第74話 獣人族は魔族の庇護下におかれ、それからは?

 早速帰ったと思った天使族が、日付が変わろうかという時にまたやってきた。

 正直寝ようと思ってたんだけどねぇ……?

 ネグリジェ姿じゃ出ていけないので、上にガウンを羽織り、隣に夫である爺様が立った状態で書簡を受け取った。



「なるほど? 獣人族からは手を引くから、戦争をしてくれるな……って事だね?」

「如何にもその通りです!!」

「なる程ねぇ……。本当に獣人達からは手を引くんだね?」

「はい、長はそう仰っていました」

「天使族は決まり事に対し、ウソは言いません!」



 そう深々と頭を下げて口にする使いの使者に、爺様も「確かに嘘はつかんよ」と言ってくれたので「なら、戦争を引き起こすのは止めてやる」と返すと、二人の使者は床に額をこすりつけんばかりに下げていた。



「これまで通り、アタシ達魔族は天使族とは距離を取る。獣人族はアタシの庇護下に置く。そう伝えな」

「は、はい!!」

「全く、これから眠ろうかって時に来てくれて困った天使族だよ。アタシは仕事疲れで眠いんだ。さっさと帰っておくれ」

「「失礼致しました!!」」



 そう言うと天使族は急ぎ帰っていき、アタシは溜息を吐いて爺様と同じ部屋である魔王用の部屋の椅子に座り水を飲んだ。

 全く、今からグッスリ寝て明日からの仕事に備えようって時に困った来客者だよ。



「しかし、獣人族を魔族の庇護下に置くか。うんうん、やはりキヌは優しいのう」

「トッシュを仲間にした時から獣人には多少甘くてね」

「ははは! キヌは昔から動物が好きだったからのう! 獣人族なんぞ可愛くて仕方ないじゃろう」

「馬鹿を言ってないでサッサと寝るよ。若さを保つためには質のいい眠りが大事なんだ」

「おお、そいつは大変じゃ。ワシも若さを保つために寝るとしようかのう」



 そう言って隣に置かれたベッドに潜り込む爺様。

 生きていた頃、こうして隣で寝ていたのは――アタシの大事な家族を害そうとしたあの男が現れてからは無かった。

 大体今の年齢……40代の時からずっと別々の部屋で寝続けてきたんだ。



「起きたらまず、トッシュの所に行って……アタシの保護下になった事を伝えないとねぇ……」

「ワシも付いていこう」

「爺様、アタシが行くところは大抵どこでもついてくるじゃないか」

「ははは! もうお前さんに熱を上げる阿呆がいない世界じゃからのう!」

「あ――……そういう阿呆なら一人いるけどねぇ」

「全く、美人すぎるのも問題じゃわい」

「ふん、アタシの見た目は早々変えれないし、性格も変えられやしないよ」

「うん、それでええ。ワシはそんなキヌに助けられて、心底惚れたんじゃから」

「……そうかい」



 照れくさい事を言う爺様に素っ気なく返すと、爺様はクスクス笑いながら「生き返ってみるものじゃなぁ……」と訳の分からない事を口にしてスウスウと寝始めた。

 そういうアタシだって、この年まで生きてて良かったよ。

 そんな事は絶対言ってやらないけれどね?



「困った爺様だ」



 溜息交じりにそう口にして眠りについた次の日。アタシは爺様とキョウスケ、ユキコを連れて第6階にある獣人族の避難所へと向かった。

 堂々たるクリスタルは輝いており、まさにここが獣人国であるという証な訳だが、大きな建物に入ると、トッシュとフォルが部下たちと仕事をしている所だった。



「魔王様! そして英雄様!! お越しになるなら前もって連絡があればお出迎えに行きましたのに!!」

「ああ、気にしなさんな。トッシュに話があってきたんだよ」

「キヌ様少々お待ちください」



 そう言って書類の山から出てきたトッシュは、簡単に身支度を整えアタシの前にやってきた。



「如何なさいました?」

「昨夜、天使族からの使者が再度やってきてね。獣人族たちは今後、アタシの庇護下に置かれる事となった」

「キヌ様の……保護下に?」

「属国にはしない。ただ、復興するには随分と時間が掛かるだろう。だからその間、アタシの元で問題なく過ごせるように、庇護をするという事が決まったのさ」

「無論、天使族は獣人族から手を引くそうじゃ」

「英雄様、それは本当ですか!?」



 その言葉に反応したのはフォルの方で、トッシュに駆け寄ると目の前で彼に抱き着いていた。



「やったわトッシュ!! もう天使族に怯えなくていいのね!!」

「そうなりますね!!」

「たーだーしー。戦争の跡地は浄化に時間が掛かるのが世の常だとピアが言っていた。少なくとも10年はこのまま、このエリアを仮の獣人国として使い、アンタとフォルが獣人族を導きな。いいね?」

