃん。

 そのガードの堅さ誉れ高いが、どうにもそのガード……無理をしている気がする。


 さてどう動いて詰めたものかと、俺は考えを巡らせていくのだった。



      ※      ※      ※



「はっ、はっ、追いかけては……来てない、みたい?」


 全力疾走で逃げて、逃げて、保健室まで戻ってきた。

 部屋に満ちる消毒液の匂いにホッとする。


「ちょっと外に出たら、こんな、簡単に見つかっちゃうなんて……」


 椅子に腰かけ、手首の端末を開く。

 特別製のネットリンカーを使い、私はあの人の情報を確認した。


 ヴンッ。


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 “アーカイブ・白”を起動します。

 記録している最新の、黒木修弥のステータスを表示します。


   ・


   ・


   ・


 Name:クロキ・シュウヤ Age:15


 【Status】

 体力 :2257/2831〔OD〕

 気力 :2163/2706〔OD〕

 

 運動力:2011〔OD〕

 知力 :1465〔SSS〕

 魅力 :323 〔B〕

 感応力:1998〔EX〕

 士気 :3208〔OD〕


 【所持技能】

 殻操3・格闘3・射撃3

 狙撃3・夜戦3・隠密3

 整備3・開発3・事務3

 医療3・情報3・家事3

 歌唱3・演奏3・美術3

 運転3・撮影3

 話術3・諜報3・商談3

 同調3・幻視3・錬金3

 戦士3・司令3・参謀3

 隊長3・班長3


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 ………………………………………………………………。

 ……………………………………。


「…………………………は」


 はああああああああ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~神神神神神ぃぃぃぃぃ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!


 異次元の強さ。推せる~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!



「うん、うん……!」


 気まぐれに地上に降り立った神様か何かかな?

 きっとそうだよねだってあり得ないもん何この強さ。

 何度見てもゾクゾクするんだけど~~~~~~!!


 見てるだけで、動悸がしてくる~~! 好き好き好き~~~~~~!!



(魅力低いの絶対わざとだし、磨き方わかってる人の下げ方だもん。


 薄っすら灰色がかってるところのある黒髪も。

 ハイライト薄めだけど奥に狂気にも似た艶が見える黒目も。

 細めなのにしっかりと無駄なく鍛え編み上げられてる体幹と筋肉も。


 どれも磨けば磨くだけ無限に輝きを増しそうな素体に仕上げられてる。好き!!


 でも。

 そんなことより何よりも。一番魅力的なのは……!


(あ、全部だった)


 笑顔が好き。ショボショボ顔が好き。

 真剣な顔が好き。考え込む顔が好き。

 見た目も声も仕草も振る舞いも。


 全部全部全部全部魅力的すぎて推せすぎてどうにかなっちゃいそう!



(黒木くん黒木くん黒木くん! 推せすぎる~~~~!!!)


 あの人は間違いなく私の上位互換。

 そしてきっと、私なんかじゃ及びもつかない領域で生きている人だ。

 黒木くんしか勝たんっ!


「はああああ~~~~~~~~! カッコいい~~好き好き好き好き好き好き~~~~!!」


 そんな人に、私は見つかってしまった。

 そんな人に、声をかけられてしまった。


 背景じゃないといけない、モブじゃないといけない私が。



「はああ……あー。パイロットになれ、かぁ……」


 黒木くんが、毎日私に言ってくれる言葉。

 できるかできないかで言えば……できる。


 でも。


「ダメ、ダメ。だって私は、目立っちゃダメなんだから……」


 今の私には、それをしちゃいけない理由がある。



「私はモブ。表舞台に立ったら、見つかっちゃう……!」


 パイロットになって。

 カッコよく敵を倒して。


 よしんば黒木くんをワンチャン助けたりしちゃったりして。


『ありがとう。助かったぜ、清白さん。いや……帆乃花』

「そんなっ! 全然だよ! 私の方がいつも助けられて……あっ!」

『今夜お前を、離さない……!』

「黒木……くん」


 ………。



(ひやぁあぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!! 畏れ多い~~~~~~~~~~~~~~~!!! ダメダメダメ~~~~~~~! でもいい~~~~~~~!! 好き好き好き~~~~~~~~!!!)


 パイロット。パイロット。パイロットシチュもいいなぁ。

 黒木くんのケガの治療なんてレアイベントも、もう何回思い出したかわからないし。


「……はぁ」


 やりたいなぁ、黒木くんと一緒にパイロット。

 でも、うん。


『……あぁ。これは“出来損ない”だよ』


 やっぱり……。


「ちゃんと諦めて、私。私はモブ。日の当たる場所になんて、いちゃいけないんだから……」


 逃亡者で裏切り者な私には、彼は眩しすぎて。

 隠れてないといけない私は、そんな彼を推せるだけで、十分すぎるくらい幸せだった。

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