粉ひき無双!! ~最底辺奴隷に転生した俺は1日1000回感謝の粉ひきで小麦の真理に目覚め、究極のパンを作るための旅に出る~
倉名まさ
第一章 転生・そして旅立ち
第1話 ざぁこ、ざぁこ、よわよわザコてんせい♡
気がつくと、俺は真っ白な空間にいた。
雲のなかをふわふわ浮かぶような心地なのに、何もない場所に立っている。
不思議な気分だが、なぜかあまり驚きはない。
――もしかして、ここは……。
うっすらと、直前の記憶があった。
迫りくるヘッドライト。
けたたましいエンジン音。
視界いっぱいに映る大きな鉄の塊。
なんのことはない。
横断歩道を渡ろうとして、大型トラックにはねられたのだ。
深夜近く、部屋に備えつけているティッシュ箱の中が切れてるのに気づき、どうしてもガマンできず、近所のコンビニまで行こうとした矢先だった。(鼻炎持ちなのだ。それ以上でも以下でもない)
しかし、たかがティッシュを買うだけの用事で交通事故にあうなんて……。
やはり外の世界は危険があふれている。
こんなことならおとなしく部屋で引きこもり生活を続けていればよかったと後悔後しても、もう遅い。
けど、ここは病院には見えないし、事故にあったにしては痛みもない。
それに俺の体、うっすらと透けてないか?
――となると、もしかしてこれは……。
と、俺の前方に眩い光が生まれ、はじけ飛んだ。
光が消えたそのあとにうっすらと人影が見える。
「あなたは死にました」
「ほ、ほんとに出た〜!」
俺はおごそかに告げてくるその相手を、思わず指差していた。
「ちょっと!? ヒトを事故物件に憑いてる幽霊みたいに言わないでよ!?」
声の響きから、おごそかさが消し飛んだ。
何もない空間で地団駄踏んでいる。
それは、都心駅近2LDKオートロック付きで家賃二万の格安物件に住んでいる幽霊。
――などではもちろんなく、桃色の長い髪をツインテールに結わえた少女だった。
このタイミングで出てくる、ということは……、
「あんた、その……。いわゆる、一種の……。もしかしてアレか? 女神様?」
「なんでそんなに疑問系なのよ! もしかしなくてもその通りよ」
ふんと、鼻を鳴らしてふんぞりかえる。
「あたしこそが人間の運命を
って言ってもなぁ。
たしかに美少女だとは思う。
絶世のとか、とびっきりのとかつけてもいいくらいの。
ギリシア神話とかの名画みたいな、真っ白なひだひだの付いた服もそれっぽい。
しかし、なんというか全体的にちんまい。
背丈は俺の胸までくらいしかなく、手足はひょろっこく、何がとは言わないがぺったんこだ。
俺の中の女神像とはずいぶんかけ離れている。
女神というより、メス◯キ臭がぷんぷんと漂ってくる。
「あんたいま、何か失礼なこと考えてたでしょ」
「いや、ブラ着けなくていいのは楽そうだなぁ、って」
「むちゃくちゃ失礼なこと考えてた!?」
女神様は、俺の視線をさえぎるようにさっと胸の前で腕を交差させる。
そんなことせんでも、俺には何も見えないんだが……。
ふんぞり返っていたそのときも、服を押し上げるような膨らみはまったくなかった。
「言っとくけど、ブラジャーはバストサイズの大小にかかわらず、トップのこすれや肌の痛みを防ぐために着けておくべきものなの! 個人差はもちろんあるけど、初経が過ぎるあたりからお母さんに相談するのがいいでしょうね。クソ引きこもりニート童貞のあんたは知らないでしょうけど!」
たしかに俺には縁のない話ではあるが、ひどい言われようだ。
「で、女神様は俺にファーストブラ講習のためにやってきたのか?」
「んなわけないでしょ!? あんたが変なこと言うから話が脱線したんでしょうが!?」
女神様は、ぜーはー息を荒げている。
神々しくはないが、見ていてオモロい女神様だ。
リアクションが四半世紀ほど古い気もするけどな。
「あたしは、あんたの魂を別世界に転生させるためにやってきたのよ!」
「おお!?」
異世界転生キター!!
