第22話 備品ちゃん
特別カウンセリングルーム。
茶室よりも狭い空間に、若い男女が二人。
「「………」」
といっても。
この
「………」
俺の目の前で椅子に腰掛け、こちらを見上げている10歳くらいの少女。
黒髪ロングストレートに、くりっとした丸い瞳を持った、お人形のような彼女は。
(……通称“備品ちゃん”)
人間扱い、されていなかった。
※ ※ ※
この手の人類ヤバヤバ世界観において、しばしばみられるヤバ設定。
生き残りをかけてマッドなサイエンスに手を出した人類が生み出した、狂気の沙汰。
その一つが彼女。
その名も――
(ハーベストとの戦い以後、日ノ本で最初に観測された同調技能レベル4保持者、九條
この手のマッド技術お約束の、あれこれ弄られている要素は彼女たちにもあって。
特筆すべき点として、不老性の獲得があげられる。
(10歳サイズになるまで培養槽で促成され、以降は死ぬまでその姿を維持する……つまりは永遠のロリ。守るべき少女という、仕組まれた演出)
小隊全体の
その出自と変わらぬ容姿という特異性ゆえに人権を認められず、異形との戦時下という環境も相まって合法となってしまった、悲劇の少女たち。
公式も認める、時代が生んだ被害者。
人でありながら人として認められない、備品扱いされている少女。
それが彼女たち、九條シリーズである。
(SFってのは時々、こういう頭のネジぶっ飛んだやべぇの仕込んでくるんだよなぁ)
ゲーム版にもこの九條シリーズな女の子、九條
幼い容姿で健気にみんなを鼓舞し続ける姿は、まさに小隊のマスコットという風情で。
もちろん大人気キャラの一人であり、正史においても後に救済された。
俺も愛ちゃんは好きだ。
だが、それ以上にこの魂魄は黒川めばえを推している。
なぜ推しは救われなかった?
全部救えよ公式。
「……ねぇ。さっきから黙って百面相して、気持ち悪いから帰ってくれる?」
「おっと」
思わず考え込んでいたのを指摘され、俺は意識を彼女に向けた。
「あーっと、確か君が……」
「この特別カウンセリングルームに配属されているカウンセラー、九條
「なるほど、巡ちゃんね」
「巡ちゃん……」
復唱して、またか、という顔をした彼女に気づいて。
俺は自分がやらかしたのを理解して、即座に訂正する。
「あ、悪い。そっか、年上だもんな」
「え?」
「黒髪ってことは九條シリーズだと第3世代か。ってことは今年で多分、18? くらい? 俺は今年で16だから、間違いなく年下だ。ごめんごめん」
「え? えっ?」
「でもこの時点で第3世代が運用されてるのって意外だな。てっきり八津代平野の戦いが最後だと思ってたし、今の主流って第5世代だろ? 来年には最新の第6世代型が配属されるのを考えると、これはもう間違いなく敬意を払うべきベテラン様だ」
「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ちなさい」
「ん?」
止められて目を向けると。
大先輩は首をかしげて、こめかみに指を当てて唸っていた。
「あなた、もしかして
「え、いや? 違うけど?」
「じゃあなんでそんなに私たちに詳しいのよ!」
「え? あー、いや、それは……」
しまった。
ちょっとレアすぎる出会いでお口チャックに失敗した。
「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない」
「全っ然細かくないのだけれど!?」
「ハッハッハ」
「ごまかさないで。ちゃんと教えなさい」
「………」
まいったな。
どうすっべこれ。
・
・
・
「――つまり、あなたには前世の知識があって、その世界ではここが創作物として扱われていたから、私たちについても詳しく知っていたってこと?」
「はい」
ゲロしました。
絶対零度の目でじーっと見つめられながら淡々と詰められるのマジで無理。
「私が、そんな与太話を信じると、本気で思ってる?」
「思ってません」
むしろ下手に嘘つくより正直に言った方がいいって俺の知力Sが囁いたんです!
信じてください! いや、信じなくていいんでこの状況を切り抜けたい!
「………」
辛い。
地味に辛い。
HVV最愛のマスコットキャラ(のクローン)からガチの冷淡な目向けられるのはキツい!
「……はぁ」
「うっ」
ため息を吐かれた。
「少なくとも、これ以上問い詰めても意味がないってことだけは理解したわ」
「ありがとうございます……」
た、助かった……!
「隠し事はしてるけど、嘘吐いてないんだもの。とりあえず今は理解できないものとして扱うわ」
「う゛っ」
優れた超常能力ぅ!
「ここまで意味が分からないトンチキなのと出会ったのは、さすがに初めてよ」
「すんません」
「一見まともにやり取りできてるってのが余計に怖いわ」
「………」
完全に、異常者扱いされてしまった。
まぁでもあまりに残当すぎてなんも言えねぇ。
「前世の知識、ね……」
「?」
不意に、巡先輩のこぼした言葉が、耳に残った。
うなだれていた顔を上げると、彼女は真っ直ぐにこちらを見つめて、口を開く。
「……あなたの知りうる限りで、私たちは、どうなるの?」
「!?」
スッと、投げかけられた問い。
それは軽い放り込みでありながら、その実、想像を絶するくらいに重い何かが、俺に圧し掛かるのを感じるものだった。
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