第16話 武闘会予選

 翌日、カグヤは特にすることもなかったので、モンス家のフロの増設をした。男湯と女湯に分けるためだ。テレサは軍の本部に呼ばれて報告に行ったらしい。


 午後にはテレサがミューシーを伴って帰ってきた。軽く挨拶を交わしミューシーが言いづらそうに話す。


「エート、閲覧の件ですが・・・武術大会で優勝することができたら考えてやろう、と王より直々に賜りました。」


「また面倒なことを、あまり目立ちたくはないのじゃが・・・。」


「いやもう、何をいまさら、ハッハッハ。」


 なんとなくテレサを見るとあからさまに目をそらす。


「まぁ良い、手続きはどうするのじゃ。」


「最初は軽く戦うだけです。10人抜きで出場権獲得です。武器は自由、相手が死んでも罪には問われません。相手がマイッタと宣言するか、審判が勝ちを宣言するか、相手を場外に叩き出しても勝ちです。一般の部で自由に参加できるのは今日までです。戦うための仕度をしてください。」


「格好はこれでよい。これがワシの戦闘服なのじゃ。」


 今日は黒を基調にしたボタン柄だ。カグヤは腕を広げて着物を見せる。


 そのままミューシーとテレサに連れられて闘技場に行く。闘技場から大歓声が上がる。


「見世物じゃな。」


「応援してます。がんばってください。」

 テレサは拳を握りしめて応援する。


 闘技場の中に入るとたくさんの人が戦うための順番待ちをしていた。


 広い闘技場の中では8箇所に分かれて試合をしていた。一度負けても何度でも挑戦できるらしい。

 観戦席にはたくさんの人でごった返している。席の上層階は貴族席らしく、大人から子供までゆったり座っている。


 カグヤは順番待ちの間ボッーと試合を見ていた。カグヤまであと数人というところで太い金棒をもった大男が対戦相手を場外に吹っ飛ばした。


「場外、そこまで」

 審判が宣言する。


 しかし金棒を持った大男は、飛ばされ痛みでうずくまっている男に追い討ちをかけるように滅多打ちにする。

 審判は止めずに終わるまで待つ。そして男は血だらけになって死んだ。これが武術大会のルールなのだ。


 次に挑んだ男も一撃で足の骨を折られ、倒れたところを死ぬまで滅多打ちにされた。金棒の大男はニタッとうれしそうに笑う。


 次の男は戦意喪失で負けを宣言した。殺されるよりマシだ。


 次はカグヤの番になった。金棒の大男がニヤニヤしながら立っていた。カグヤは鉄扇を片手で持ち、金棒の大男の前に立つ。審判は一瞬戸惑ったが開始の合図をする。


「始め!」


 金棒の大男は、金棒を振り回しながら走ってカグヤに近づいてくる。カグヤはゆっくり前に進む。ガキィン。カグヤは右手の鉄扇で金棒をはじき返す。


「ナニィッ。」


 大男は驚いて一瞬止まるが気を取り直してもう一度振り回して横殴りに振り回す。


 ガキィン。

 またもはじき返された。


 カグヤは黙って男に近づく。男は数歩下がり金棒を再び振り上げ、ゆっくり近づいて来たカグヤの頭上から叩きつけるように打ち下ろす。


 ガキィン。

 金棒ははじかれる。

 と同時にカグヤは軽く飛び上がると大男の頭に鉄扇を振り下ろす。大男はとっさに金棒で受身を取るが、カグヤは金棒ごと大男を真二つにした。

 同時に血が飛び散らないように割った断面を氷魔法で凍らせた。


「それまで!」


 会場は大歓声で沸き上がっていた。


 すぐに係の者らしき人たちが片付ける。


 まずは一勝。殺しても何も言われず試合は続行される。すぐに次の者がカグヤに対峙する。


「始め」


 カグヤはツカツカとゆっくり相手に近づく、大男は剣を振り下ろす。カグヤは右手の鉄扇で受け剣を弾き、左手の鉄扇の先の刃を大男の喉下に突き出して止める。


「勝負有り! それまで!」


 会場は一瞬静まり返るが、すぐにヤジが飛ぶ。


「油断してんじゃねぇや。」

「マヌケー。」

 次も同じく簡単に喉元に突きつける。


 次はパイクを持った大男だ。ニヤニヤしている。


「始め!」

 それまでと同じくツカツカと近づいていくと、いきなり心臓めがけて真っ直ぐ突き出してくる。

 カグヤはクルッと一回転してかわし、間合いを詰めると大男はパイクから手を離し殴りかかってきた。左の鉄線で叩いて弾き、右の鉄扇の刃を喉元に突きつける。


「それまで!」


 そんな調子で10人抜きを果たすと名を聞かれ「カグヤ」答えると


「一次予選突破カグヤ」


と宣言されて木札を手渡される。みると『一次予選突破』と書かれている。次の出場権らしい。場内はヤジが飛ぶ。


「譲ちゃん、明日も応援するぞー」

 そんな声が聞こえた。


「明日もやるのか・・・。」

 闘技場を出ると二人が待っていた。


「おめでとうございます。楽勝だったみたいですね。さすがです。」

 テレサがうれしそうに駆け寄ってくる。


「一次予選突破は3000人ぐらいだと思うので、明日明後日もこんな感じです。負けても並びなおして再戦可能ですよ。」


