第53話 立場が違えど答えは同じ

 学園祭に向けて少しずつ準備を進めていた。

放課後に残らなかった組も裏方としてはちゃんと協力してくれていたものの、5名ほど完全に手伝わずにクラスに亀裂が入ったままだった。


「碧〜。ちょっと、こっちも手伝ってくれー」


「りょーかい」


 ◇柏崎龍馬視点


「いいんか?龍馬。俺たち帰って」


「別にいいだろ。俺たちなんか居なくても勝手にやるだろうし」


「でも、雪菜ちゃん推しの俺としては手伝いたいんだけどな...」


「ならあっちいけよ。裏切り者」


「い、いや...大丈夫だけども...」


 俺は汐崎真凜が好きだった。

天真爛漫で天才で天使な彼女が。


 誰とでも一定距離で話すのだが、それ以上は踏み込ませないみたいな絶妙な距離感をいつも保っていた。


 何度かデートに誘ったことはあるが、結局みんなで遊ぶ流れになり、1対1で遊んだりすることはなかった。


 それでも別に誰かと付き合ったみたいなこともなく、気持ちいの良い片思いをしていたのだが、そんなある日彼女が突然指輪をして来たのだった。


 誰かと付き合うならまだ希望は持てても、誰かと結婚したとなれば話は別である。

急に遠くに行ってしまったようなそんな気がした。


 俺は必死にその結婚相手を探ったが、本人も隠しており、これ以上の詮索は嫌われかねないと思い断念した。

結局、その相手は同じクラスの地味な男、山口碧だった。

特筆すべき点は何もない。


 頭も、顔も、運動神経も、カリスマ性も、人望も、家の経済力も何もかも俺のほうが上だった。


 そんなあいつに負けたことが無性に腹立たしかった。

俺が必死に振り向いてもらおうと尻尾を振っているのを嘲笑われている気がした。


 だからこそ今回あいつに復讐をしようと、こういうボイコットまがいの行動に出たのだった。

別にもう天使様に嫌われてもいい。

どうせこの先俺が天使様に好かれることなんてないのだから。


「カラオケでも行こうぜー」


 そうして、溜まった鬱憤を解消するのだった。


 ◇放課後の教室にて


「...」と、龍馬の席を見つめる碧。


「気にしなくていいぞ。別に龍馬が居なくても劇は成立するし」


「...でも、最後の学園祭だし...」


「本人がやる気がないって言ってんのに無理やりやらせたところでうまく行かないっての」


「...」


「はぁ...。わーかったよ。俺が連れてくる」


「いや...俺行くよ」


「おい、碧が行ったら余計にややこしいことになるだろ。おとなしく俺に任せておけ。それより、みんなの演技指導頼むぞ」


「...おう」と、何か言いたげな言葉を飲み込むのだった。


 というより、同じ相手に失恋した者同士分かり合えることもあるだろうと思いながら俺は教室を後にした。


 そのまま廊下を出てすぐに龍馬の友達である相川あいかわに連絡したが、なかなか居場所を教えてくれなかった。

なので、今度雪菜ちゃんとの遊びをセッティングすると伝えるとすぐにカラオケにいることをすぐ教えてくれるのだった。

相変わらずちょろいやつである。


 そうして、携帯をいじりながら校門を出ようとしたところ、おじさんとぶつかりそうになる。


「あっ...す。すみません」


「こちらこそごめんね。ちょっと前を見てなくて...。君、この学校生徒さんだよね?」と、そのおじさんに質問される。


「えぇ、まぁ」


「実はちょっと探している人がいてね」


 おいおいおい...なんか怪しいぞこのおっさん。

学校に中に入らず出てきた学生に声をかけているということは、少なくても学校の関係者ではないよな。


 よし、適当にその子ならもう帰りましたとか言うか。


「誰を探してるんですか?」


「山口碧くんって知ってる?」


「...え?」と、まさか碧の名前が出るとは思わず固まってしまう。

余計なトラブルに巻き込まれているのか?


「その反応もしかして彼のことを知ってるのかな?」


「...友達ですけど。なんで探してるんですか?」


「おっと、失礼。私はこういうものでね」と、名刺を一枚渡される。


「...安藤...幸三」


 ◇車内


 駅前のカラオケに向かっていると伝えると、車で送っていくよと言われ、唆されるまま車に乗り込んでしまった。


「山口君とは結構仲いいのかな?」


「はい。小学校からの付き合いです」


「おぉ、それはなかなかだ。まぁ私の名前でピンときているということは彼が子役をしていたこと...或いは彼の家庭環境についても知っているのかな?」


「...はい」


「そうか」


「けど、今は結婚して幸せになっている...と思います」


「そうか。まぁ、あの家庭環境については私にとやかくいう権利なんてないのだろう。私は...彼に何もしてあげられなかったのだから」


「...それは俺もです。傍にいたのに...いや、傍にいることしかできなかった。結局あいつを助けたのは...今の奥さんですし」


「...そうか。けど、君と私の立場は違うだろう。私は大人で君は子供だ。どうしていいかわからず助けられなかったのと、どうすれば助けられるか知っていて助けなかったのではまるで意味は異なるさ」


「...」


「もし可能なら...僕のことをどう思っているか...彼に聞いてくれるかな?」


「...はい」

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