異世界島国のヤンキーなエルフ王女【メリノ・ウール】邪魔するヤツは指先ひとつでヌイグルミに変えて終わりさ
異世界コチの世界〔異界大陸国レザリムス〕──その世界の大陸から少し離れた大海に浮かぶ群島の小国。
町の大通りを、けたたましい口爆音を響かせて、地面から少し浮かんだ状態で疾走していく大鍋があった。
「オラオラオラ、どけどけぇ! エルフの王女でヌイグルミ魔法使いの『メリノ・ウール』さまのお通りだぁ! 邪魔するヤツは、ヌイグルミに変えちまうぞぅ!」
大鍋に立ち乗りしたメリノは、爆走旗を手にモフモフ珍走団の先頭を大鍋で浮かび走る。
後ろに続く者たちの乗っている大鍋には車輪がついていて。
先頭を爆走するメリノに遅れまいと、必死に追ってきていた。
「メリノの姐御、もう少しスピード落としてくださいよぅ……こっちは車輪つきの安全鍋なんですから」
「ばっきゃろう! チンタラ走っているんじゃねぇ……気合いれろぅ、気合で大鍋浮かせろぅ!」
舟のオール棒で地面をつついて鍋を走らせている、モフモフ珍走団の男が泣き出しそうな声で言った。
「ムリです、オレたち魔法は使えないんですから」
先頭を走るメリノが突然停止する。
道の真ん中に、顔を隠されたフルアーマーの甲冑を着た、王室の近衛兵が数名立っているのが見えた。
舌打ちするメリノ。
「ちッ、また城からの迎えか……そんな、甲冑でアタイのヌイグルミ魔法を防げるとでも思っているのか」
甲冑姿の男の一人が、ヤンキー姿のエルフ姫──メリノ・ウールに向かって震える声で言った。
「メリノさま、城へお帰りください……国王
さまと王妃さまも心配しております」
「うっせい! アタイは青春真っ只中なんだよ、城の中でドレス着て、おしとやかに姫なんてやっていられるか! おまえたちもヌイグルミにしてやろうか……動けるヌイグルミと、動けないヌイグルミの好きな方を選ばせてやる」
メリノの言葉に動揺する近衛兵たち。
「こ、この甲冑には魔術防御の護符が内側に貼られていて……」
「しゃらくせぇ、アタイに魔法を伝授してくれた師匠が言っていた『ヌイグルミ魔法を防ぐ防御魔法は無いっス、なまらパネェ』と……今ここで、その護符の力とやらを試してやるぜ、ヌイグルミになっちまぇ!」
メリノが指先を近衛兵に向けると、ポンッという音と一緒に白い煙が広がり、手の平サイズの近衛兵たちのヌイグルミが道に広がった。
「大漁、大漁」
転がっているヌイグルミを拾い集めて、ロープで数珠つなぎに結んだメリノは、爆走を再開した。
「ブルンブルン、どけどけどけぇ。邪魔するヤツは指先ひとつでヌイグルミに変えちまうぞ!」
◇◇◇◇◇◇
城の国王の謁見の間の床に、
メリノの近くには、床から数センチの位置に大鍋が浮かび、メリノの前にはヌイグルミにされた近衛兵のヌイグルミが並べて置かれていた。
メリノの前方には、人間の国王とエルフの王妃が椅子に座って、メリノを呆れた顔で眺めていた。
メリノの父親の国王が言った。
「おまえは、どうして姫らしい振る舞いができないのだ……毎日、毎日、下世話な輩と鍋に乗って朝から晩まで走り回って」
エルフの王妃も、ハンカチで涙を拭いながら言った。
「どこでどう育て方を間違ったのでしょうか……こんなモノになってしまって」
カチンときたメリノが、指先を父親の国王と母親の王妃に向けて言った。
「親父もお袋も、うっせいよ……しばらく、ヌイグルミになっちまいな」
ポンッ、ポンッと白煙の中から国王と王妃のヌイグルミが椅子から転げ落ちる。
メリノは、王と王妃のヌイグルミを椅子にもどして座らせると、その近くには近衛兵のヌイグルミを配置して、近くで浮かんでいた大鍋に乗って部屋を出ていった。
◇◇◇◇◇◇
翌日──海を見渡す断崖の岬先端に立った、メリノは集めたモフモフ珍走団の仲間に向かって言った。
「いろいろと、考えて……ちょっくら、宇宙ってもんを見てくる」
首をかしげるモフモフ珍走団。
「宇宙? ですか」
「なんでも聞いた話しだと、大陸のある村の近くに数日前、バカでっかいモノが空に開いた穴から落ちてきたらしい……どうやら、話しの内容を整理すると。落ちてきたのは超巨大な宇宙船と巨大ロボットらしいぞ」
またまた、首をかしげるモフモフ珍走団。
「宇宙船? 巨大ロボット?」
「アタイの師匠が言っていた『宇宙は広いッス、一度宇宙を見れば人生変わるッス……なまらパネェ』ってな。だから、アタイも宇宙とやらを見たくなった。ちょっくら、宇宙に行ってくらぁ……あとのことはよろしくぅ」
そう言うと、旅支度した荷物を大鍋に放り込んで。浮かぶ大鍋に乗ったメリノ・ウールは断崖から急降下して、海面数センチの空中から大陸に向かって飛んでいった。
「どけどけどけぇ、エルフの王女でヌイグルミ魔法使いの『メリノ・ウール』さまのお通りだぁ、トビウオども道を開けろぅ!」
『メリノ・ウール』~プレエピソードおわり~
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