第47話 十字架の断罪

〇シェーンブルン子爵領 交易街 ゼレニス教会支部 本堂



目を開けると心配そうに俺を見つめるエメラルドの瞳・・・


「主様・・・御無事で何よりです」


「ああ、ファリスかご苦労だったな」


上半身を起こすと、ミホークの作ったベンドに横たわりダキのフサフサの9本の尻尾を枕にして寝ていた様だ


「俺はどの位寝ていた?」


「半刻程かと・・・・しかし主様何をすればこの様なお怪我を・・・」


俺は不安な表情をしているミホークとダキの頭をそっと撫でると、ファリスの方を向き説明をした


「あれは、複数の精霊術を掛け合わせた俺のオリジナルだ」


「!?オリジナル?」


「ああ、時空爆裂と名付けたが、その実は闇の精霊術で空間の時間を止め、光の精霊術で空間を切り取り、その空間の中を炎の精霊術で熱し、そこに水の精霊術を注ぎ込み爆発させ切り取った空間ごと消滅させる術だ」


俺の説明を聞きながら、3人の守護聖は驚きを隠せない


「精霊術を掛け合わせるというのも初めて聞きましたが、そもそもどうしてその様な術を思いつかれたのですか?」


「・・・それはお前達の相克だ・・お前達の相克は俺と初めて出会った時よりも激しく反発している」


「・・・それは・・・否定しません・・決して険悪では無いのですが・・何と言うか競い合うという言い方が近いかもしれません」


「そう、お互いが競い合い高め合った力のベクトルは全くの対極にある、その中心に居るのは間違えなく俺・・・精霊王 オベ・ロンだ」


「その俺が対極に居る精霊をくっつけると・・・その結合点が大きく弾け爆発的な力を生み出す」


「・・・その反動でお身体を・・・」


「ああ、両極にある先端を無理やり引っ付けて、結合点を弾けさすと少なからず両極の先端を握ってる俺へも衝撃は伝わってくる」


「では・・・私達の相克が強くなれば・・・」


「ああ当然威力も増してくるな」


「でも!!主様のお身体が・・・」


俺はファリスを俺のひざ元に来るように手招きしてその頬を撫でる・・・ファリスも俺の手の上から自分の手をそっと重ねスーと目を瞑る


「心配するな、1対の相克だけでなく他の対となる相克が強くなれば、その衝撃が相殺しあって俺へのダメージは軽減されるはずだ」


「現に今のファリスとパンドラの相克が強すぎて、フィールとフィーネの相克が押されたから多少だけど俺にダメージが残ったんだ」


「・・・・・俺にとってお前達は等しく大切な存在であり、俺の一部だ、お前等に勝手に死ぬなと言った手前俺が簡単に死んだら恰好が悪いだろ?」


「ふふふ・・確かに主様は何時如何なる時も素敵でいらっしゃいますが、お亡くなりになってしまっては素敵では無いです」


「だろ?だから心配するな、俺は俺の復讐を遂げる為、これからもお前等の力を振るう」


「「「御心のままに!!」」」






〇町の中央広場


俺達は中央広場にてバウディ司祭とカミルをミホークに作らせた十字架に縛り付け晒し者にしている


中央広場には大勢の野次馬が集まってきていた


「あ、あれは・・・カミル様と・・・教会の司祭様・・・なんというお姿に・・ゼレニス様の神罰が下るぞぉぉ」


「恐ろしぃぃぃ」


「カミル様にあの様な・・・こんな事が子爵様に知れたら・・この街の住人を皆殺しにしかねないぞ・・・」


二人の括られてる十字架の下には教会の騎士達や神官、シェーンブルン子爵の騎士達、数名が何とか二人を助けようと斧や剣で十字架の根元を切ろうと試みるがミホークの作り出した十字架にはキズすら付かない


