第29話 公爵の晩餐会

 カグヤは頬を緩ませながらカースチン公爵邸に向かう。


「ようこそおいでくださいました。」


「フム、ずいぶん集まっておるのう。」


 晩餐会には50人ほどの人が来ていた。


「はい、知的好奇心の強い者ばかりです。多少の無礼はお許しください。」


 ブルード公爵は地位の割には腰が低い。


「なるほど、ではこちらも多少の無礼はするかもしれんが構わぬかな。」

 カグヤはそういうと妖精たちを呼び楽器を持たせる。


「こやつら食べ物には目がなくてのう。食い荒らすと思うが我慢してもらいたいのじゃ。その代わり、こやつらは殴った程度では気にしないのじゃ。」

 そう言いながら近くに漂っていた妖精を指で軽く弾いて遠くに飛ばす。


「ターフェルムジークを頼む。」


 妖精たちは楽器を奏で始める。


「ほう、妖精たちの体の大きさは変えられるのですかな。」


「ウム、ワシの魔力を基本にして魔素のような物でできておる。核となるのは神の破片のようなものじゃが、どういう原理でこうなるのかはワシにもわからんのじゃ。」


「神の破片ですか?」


「この地に捕らわれている神を開放すると光の破片が大量に散ってこやつらの元となるが・・・いや、元からあった破片が神となったのか・・・。まぁ、よくわからんのじゃ。」


「精霊とは違うのですかな?」


「似たような物じゃ。ワシは人型を妖精。思いが強くなって強力な魔法を使えたり、聖獣化したものを精霊と呼んでおる。」


 その後もいろいろな話をさせられる。


「神代の時代、今より文明が発達した転生者が大量に転生したのになぜ文明は発展しなかったのでしょうか。」


「あの頃は今ほど自然が発達してなくて食料がなかったのじゃ。転生者同士の戦争は少ない食料を奪い合うための戦争じゃ。多くは戦う前に餓死していったし、勇気のある強い者は真っ先に突撃して死んでいった。

 勝っても得るものはほんのわずかじゃ。皆絶望しながら死んでいった。そんな中、ワシだけが運よくこうして生き残った。それだけじゃな。」


 カグヤは多くの者たちに囲まれる。精霊たちが室内を飛び回り、妖精たち数体で演奏される静かな室内楽が流れる中、過去の歴史や精霊のことについて話す。


「本当に精霊など存在するのか。」

 カグヤの話に疑問を呈する者も出てくる。


 カグヤは指を一本上に突き立てると、身長20cmほどの風精霊シルフがその指の上に立つ。

「これがそうじゃ。目の前の事実を受け入れるのじゃ。」


「それは私たちが魔法か何かで見せられているのではないのか。」


 疑い出せば切りがない。一生のうちに精霊を一度でも見られる者はほとんどいない。精霊とは伝説上のお伽噺にしか過ぎない。それが、カグヤの回りには精霊がたくさん存在する。何か誤魔化ごまかされていると感じるのは当然のことであり、目の前で見せられてもなおも疑うのが人のなのだ。


 短い演奏会の時間は終わり、カグヤが退出すると同時に精霊たちは消える。


「我らはどうやって誤魔化されていたのだ。」

「いやまて、あれは本物だったのだ。」

「幻術というやつか。」

「手で触れたし、お菓子も食べていたぞ。」


 目の前の事実を素直に受け入れる者。理解不能で見たことの無い現実に戸惑い、他の理由を見出そうとする者。

 物事を認識するということは意外と難しいことなのだ。


〇 〇 〇


「昔のことを話すのは嫌いなのかと思っていましたが、いろんなお話をされていましたね。」


 テレサは帰り道に何気なく聞いてくる。


「やつらはこの国の未来を背負っておるからのう。面倒だったが丁寧に話してみたのじゃ。」


「未来ですか?」


「ウム、ブルード公爵じゃったか。その取り巻きを含めて戦の先頭に立って戦うようなタイプではなかろう。その分、領地や領民を守り、今現在起こっている出来事を後世に伝え、後世を発展させる大事な役目を背負っておるのじゃ。」


