第66話 獣人国の情報を仕入れつつ、ついに勇者と対向する

 一日温泉を堪能してた翌日、難を逃れた最果ての街にある拠点へと向かい、フォルに会いに行く。

 そして、アタシ達がこれから【獣人国】へ行くことを告げると大変喜んでいたが、今後獣人国が人間国に攻め入る可能性がある事も伝えると、顔を歪ませていた。



「獣人国が人間の王国を襲うとしたら……スタンピードが起きたから……その隙にと言う事でしょうか?」

「可能性の話だよ」

「いえ、私も色々な獣人から話を聞いていたのですが、強欲な王ならば可能性はあります。子が出来ぬことにイライラしてるのだと聞いております……。でも、トッシュタリスはその強欲な王の息子。何故獣人国の王はトッシュタリスの存在を知らないのでしょう?」



 それはそうだ。

 知っていれば保護をすべき存在だ。

 獣人国は特に、神力の高い存在から生まれた子が次の王となる為、次の子は産まれない。国王がそれを知らない筈はないのだが、どうにも歪に感じられる。



「トッシュタリスの事を伏せられている可能性は?」

「恐らく、十分にあるのかと」

「国王も馬鹿だねぇ。隠し子作っておいて存在を忘れるなんて」

「手の早い王としても有名でしたから、神力の強い者との間に出来るとは思わなかったのでしょう。キヌ様、私は恐ろしいのです。今帰れば国王の側妃に召し抱えられそうで。私にはトッシュタリスがいます。他の者のモノにはなりたくはありません」



 そう震えながら答えたフォルに、ならば彼女の事は黙って一応獣人国には行こうかねぇ……と妥協案を出した。無論フォルの実家であるファンブリス家には立ち寄るが、場所を告げず生存している事だけを伝える事に決まった。



「申し訳ありませんキヌ様」

「いやいや、好きな男の嫁になりたいっていう気持ちは解る。気にしなさんな」

「ありがとうございます」

「となると、諸々が終わったらトッシュと婚姻をかい?」

「そうなるといいなと……思っております」



 頬を染めて口にしたフォルにアタシは目を細め「そうかい」と笑顔で答えた。

 奴隷だったトッシュと、奴隷にさせられていた曾孫がそれぞれ嫁を貰うってのも、感慨深いもんだねぇ。



「それと、銀髪の狼獣人と言うのは獣人では王の証なのです。トッシュを連れて行くのは危険です」

「ああ、そうだったね……。ならトッシュにはそのままこっちにいて貰って、誰かを護衛として連れて行こうかねぇ」

「それがいいと思いかと思います」

「分かったよ。情報助かる。今後も何かしら情報を得てくれたら助かるねぇ」

「分かりました。出来る限り情報を見つけてまいります。それと今日のお仕事に付き添いますので、お任せくださいませ」



 そう意気込みを入れるフォルにアタシは頷くと、一緒に拠点から魔王城へと戻り、今日のメインである……勇者と魔法使いに会う。

 衣装はこの前人間王国に着ていった服装だ。

 ドワーフ王に献上された疲労回復効果の杖を持ち、カナデが勇者たちを連れてくるのを待つ。



「魔王様、勇者たちが到着しました」

「通しな」



 そう短く声を掛けると、隣に未だに国に帰らないドワーフ王が「勇者等呼んで大丈夫なのか?」と聞いて来た為「生意気なクソガキだったよ」と鼻で笑った。

 ギイイ……と開いた扉にカナデが最初に前に出て、その後ろに怯えながら歩いてくる勇者たちの姿が見える。

 どうやら武器などは没収されているらしい。

 そりゃそうだ。前魔王を不意打ちで殺しているから仕方ない。



「お連れしました、魔王様」

「ああ、ご苦労だったね」

「その声は!!」

「うそ……でしょ?」



 絶望の色に歪む顔……。アタシは耐え切れず声を上げて笑いだした。



「くふ……あははははははは!! アタシに憧れてたらしいけど、勇者が魔王に憧れるなんて馬鹿な話があるかい?」

「キヌ様だったなんて……そんな……」

「残念だったねぇ? まぁアンタの今の心情なんて知ったこっちゃないよ。こっちは色々と忙しいんだ。手短に済ませるよ」



 そう言って組んでいた足を戻しベールを脱ぎ払い、髪をバサリとラフにすると、いつも通りのアタシの登場って訳だ。

 天然ウェーブの黒髪は艶めいているだろうし、赤い口紅が良く映えているだろう。



「さて、久しぶりだね坊や達。早速だがカナデに聞いたところ元の日本に戻りたいそうだね」

「あ、ああ……」

「この世界に居ても殺されるって分かったから……」

「ヒヒヒ……スタンピードの話を聞いたんだね? アタシとドワーフ王で見てきたが、中々派手にぶっ壊れていたよ?」

「「…………」」

「なぁに、アンタ達だけの責任じゃない。冒険者全体の問題だ。その罪をアンタ達二人に擦り付けようってんだから、中々人間国の王も愚図で身勝手だったもんだ」

「しかも魔王キヌと、この俺、ドワーフ王を殺すために兵士を集め、剣を抜いて来た。キヌの従魔がいなければどうなっていたかゾッとするな」

「ヒヒヒヒヒ」



 そう言って笑うと、「あの国の騎士団は皆レベル80超えだぞ……」と勇者は呟いていて、カナデは「ああ、それでは相手にもなりませんね」と淡々と口にしている。



「さて、まずは勇者と魔法使いの離縁からだが……。フォル、この二人は離縁できそうかい?」

「はい、淫らな体関係はあるようですが、心までは縛られていません」

「ならチャチャッと離縁させてやっておくれ」

「畏まりました」



 こうして、勇者とミツリの縁を切った時のように、フォルの神力で出てきたナイフで二人に繋がっていた夫婦の縁を切り落とすと、二人は静かに切れた糸を見つめ、呆然としている様だ。



「これにて夫婦の縁は切れました。二人は夫婦ではなくなったという証です」

「ありがとよ」

「いえ、この程度のお手伝いしか出来ず申し訳ないくらいです」

「さて、聞いての通りアンタ達は離縁した。後は面倒な勇者と言う肩書と、その魔法使いと言う肩書が邪魔だねぇ。ああ、でも禊の時間はあるんだろう?」

「はい、禊の時間を過ごせば勇者とその魔法使いと言う肩書は無くなるでしょう。ミツリさんがそうでしたしね」



 そうフォルが告げると「そう言えばミツリは?」と勇者が問い掛け、扉が開きミツリとピアが入ってきた。

 久々の対面だったんだろうが、駆け寄ろうとした二人をピアが止める。



「お待ちなさい。わたくしたちはカナデ様の妃。勝手に近寄る事まかりならん!」

「「な!?」」

「それに、あなた方はまず、禊の話を聞くべきですわ!」



 そう注意され二人は「それもそうだった」と口にし、アタシの前に来ると最大の礼を持って座り言葉を待った。

 さて、この二人の禊……サッサと終わらせたいが、どうしたもんかねぇ。




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