「分かりました」

「安定するまでは炊き出しも配給もしてやる。アタシの庇護下にいるんだから遠慮は無しだ」

「「はい!!」」

「困ったらいつでも相談においで。約束だよ」

「ありがとうございますキヌ様!!」



 こうして、一つの問題は解決。

 だが、もう一つの問題の方が本番と言うか……一番の問題でねぇ?



 ◇



「…………」

「…………」

「いつまで睨み合ってるのさ」

「やれやれ、魔王はドワーフ王に人妻だと教えなかったのかい?」

「それに近しい事は伝えているし、こうして生き返ってくるなんて想定外だったからねぇ?」

「ああ、天使族が生き返らせてしまったんだったね。そういう事だからドワーフ王。魔王様の事は諦めて、違う女性との婚姻をだね?」



 そう、ドワーフ王とエルフ王の耳にアタシの夫が生き返って傍に居るという話を聞きつけ、とんでもないスピードでやってきた。

 寧ろドワーフ王は戦争を仕掛けてくる勢いでやってきた。

 命を何に掛けるつもりだったのやら。一喝したら静かになったので別にいいんだが……ずっと爺様と睨み合っている。



「キヌよ」

「なんだい」

「夫が居ようと関係ない。妻に出来ぬというのなら、せめて子だけでも」

「若造よ、今すぐその首を撥ね飛ばしてくれようか」

「爺様、ドワーフ王、落ち着いておくれ。アタシはもう爺様の子供を6人も生んだんだ。今更出産なんてこりごりだよ」

「俺との子供はまだ生んでない!!」

「黙れ小僧!! キヌはワシの最愛の妻じゃぞ!!」

「「は――……」」



 その後も、英雄とドワーフ王は魔王の愛を奪い合っている……なんて噂話が広がっていくのは止められる筈も無いんだけれど、この先も爺様とドワーフ王はアタシを奪い合う為のライバルとなったのは言う迄もなく。

 ドワーフ王は、週に1回必ず通うという、本人曰く『通い婚』をする事となり、爺様と時折殴り合いの喧嘩に発展し、タリスとトリスに飲み込まれ、動けない状態で反省させられることもしばしばあるが、案外楽しく魔王領で過ごしている。



 それから、キョウスケとユキコは業が深かったのか中々禊が終わらなかったが、二年目にしてやっと、ただのキョウスケとユキコに戻り、ピアの力で日本へと帰っていった。

 帰った先で何が待っているかなんて知ったこっちゃないが、元気にしていればそれでいい。



 魔王領ダンジョンはあれからも変わることなく、それでいて多くの冒険者が死ぬことなく存在したことから、金のなくなった冒険者には「人間国の復興に力を入れた者にもポイントが付くよ」と伝えると、金のない冒険者が一人、また一人と人間国の復興の為に冒険者へと復帰していった。

 無論、魔族と結婚した人間もかなり多いが、彼らは彼らで幸せに暮らしている様だ。


 孫のカナデはピアを第一妃に、ミツリを第二妃に貰い、アタシの手伝いをしてくれている。主にダンジョン経営を任せているがね。

 それで、アタシはと言うと――。



 ◇



「爺様、アタシの仕事の邪魔はしないどくれ。アンタの仕事はどうしたのさ」

「うむ、四天王が弱くて話にならんくての」

「鍛え上げておくれ」

「全く、今さら魔族領や魔王を狙う馬鹿はおらんじゃろうに。ワシがついておるじゃろう?」

「戦力の底上げはね、大事なんだよ」

「仕方ないのう……終わったらデートじゃぞ?」

「はいはい、好きな所に着いてってやるよ。キャンピングカーで一日デートでもしてやってもいい」



 そう言えば爺さんはオーラを発しながら歩いていき、遠くから四天王の悲鳴と雄叫びが聞こえたが知った事じゃない。

 戦力の底上げは大事だからねぇ。

 この先、もしもが起きてアタシが居なくなった後、残された曾孫が困らない為には強くなって貰わないとねぇ?




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