乙女ゲームの主要キャラなのに人気ランキング低い奴に転生したけどそれっぽいセリフ言ってるだけでなんかモテる話
伊良(いら)
第1話
俺は地方の大学を出て、親の勧め通り公務員になった固い男である。
そして今でも実家に暮らしていて今後も出る予定はない。そのためだろうか、妹からの扱いは荒い。
「おにぃ、どうせ彼女もいないから暇でしょ。私のゲームの親密度でもあげといてよ。ついでに恋愛の勉強でもしたらぁ?」
そういって渡されたゲームはいわゆる乙女ゲーム。イケメンを攻略していくものらしい。何が悲しくて男と恋愛しなくてはならないのだろうか?そう思って言い返してやろうと思ったが、妹と喧嘩したら実家の居場所がなくなるために、しぶしぶ了解した。
パッケージの男たちを見て思う。
「こんな奴いるわけないだろ。あいつも大学生にもなって乙女ゲーしてるとか、相当だな……」
中世の時代設定とかベタすぎるだろ。ていうかクソゲーの予感しかしない。そう思ってゲームの口コミを見てみたが、意外と高評価であふれていた。攻略対象がとにかくイケメンらしい。
第一王子に、他国の貴公子ってマジ舐めんな。公爵の一人息子に、神官か。それと後、騎士団の副団長って一人だけ肩書弱くね?
いやすごいんだろうけどさ、周りが強いだけに、ちょっとな。可哀そうに。
『騎士の奴だけ、普通に話薄いし、製作者も手抜いただろ』
『騎士はなんか最後もハッピーエンドなのぉ?終始そっけないしさぁ』
口コミもあまりよろしくないようだ。こいつだけは気が進まんな。ていうか主要キャラなのに人気キャラ投票23位ってやばいだろ。おい、主人公の飼い犬に負けてるじゃん。よくいるよな、異様に人気ないキャラ。
気が進まないがゲームをたちあげて、ポテトチップスを用意すると画面に向かって正座した。公務員だからな、しっかりしてんだよ。
「とりま、第一王子からいきますか、だるいけど」
◆
「なぁにぃ?これ。感動するんですけどぉお?イケメン過ぎて尊いわぁ~」
危ない。ついつい、乙女ゲームをやりすぎて乙女になりかけていた。すごい。すごすぎる。なんてすばらしい物語なんだ。ついつい四人分の攻略を一日通してやってしまった。後は騎士だけか。
「しまった。徹夜でやってしまったせいで眠気が……。後は
誰に言い訳しているのかわからないがとりあえず寝た。
◆
まだ寝かしてくれよ。俺は公務員だ。時間外労働は勘弁だ。そう思ってまばゆい光から逃れるために布団にもぐる。
「起きてください、エリオット様。朝稽古の時間です」
エリオット?あぁ、騎士の名前だな。乙女ゲームやりすぎて、夢にまで出てきやがったか。それにしてもはっきりした夢だな。感覚もはっきりしてるしさ。
「起きてください。朝稽古の時間です」
夢の中でも俺を朝の朝礼させるのか?俺は無理やり公務員になったんだ。睡眠くらいゆっくりさせてくれよ。俺は勢いよく布団を取っ払って、大声で怒鳴った。
「うるせえな。夢の中くらい静かにいろよぉ!」
俺が目を覚ますとそこは俺の部屋ではなかった。目の前にいるのはメイドの服をした女性。こんな場所初めてなのに、見知った光景というのはそれは俺の脳がまだ覚えているからだろう。
「ここって乙女ゲームの世界かぁ?」
おれは頬をつねるがまったく覚める気がしない。そんな行動を見て目の前の女性が驚いて目をぱちぱちとさせている。銀髪のショートカットが肩にかかるあたりで切りそろえられている。
俺が彼女のことをじっくり観察していると、彼女は急に額を地面にこすり付けた。
「す、すみません。エリオット様のご迷惑になってしまって。ど、どうか、
「え?何を言って?」
俺はすぐに飛び降りた。地方の公務員は額を地面につけて、靴をなめるなんてことは当たり前にしてきたがされたことなんてなかった。
俺はすぐに彼女と同じ顔の高さにした。その行動に驚いたのか、それよりもプロ並みの俺の土下座に驚いたのかは定かではないがあっけにとられた顔をしていた。
「顔をあげてください。お、俺が悪いです。起こしてくれた人に逆ギレって。ごめんなさい」
「や、やめてください。私風情に頭を下げるなんてエリオット様の名が……。早く顔をあげてください」
「いやあなたが」「いやエリオット様が」「いや」「いやいや」「いやー」「いやいや」
そんなことをしていると、メイドさんの顔が緩んだ。そして噴き出すようにして笑う。初めてしっかりと見た彼女の顔はとても美しくて心が弾んだ。
「すみません。ご主人様を笑うなんて、メイド失格です。今すぐここで首を切ります。切らせてくださいぃ」
そういって何かを探しているそぶりをしているので本当に刃物を見たら切りそうなので思わず止めた。彼女の右腕をとって笑いながら言った。
「朝からかわいい笑った顔が見れてうれしいよ。だから気にしないで?」
何言ってんだ?乙女ゲーやりすぎて、会話が乙女ゲーのイケメンみたいになったじゃないか。きもい、きもすぎるよ、俺。恥ずかしくて、メイドの顔が見れない。
「……え、あ、はい。え、はい。え、分かりました」
彼女は終始、挙動不審な言葉を残して立ち上がった。俺が彼女を見たときは顔を真っ赤にして顔を手で覆おうとしていた。俺の言葉に恥ずかしさを感じてたんだろう。
「朝ごはんの用意ができているので、稽古を終えたらいらっしゃってくだしゃっい」
それだけいうと彼女は俺の部屋を逃げるようにして出て行った。ひどい夢だ。夢でまで女の子に逃げられるなんてな。それにしてもしっかりしすぎた夢だな。
◆
そのあとのメイド室にて……。部屋から帰った、メイドを囲むようにして会議が始まる。それは部屋から帰ったメイドが、火照った顔をしていたからで。
「ちょっと、どうしたの?メリー?またあのくそ男になにかされたの?」
「……え、いや、それが」
「可哀そうに。あいつ、不愛想だし、口悪いし。親のコネで副団長になっただけでさ」
「ほんとそう。だからそろそろ……」
「ち、違うんです。エリオット様が、かっこよくてぇ!?」
「「「んんんんんんんん?」」」
メイド室はかつてなかったほど変な空気になっていたそうである。
◆◆
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