「バウディ司祭様!?直ぐにお助けします!!」


「カミル様!!もうしばらくのご辛抱です!!」


バウディは遅いだの腕が痛いだの無能だの散々部下に八つ当たりして居る、対してカミルは既に心が壊れておりエへへへと涎を垂らしながら笑うだけだ


そんな中、俺達が広場に現れる


「やぁやぁご苦労様ですなぁ~」


「なんだぁ貴様ぁぁ豚の分際でぇぇ殺されたいのかぁぁ?」


「死ぬのはお前だ・・・」


俺は軽く教会騎士の顔面を殴ると、頭はどこかに飛んで行き、頭を失った身体だけが血を吹き出し倒れる



「きゃぁぁぁぁぁ!」


「うわぁぁぁぁ!!」


広場はパニック状態だ・・・見物していた野次馬はチリジリになり一気に閑散としてしまった


「きっ貴様ぁぁ!!」


俺に対し敵意を見せる騎士達に対し、バウディは怯えて意味の分からないお祈りを始める、カミルは俺の顔をみると・・・


「エへへへへ・・へ?・・・・・きっ貴様ぁぁ!!父上と母上の仇ぃぃ」


余程おれがトラウマなのか、俺の姿を目の当たりにして壊れたと思っていた坊ちゃんは正気を取り戻した様だ


「カ、カミル様!?・・」


騎士達は未だにシェーンブルン子爵夫婦が亡くなったという事実を知らないでいたので、カミルの両親の仇という発言に戸惑っている


「貴様等ぁぁ何をしておるかぁぁぁ、その下賎な豚を死んでも逃がすな!!俺が直接そいつのはらわたを引き出して文字通り家畜の餌にしてくれるぅぅ!!」」


急に正気を取りう戻したと思ったら自分達に玉砕覚悟で取り押さえろと命令する始末・・・


「お、おい・・カミル様がああ言ってるが、どうする?」「無理無理!?あんな化け物ただの犬死だってぇ!」


カミルの激高に対し、騎士達は先ほどの理不尽な迄の仲間の死に様で完全に腰が引けている


「お、俺は・・・しらねぇぇぇ」「お、俺も死にたくないぃぃ」「助けてぇぇ」


騎士達は武器を投げ捨てて街の広場から逃走を謀る


・・・・が、【森槍】(しんそう)


逃亡を企て逃げ出した騎士達は悉くミホークの作り出した鋭い樹木の先端に身体を貫かれ絶命した、となりでバウディを必死で降ろそうと肩車していた神官と教会の騎士もその光景に絶句する


「ひぃぃ!貴様等ぁぁ早く儂を降ろさぬか!!貴様等が犠牲になって奴を止めろぉぉ」


バウディはみっともない恰好で必死に助けようとしている部下たちを口汚く罵る


「・・・・・・・・・」「・・・・・・・・・・・・」「・・・・・・・」


助けようとしている部下達は一斉に手を止め俯きながら何か考えていた


「??何をしておるか?早くせぬか!!この儂が死んでもよいのか!」


俺はニヤニヤしながらバウディに近づく


「お?これはこれは信奉するゼレニスに切り捨てられた哀れな司祭様ではありませんかぁ~ククククク」


「!?司祭様・・女神様に見捨てられたというのは・・・・」


「ざ、戯言だぁぁこの儂がゼレニス様に見捨てられるはず無かろう!コイツの妄言だ、惑わされるな!」


顔を真っ赤にして俺の言葉を全力で否定するバウディ・・・しかし逆にその必死さが神官や教会騎士達の疑念を深める


「なぁ・・ゼレニス様に見捨てられたって事は、絶対に法王には成れないって事じゃないか?」


「ああ、いくら根回しで推薦枠の3名に選ばれてれも女神様に見放されていてはな・・・」


「俺、メディセオ司祭に付こうかな」「あ、俺も一緒に口利いてくれ」


バウディに聞こえるか聞こえないかの距離感でそんな話をしている騎士と神官・・・


「貴様等ぁぁぁぁ!!」


「バウディ様、我等バウディ様がゼレニス様への信奉を持たない不届き者の手に掛かり亡くなったと報告しますね」


「お世話になりました」


そういうと皆一斉にバウディの元から立ち去っていった


【死霧】(しむ)


立ち去ろうとする連中にダキがフ~と息を吹きかけると周りに黒い霧が立ち込める


「ああ、残念だけど、貴族も教会の連中も騎士も皆、まとめて皆殺しだから、残念だったねぇぇギャハハ」


俺は黒い霧に包まれる連中に手を振り、バウディとカミル君に向き直る


「さてっと、君たちはどんな死に方がお好みかな?」


「ふざけるな!!卑怯者!!俺と正々堂々勝負しろぉぉ何が精霊王だ、オベリスクだ!ただの腰抜けじゃないか!!」


「グルルルル」


「ギリギリ」


俺の背後で激しい歯ぎしりが聞こえる、ほっとくと今にも飛びかかってカミルを引き裂きそうな二人を右手を横に上げ制止する


「よかろう、では正々堂々一対一で勝負してやろう、ミホーク解放しろ」


「ギリギリ・・・御意」


カミルを縛り付けてる十字架の拘束が解かれ床に顔面から落下する


「グエッ」


「ほらさっさと立てよ・・・」


そんなカミルを見てバウディもなら自分もと騒ぎ出す


「わ、儂も戦うぞ!!拘束を解けぇぇ!!」


(戦うって・・・・こいつ馬鹿なのか?)俺は見え透いたバウディの思考に気付いていたがいい加減疲れたのでミホークに拘束を解く様に命令する


拘束を解かれたバウディは・・・・・脱兎の如くその場から逃げ出した


「ダキ・・・・殺せ」


「御意・・・【鎌鼬】(かまいたち)」


バウディの身体は細かい肉の塊になって地面に散らばった


「さて・・・・お待たせしたねカミル君じゃ始めるか」


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