ぬくもりと呪い



こわい、こわいと悪夢に怯えて泣く

我が子を抱えて軽く揺すりながら

リビングへ向かう。


繊細で、臆病で、

怖がりなところのある彼女は

悪夢を見ては寝ぼけて泣いて、

パニックを起こすことがよくあった。


電気をつけて、テレビもつける。

怖いものは無いと、

ほらごらん、あの人も笑ってるでしょうなんて

ワイプに映る芸能人を指差してやる。


暫く彼女はぐずっては、

くろいもじゃもじゃのしとが、とか

へんなののがね、とか

もぞもぞ言って

まろい頬を涙で濡らした。


そんな彼女の背中をさすり

ゆらゆら揺すって抱いていれば、

漸く目が覚めてきたのか

テレビに目が釘付けになった。



ゆぅちゃ、すまほみたいの。ゆーちゅーぶは?


もうねんねの時間だから、

スマホさんもねんねしてるの。



手っ取り早く目覚めさせるために

大きく明るいテレビをつけたが

現代っ子の彼女は文句を言う。


けれどもやっぱり、

まだまだちいさいおひめさまは

こくり、こくりと船を漕ぎ出した。

テレビと電気を消して、寝室に戻る。


あたたかくて、ちいさくて、

何よりもかわいい、私のこども。


いつか、彼女が大人になって

家を出る日が来るのかな。

好きな人、連れてくる時が来るのかもしれない。

どんな美しいひとに育つのかしら。


それまで、ずっと、ずっと

私、ちゃんと、親でいられる?

守り、育てられるくらい、強くあれる?

もしも、私が病に倒れたら。

もしも、この子をおいて死んでしまったら。


眠る彼女の背に手を添えて

生きている証のぬくもりを感じて。

影のように付きまとう不安が

色を増した。


本当に怖がりなのは、

きっと大人の、

いいえ、私の方だった。




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