女神様の見た目はアレだが、ここまでお約束の展開、テンプレ王道ってやつだ。
やはり俺は事故で亡くなり、ここは死後の世界のようだ。
「で、俺はどんな世界に転生するんだ? 無双系転生勇者か? 勘違い系チートスキル持ち冒険者か? スローライフ系美少女ハーレム主人公か?」
「はぁ?」
意気込む俺に対して、女神様は思いっきり眉をひそめた。
なぜか、心底嫌そうな顔だ。
「あんたバカぁ?」
そんな弐号機パイロットのような罵倒語まで投げかけてきた。
心から馬鹿にするように、ジトっと細めた目で、冷たい視線を投げかけてくる。
「因果応報って言葉知ってる? 生前の行いで積みあげた
「いかにも西洋風の女神様が仏教用語を口にするのは違和感あるな」
「別にいいでしょ!? これだからオタクって人種はロクな社会人経験もないくせにムダな知識があって、細かいことグチグチ言うから嫌いなのよ!」
ひどい偏見だ。
どうやらオタクに優しいメス〇キ女神は、実在しないようだ。
「女神が仏教用語使おうが、中世ヨーロッパ風異世界にジャガイモやお風呂とかあったって、誰が迷惑するもんじゃないでしょ。いちいちうるさいのよ!」
なぜか俺が言ってないことまで怒られた。
「あんたみたいな3×歳になってまで働きもせず、親のスネかじり、迷惑かけまくりの社会のド底辺、クソ引きこもりのクソデブ童貞ニートごみクズダルマがそんなイイ思いできるわけないでしょ!?」
罵倒語全部載せトッピングでののしってくる。
ここまで口が悪いといっそすがすがしいくらいだが、こいつはほんとに女神なのか?
親には悪いとは思うが、赤の他女神にそこまで言われる筋合いはないだろ?
さすがに俺でも少しへこむぞ。
「……じゃあ、俺はなんに生まれ変わるんだ?」
「ふふん。奴隷よ、ど・れ・い!」
女神様は腰に手を当てて、ふふんと鼻を鳴らす。
無い胸を張ってほくそ笑み、メ〇ガキ臭を周囲に振りまく。
どこまでも、神々しさとはほど遠い。
「はぁ? 奴隷だと?」
「そうよ。いままで社会と親に迷惑かけてのうのうと生きてた分、しっかり異世界で働いて
「ふざけんな!」
罵倒されるくらいならまだしも、奴隷に転生と言われたらさすがに俺も納得できない。
「異世界に生まれ変わってまで奴隷になる男主人公の話を誰が読みたがるんだよ!? 奴隷の少女を引き取ってヒロインにするんなら別だけどな!」
「はいはい、メタ発言しない。虫けら同然のあんたをまた人間に生まれ変わらせてあげるだけ感謝しなさいよ。ま、虫に生まれ変わったほうがマシだったって思うかもしれないけどねぇ」
にたぁ、っと笑って言い放ちやがった。
世の女神が浮かべるだろう微笑とはかけ離れた、むかっ腹の立つクソガキみたいな笑い方だ。
つかみかかって抗議したかったが、手足の自由がきかない。
ぴくりとも俺は動けなくなっていた。
「クソッ、なんで動かねえんだ!?」
「キャハハハハ、決まってんでしょ。あんた死んでるんだもん」
もはや女神らしさなんてかなぐり捨てて、けたたましい哄笑まで上げて俺をバカにしてくる。
……このクソ女神。
体さえ動けばわからせてやるものを。
俺の心を読んだように、女神はさらにデカい笑い声をあげる。
「む~りに決まってるでしょぉ~。ざぁこ、ざぁこ、よわよわザコ転生~♡ 生まれ変わっても社会の底辺、よわよわザコ虫どれい~♡ せいぜいザコ虫らしく地べたを這いずり回ってなさいよ♡」
「てめえ、人が動けないと思って……!」
悲しいかな。
クソガキではあるが、見た目美少女の女神にののしられ、心の何かが刺激される。
が、それを態度に出せば、この女神のことだから……、
「あ~れぇ~? もしかしてぇ~? あんた喜んでるぅ~? キャハハハハ、うっけるぅ~♡ へ~んた~い♡ こぉんなちっちゃい女神のあたしにぃ、ののしられてぇ、気持ちよくなっちゃたんだぁ? キモすぎぃ♡ ほ~んと、ざこざこどれいなんだねぇ♡」
と、この通り、百倍調子に乗る。
語尾にハートマークを散らしまくって。
悔しい。悔しいが……。
心のどこかがビクン、ビクンと跳ねるのを抑えきれない。
「あ~、そうそう。いちおうルールだからスキルひとつだけ付けといたから。奴隷ちゃんにふさわしいスキルをね」
女神の言葉と同時、俺の頭の中に文字が浮かび上がってくる。
スキル:粉ひき LV.1
「ふざけんな! こんなもんでどうしろってんだ!?」
「しぃらない♪ せいぜい、奴隷生活をがんばりなさいよ。ざぁこ、ざぁこ、クソざこぉ♡。ギャハハハハハ」
「あっ、おい、こら、待て――!」
最後まで罵倒と甲高い笑い声を残し、女神は現れたときと同じまばゆい光に包まれ消えていった。
そして、俺の意識も暗い淵に沈んでゆく。
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