第39話 修学旅行《1日目①》

 あれから何事もなく時間は過ぎていき、修学旅行を迎えることとなった。


「行こっか!」


「うん」


 早朝に2人で家を出て、空港に向かう。


「北海道楽しみだね!」


「...そうだね」


 結局、清人と仲直りができるわけでもなく、クラスメイトからのいじりが減ることもなく、ただ時間が過ぎていった。


 そのこともあり少し疲れが溜まってしまっていたのか、あまり体調がすぐれないまま、空港に向かっていた。


「知ってた?北海道は東京の38個分の大きさなんだよ?」


「でかいな。東京でさえ行ったことないところちょこちょこあるのに」


「だよね!でっかいよね!流石はでっかいどうだよ!今回は〜、札幌と函館と旭川の4泊5日だからー...。うーん、改めて見るとやっぱ広いなー」と、Googleマップと睨めっこする真凛ちゃん。


「俺にも見せて」と、真凜ちゃんのスマホ画面を覗き込むと「はわわ!!//」と、顔を真っ赤して距離を取られる。


 相変わらずの防御力である。


「そんなに避けられるとちょっとショックなんだけど」


「いや、きゅ、急に顔近づけるから...//」


「あらあら、朝からお熱いねー」と、後ろから現れた本庄さんに茶化される。


「あ、碧くんが私にチューしようとしてきたんだもん!」


「話を盛るな」と、おでこにチョップする。


「えへへへへ」と、嬉しそうな真凜ちゃん。


「相変わらず仲のいい夫婦だこと」


 そんな風に3人で歩いていると、海ちゃんとも遭遇する。


「あっ...みんなおはよう...」


「おはよ!海!」と、胸に顔を埋める本庄さんと抵抗する海ちゃん。


「あはは、二人とも元気だねー」


 そうして、4人で歩いているといつもより視線を浴びる。


 天使様と、可愛いギャルと、巨乳地味っ子と、もやしが街中を歩いていたら俺でも見てしまうだろう。


「...」


「ん?どうしたの碧くん」


「いや、別に。早く行こう」


「う、うん」


 空港に着くとすでに多くの生徒が待っていた。


「おっ、みんなおっはーよ!」と、挨拶しながら女子の輪に加わる真凜ちゃん。


「おはおは」


「おはよっぴー」


 そうして、今はひとりぼっちの俺は端の方に立って1人ぼーっとしていた。


 すると、気を遣ってくれたのか海ちゃんが挨拶してきた。


「楽しみだね...修学旅行」


「そうだね。高校の思い出として絶対忘れないものになると思うし」


「...うん。いい思い出になるといいね」と、優しく笑う。


 そんな優しい笑顔から目を逸らしてしまう。


「おーい、お前らー。出席確認するぞー。ならべー」という担任の声で班ごとに集まる。


 ◇飛行機搭乗


「札幌の今の気温は...15度だって!寒...」


「こっちとだいぶ差があるね」


「ふっふっふっ。そんなこともあろうかとちゃんと上に羽織るものを...あれ?持ってきたっけな?」


「ソファにおいてたやつならちゃんとカバンに入れておいたよ」


「え!優男...しゅき」


「...みんなに聞こえるからそういうのやめて」


 すると、そんな様子を見ていた女子がくすくすと笑って話しかけてくる。


「真凜って2人きりの時もそんな感じなの?w」


「もちろん!抜けているところは全てこの方にサポートしてもらってます!」


「...俺はヘルパーさんじゃないぞ」


 真凜ちゃんの友達周りとはこうやって少し話すようにもなっていた。

少しだけ自分が受け入れられたようで嬉しかった。


「...」


「...清人くん」


「ん?」


「...碧くんとはちゃんと話してる?」


「...まぁ、少しくらいわ」


「...そっか」


「心配させてごめん。それに気まずい空気になるのもあれだよな...。けど、ごめん。今日の夜には全部解決させるから。明日からは楽しい旅行になるから」


「...そっか。ごめんね...。余計なことを言って...」


「海ちゃんはいいのか?」


「...私...実は知ってたの。2人が結婚してたこと」


「...そう...だったんだ」


「ごめん。内緒にしてて」


「いや、謝ることじゃない。あれで正解でしょ。今の碧見てたらさ。すげー疲れた顔してるし、ああいうことになることは何となく分かってたから2人も内緒にしてたんだろうし」


 こういう時どうすればいいかは知っている。

そうやって何度もあいつを助けてきたから。

だけど、今は俺なんかが居なくてもなんて思ってしまう。


 最低だ。俺は本当に最低だ。

こんな人間が天使様と一緒にいられるわけがない。こんな人間があいつのそばにいるのは相応しくない。

これはあいつの問題ではなく俺の問題だ。


 全てをぶちまけて許してもらえた時に初めて俺たちは親友と呼び合えるはずだ。


 そうして、お互いの想いが交差するなか、飛行機は空港に到着するのだった。

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