純情社長のプロポーズ 3

「うん、そうなんだ。でも、今は自分の、胸の奥から湧いて出てくる気持ちを言葉にしたい。こんな格好だけど」

 着て来た高級スーツのスラックスは救助活動でささくれ立ったり、ちょっと切れたりしていていた。ワイシャツはもうよれよれで、火災が起きた現場もあったのだろう、少しすすけていた。どこからどう見ても格好悪い。だけど、この気持ちを留めておくことはできそうにない。災害現場に一緒に来てくれて、コーヒーを淹れて僕を待ってくれていた彼女に、自分の気持ちを伝えたかった。

「はい」

 メリッサはアルが何を言わんとしているのか察してくれた様子だった。

「格好悪いなんてこと、ないです。あなたはいつだって格好いいです。私のヒーローなんですから」

 そして口元に笑みを浮かべた。

 アルはその場に跪き、着ていないスーツのジャケットの内ポケットから何かを取り出すジェスチャーをした。そしてその取り出したものの蓋を開け、メリッサに差し出した。もちろんそれもジェスチャーに過ぎない。

「今、ここにリングはないけれど、どうか僕のプロポーズを受けてくれないかい?」

 照れ過ぎて自分の顔が真っ赤になっているのが分かる。

 メリッサはあたかもそこに指輪があるように手をのばすと、それをおっかなびっくり持ち、左手の薬指にはめてみせた。もちろん、これもジェスチャーだが、それでもう、彼女の気持ちが伝わってきて、アルは言葉を失った。

「喜んで、アルフォンス・ミラー」

 そしてメリッサははにかんで俯いた。

「メリッサ・マキャベリ……僕は君と一緒に今後の人生を歩いて行きたい」

 メリッサは頷いた。

「あなたにつきあっていけるのも私くらいですから」

 そしてアルはもう感極まり、立ち上がってメリッサを抱きしめた。

 人々が行き交うざわめく中、誰も2人の世界に気付くことはない。

 2人の世界は今、1つになり、溶け合った。

 しばらくして2人は抱擁をやめ、拍手を聞いた。

「まさかこんなことになっているとは」

 いつの間にかミッシェルとゴードンが2人のすぐ目の前に立っていた。

「2人とも、いつの間に来たんだ!」

 アルが悲鳴に似たような叫びを上げる。ミッシェルが呆れたように答える。

「竜巻後の交通規制にひっかかってやっと来られたのよ」

「でもまだ僕らにもできることはいっぱいあるみたいだ」

 ゴードンは建設ヤードの中を見渡し、仲間の姿を見つけ、手を振った。

「ありがとうゴードン」

「ありがとうミッシェル」

 アルとメリッサはそれぞれ感謝の言葉を口にする。

「それで、式はいつ挙げるの?」

 どうやらプロポーズしたときにはもう2人は目の前にいたらしい。

 アルはしどろもどろになりつつ応える。

「君たちだって挙げてないだろ。僕だって考えてない。あ、でも君の里親には挨拶に行きたいな」

「ええ。判事の前で宣誓するだけでいいと思うの。だってこの人、仕事が大好きだから」

「だ、だから違うって……」

 そうはいっても、説得力がない。この災害現場にだって、休暇を返上して、会社の代表取締役として、全力を尽くすために来ているのだ。仕事中毒ワーカホリックだと断言されても致し方ない。

 メリッサはアルの腕を取り、ミッシェルとゴードンに言った。

「ここは建設中だけど、近くの引き渡すだけになってる無事なエリアで食事の提供をしているの。2人ともお腹が減っているでしょう? 一緒に食べましょうよ」

 ミッシェルとゴードンは頷き、2人は手をつないだ。

 そしてアルはメリッサと一緒に歩き出した。

 これは2人で歩く第一歩だ。アルは腕を組んでいるメリッサに目を向ける。

 メリッサの薄紫色の瞳が輝き、微笑んでいる。

 これから先も自分達は多くの困難に見舞われることだろう。

 それでもこの女神の輝きがある限り、自分は数多の困難にも笑顔を絶やすことなく立ち向かい、きっと乗り越えられるはずだと思う。

「アル?」

 メリッサが自分の名を呼んだ。

「どうしたの?」

「愛してる」

 メリッサはそう言うと恥ずかしそうに俯いてしまった。

「僕もさ」

 そう応え、アルは彼女と歩調を合わせて、歩いて行く。


 この先、こんな風に2人でずっと歩いて行ける――アルとメリッサはそう固く信じたのだった。

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