 ミューシーが補足する。


(よくまぁ、裏があるくせに。素直に写本読ませろよ。)そう思ったが口には出さず。


「では趣味の日課に行くのじゃ。」


「趣味の日課ですか?」

 ミューシーが聞き返す。


「うまい物を食う。そのための材料集めじゃ。こればっかりは日々の努力がなければ成し遂げられんのじゃ!」

 カグヤはコブシを握る。


 港の魚市場にいくと漁師たちが待っていた。人数もさらに増えている。


「待たせたの。今日はさらに増えたのう。」

カグヤはうれしそうに挨拶する。


「多過ぎましたか?」


「いや、もっとあっても良いぞ。アサリ、シジミ、イカ、タイにカンパチ、シラウオ。フフフフフ。昨日と同じ相場割合でよいかの?」


 カグヤはにやける顔を上げて問う。小麦といくらかの金銭を払い終わるとストレージにポイポイ入れていく。


「ではまた明日も頼むのじゃ。」


「オオー。小麦までもらえるのか。」

 漁師たちが喜んでいるのを見て港を後にする。


「ずいぶん買い込みましたね。」

 ミューシーが話かけてくる。


「ウム、安いときに買って、高いときに売る。商売の常識じゃ。ま、飢饉や困ったときに開放するので大した儲けが出るわけではないがの。」


 街へ戻ると人が観光目的やイベント参加者が増えているらしく、一週間後の祈願祭に向けて準備に慌しくなっていた。


 翌日、カグヤはテレサとのんびりお茶を飲んでいた。ミューシーが迎えにくる。

「さあ、早く行きましょう。今日も10人抜きで二次予選通過、1000人ぐらいに減らすそうです。優勝までのイベントは目白押しですよ。」


「何をやらせるつもりじゃ。」

 カグヤはミューシーをジト目で見る。


「お楽しみということで・・・ハハハ。」


「まったく、困ったものじゃ。」


 闘技場ではすでに決戦が繰り広げられていた。


 入り口で昨日貰った木札を係員に手渡すと中に入る。順番待ちの行列ができていた。負けた者はポーションを飲みながら行列に並びなおす。


「次、前へ・・・始め!」


 審判も飽きてきたのか、いまいちいい加減だ。審判の負担軽減のためにサクサクと終わらせる。


「二次予選突破、カグヤ。」


『二次予選突破』の木札を貰って闘技場を出る。


「ちょっと薬屋にいこうかの。金のにおいがするのじゃ。」


 二人は付いてくる。薬屋に入ってポーションの買い取り値段を聞く。


「ただいま在庫を切らしておりまして、材料もまったく無い状態ですので買取値は普段の1.5倍です。」


「フム、いくつ買ってくれるのじゃ。」


「中級1000本、高級なら500本もあると助かります。」


「よし全部売った。」

カグヤはそういうと箱単位で出していく。


「ゆっくり確認すると良いのじゃ。」


 しばらく待つと確認が終わり、カグヤは大金貨22枚小金貨5枚を受け取る。


「さて、港に行くかの。」

 カグヤは大金を手に入れたためうれしそうに話す。


「最近、私の金銭感覚がおかしくなってきているのです。」

 とテレサがぽつりと呟く。


「ノイローゼじゃな、休んだほうがよいぞ・・・おっ名案があるのじゃ。

 夜中の街では、人を殴らないとうまく寝付けないという酔っ払いがウロウロしているようじゃな。やつらを殴って寝かしつけて回るとストレス発散にとてもよいはずじゃ。すっきりするぞ。」


「一緒にしないでください。死んじゃいます。」


「アハハハハ。」

 ミューシーが笑う。



 港にはいつもより早く着いた。軽く挨拶して回りをみると、まだ客がうろうろしていたので軽く食事をすることにした。ストレージから皿と醤油と岩塩プレートを出す。

 カキと大きなアサリ、イカ、タイをもらって岩塩プレートで焼き始める。たすき掛けしたカグヤがカキとイカを捌く。イカの足は岩塩プレートの上にポンポン放り投げる。

 テレサとミューシーには皿と細長い棒を渡す。


 箸を持ったカグヤが

「そろそろよかろう」

 と言って食べ始める。


「イカとタイの刺身も絶品じゃ。」

 だが、二人はイカとタイの刺身に手を出さなかった。


「あのう・・・これ生で大丈夫なんですか?」


「ン、うまいぞ、この地域では食わんのか、ま、気が進まないなら食べないほうが良い。」


 固まったようにジィッーと見てたテレサが覚悟を決めてイカの刺身を口に放り込む。


「ン、ンー。おいしい。こんなの初めてです。」

 と言いながらタイの刺身にも手を伸ばす。ミューシーも興味を持ったのか口に入れる。


「これは! 魚が生で食べられるとは思いませんでした。舌の上で蕩ける感じがいいですねー。」


「フム、寄生虫がおるからな、捌くときはよく見るのじゃ。」


 海の味覚を堪能した頃には客もいなくなったので、またカグヤがすべて買い取る。

「では、また明日頼むのじゃ。」

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