「興味深い不思議なお話しでしたけど、そんなに大事な事なのですか。」


「国の根幹を支えるとても大事な事じゃ。教育というか教養かのう。そういえば知っておるか? 人は剣を持つと強い魔獣も倒せるのじゃぞ。」


「もー、それぐらいわかりますよー。」


「剣を鍛え、剣の振り方やタイミングを研究して訓練して素手では倒せない魔獣を倒せるようになるのじゃ。」


「ウーン、なんとなく・・・。」


〇 〇 〇


 屋敷に帰ると30歳ほど若返ったセバスとメアリーとキャロルの使用人たちが5人ほど来ていた。


「おかえりなさいませ。」

 セバスとメアリーはタキシードを着、他の使用人たちはメイド服をきて出迎えの挨拶をする。


「もう来てくれたか。」


「はい、キャロル様は明日からこちらにお泊りになるとのことです。」


「では、今後の予定を話し会おうかのう。部屋割りやら食事のルールやら決めることが山積みじゃ。増築が必要かもしれんな。」


「カグヤ様のお世話係はどういたしましょう。」


「ワシの世話は家妖精のブラウニーたちだけで良いぞ。必要に応じて精霊たちにも協力してもらう。セバスたちは屋敷の管理とキャロルの世話を優先してほしい。

 ・・・あっそうそう、妖精や精霊たちはな、ほっとくと屋敷のあちこちに精霊樹を植えつけて回るからの、祠の回りとか指定されたところ以外は見つけ次第撤去させるようにしてくれ。」


 カグヤはそういうと柱から生えていた木の枝のような物を切り落とす。


「ほっとくと屋敷内は一ヶ月ほどで原生林になってしまうのじゃ。生物を育てるのはやつらの本来の仕事なので、無意識に植えて回ってしまうのじゃ。気をつけて見回って欲しい。」


「不思議な習性でございますな。」


「もとは大気のようなもので、生物をはぐくみ見守るのが存在する理由なのじゃ。

 あと、精霊たちの各個体に名前は無い。そのかわりどれかひとつの固体に話せば全体に伝わる。

 ワシに用があるときは鉄ゴーレムのクモガタが通信機代わりになるから覚えておいてほしい。クモガタたちとは意識で繋がっておる。ま、最初はとまどうじゃろうがすぐ慣れる。気楽にやってくれると良いのじゃ。」


 そして、使用人たちにはフロに毎日入り身奇麗にしておくよう話す。


「使用人ごときにそんな贅沢を許していいのですか?」


「折角、浴場も大きく作ったのじゃ、普段から身ぎれいにしていてもらわねばこちらが困る。それとお湯は流しっぱなしでよいぞ。魔石も石鹸も遠慮なく使ってくれ、たくさんあるからの。他には何かあるかの? 」


「キャロル様を支持する貴族には貧しい貴族が多く存在します。その日の食事さえまま成らぬ者も多いようです。」


「ふむ、食事の提供ぐらいなら構わぬが、裏に建物でも建てて住まわせても良いな。領地経営に人手もほしいからのう。いずれ人材の募集はしなければならん、手間が省けて助かるのじゃ。」


「騎士や男爵の下級貴族なら喜んで来ると思います。私の同窓者にも職にあふれているものは多いのです。」

 テレサは切実な現状を語る。


「フム、テレサの友達で暇な者は働いてもらって良いぞ。王女が住むとなると多くの人手も必要となるじゃろ。明日は厨房の拡張と新たな建物作りかの。」


〇 〇 〇


 翌朝。メイドたちの朝は早い。まだ日の上がらないうちから起きだして朝食の準備だ。


「おはようございます。」


「おっはよー、今日から姫様が来るんだっけ、忙しくなるねー。」


「昨日の話だと人手も増えそうだよ。」


「お給金有りで休みも交代制って言ってたね。」


「それにしてもカグヤ様は見かけはまだ子供なのにしっかりしてるよねー。それにいろいろ噂になってるけどほんとなのかなぁ。」


「魔物退治に海賊退治に武術大会で優勝して、音楽の演奏も過去に並ぶものの無いほど一流とか。ちょっと盛り過ぎ・・・。」


「でも妖精たちが料理してるし、鉄のしゃべるゴーレムは走り回ってるし、浴場はあるし、まさしく魔女様って感じね。そのうち聖獣とかドラゴンが出てきそうね。」


「あれ・・・出てるねぇ。」


 外を見るとカグヤがフェンリルを連れて屋敷の回りに明かりを設置して回っていた。


「明かりを屋外に設置するなんて初めて見た。」


「あれって聖獣なの? なにかの絵でみたことあるぅー。」


「ほらほらあなたたち、手も動かしなさい。」


 メイドたちの頂点に立つハウスキーパーのメアリーだ。


「カグヤ様って何者なんですか?」


「私にもわからないけど、精霊の見使い様か神様の使徒様あたりなのかねぇ。」


「おおー、なんかすごい人の元で働いてるぅー。」


「・・・まぁ、王宮で働いていた私でさえも驚くことばかりだしねぇ。」


「カグヤ様も気楽にやってくれっていってましたし。」


「そうね、だけど失礼なことだけはするんじゃないよ。物理的にクビが飛ぶからね。」


「はーい。」


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