恋の模様を知りたいの

どうして、この世の中には

恋のうたであふれているの?と

母に尋ねたことがある


私は恋知らぬ童女で

そのくせ世の真理を悟ったように物知り顔で話す

背伸びしたお子様だった


恋なんて、

発情期をオブラートで何重にもくるんで

素敵なお砂糖菓子みたいに言っただけの

ただの繁殖の為の機能でしょ


なんて、恋をしたこともないくせに

知ったふうに


母はそんな私に一言だけ


「花だから」


と言った


訳が分からなくて

もっとちゃんと説明してよなんて詰って

それで母はふっと息をついて


「人生の花だから。恋ってのは」


そう言った


そうだ、それを聞いて私は

恋とはどんなものかしらと

本当の意味で興味を持ったのだ


私は愛を知っている

でも、恋は知らない


聞くところによると

恋っていうものは


多幸感と

苦しさと

見える景色の色彩の変わることと

人をまるっきり変える力と

嵐のように心を荒らす激しさと

時に命を育み

時に命を殺す


とんでもない力を持つナニカらしい


ちょっとそれ、それだけ聞くと

怪しい薬かなんかじゃないの?

とか思ったけど違うらしい


恐ろしいと思った

でもそれ以上に

そんなにも人を狂わせる

「恋」というものを味わってみたいと思った


私は今、一応大人と言われる年になって

それでも心は相変わらず

恋知らぬまっさらな無地だ


世間で聞くようになった

恋をしない人間なのかもしれない、

なんてたまに思うけれど、でも、

己を未だ恋知らぬ乙女なんだと信じて

いつか

その嵐が私の心模様を変える日が来ることを

少し楽しみに待っている

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