パーティが終わって 2


 アルは美しいメリッサに手をのばす。

「せっかくだから踊ろう」

「ワルツ、練習しておけば良かったです。恥~~」

 メリッサは参加したゲストからワルツを踊ろうかと誘われたに違いなかった。

 それでももちろんメリッサはアルの手を取り、そのまま彼の手に引かれた。メリッサはアルの身体にぴったりと自分の肢体をくっつけ、2人はゆっくりと揺れ始める。BGMはまだ止まっていない。もうパーティが終わったことを示すように、寂しいインストルメンタルが流れているだけだ。それでも良かった。メリッサと同じ時間を過ごし、同じ音楽で揺れることができるのなら。

「私、正直、自信を失ってしまいました」

「最初なら誰でもそんなものさ」

「そう気軽に言えるほど、階級の差は飛び越えられませんよ」

「じゃあ別にこんなことをもうしなくてもいいさ。君は君の人生を生きればいい。僕も僕の人生を送る。でも僕らの人生は螺旋のようにお互いを巡り巡って、時に交わって、1つの道のようになればいいんだ」

 メリッサは驚いたように口を噤み、そして赤くなって俯いて、また顔を上げ、答えた。

「ほとんどプロポーズですよ。それ」

 アルもそう言われて気がついた。そうとしか聞こえないかもしれない。

「うーん。プロポーズならもっとちゃんとするけど、僕が普通にそう考えただけってことなんだけどな」

「あら、嬉しいです。私、あなたを支えられているんですね」

「今更何を。しっかり支えてくれてる」

「正直、今日は気が気ではなかったです」

「それは、ホステス役が大変だったから?」

 メリッサは小さく首を横に振った。

「普段の仕事の方が大変ですよ」

「それは失礼」

「――ミッシェルさんがいたからです」

 もちろんミッシェルは今日も参加して、寄付金集めに協力してくれた。ありがたいことだ。

「どうして?」

「どうしてって――以前、あなたとおつきあいしていたから」

 アルは思わず吹き出してしまった。

「あはは、僕が振られた方なのに嫉妬したのかい?」

「振られた? 初耳ですわね!」

 メリッサは露骨に驚いていた。

「ついでに言えば今はもう既婚者だし」

「ええっ?! そんなの聞いたことありませんよ!」

「旦那さんがちょっと訳ありの人でね。悪い方の訳ありじゃないよ。謎の有名人ってやつだ。そんなんだから結婚したのも公表できずにいるのさ」

 アルは可笑しくなった。あんな氷の秘書と呼ばれたメリッサが嫉妬心をむき出しにしただけでなく、ミッシェルの裏話を聞いて、きょとんとしているからだ。

「ミッシェルとつきあっていたのも、互いにメリットがあったからで、でもそんなメリットなんて、真実の愛の前には何の障害にもならなかったのさ」

「どんなラブストーリーがあったんですか? 気になります」

「それはお友達になって本人から聞くといい。きっと詳しく教えてくれる。そのストーリーの中での僕はきっと、仕事中毒ワーカホリックで自分のことを気に掛けない、単に仕事上で必要だからつきあっているだけの恋人だよ、たぶん」

「あー よくいる寝取られるタイプの当て馬キャラ」

「言うねえ。でも、メリッサが真実の愛を見つけてくれたから、今、僕は、何の憂いもなく、君を胸に抱いていられる」

 メリッサは頷いた。

「私も無事、気がついて貰える秘書になりました」

「少しは安心した?」

「ええ」

「良かった」

 今夜は彼女を抱きたいと思う。そうせずに眠れる気がしない。これはたぶん、単純に性欲というものではなさそうだ。もっと強いものだ。おそらく魂が彼女を求め、魂の結びつきから新たな命を育みたいという神の意志だ。

 真実の愛を見つけたと言っていたミッシェルも彼と同じような思いを抱いて、幾つもの夜を過ごしたのではないだろうかとアルは想像する。そしてその想像は間違いなく真実だと、彼女に聞けば答えて貰えるに違いなかった。

「僕の部屋で休もう」

 そしてチークダンスをやめて2人は見つめ合う。

「ホントに?」

 おかしそうにメリッサは微笑みながら、首を傾げる。

「休息をとらずに疲れてしまうかもしれない」

「間違いなく疲れますね」

「疲れたらそのときは一緒に寝ればいいと思うんだ」

「ハイ!」

 そしてアルはメリッサと一緒に歩き出す。

 目的地はアルの寝室だ。

 今夜もまた2人はめくるめく官能の夜を過ごすのだ。

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