第12話 彼はキメ顔でそう言った

 7月1日 PM5:15 清人の家


 あれから2週間ほど特別何かが起こることもなく、平凡な日々を過ごしていた。

特別なことといえば、ここ数日真凜ちゃんが帰ってくるのが少し遅いことくらいだ。


「3年になって修学旅行があるって、珍しいよな」


「言われてみたらそうだな」


「なんかそのせいかもしれんが、まだ受験って気持ちになれないんだよなー」


「...なんだよ、その言い訳。受験もそうだけど夏休み前にはテストもあるんだし、最後の夏休みを楽しみたきゃ勉強することだな」


「だるいなー。あーテストだるいなー。てか、推薦でもないやつはさ、三年の成績とかどーでもよくね?どうせ大学側もテストの点数で決めてるんだろうし」


「あのなぁ...清人がテスト勉強したいって言うから来たんだぞ」


「だって最近お前付き合い悪いじゃん」


「それは...まぁ...」


「家の方は大丈夫なのか?」


「別に。何も変わらずだよ」


「大学出たら俺とシェアハウスするか?」


「...清人が綺麗好きなら一考の余地はあったかもだけど、この部屋を見たらそんな気にはなれないんだが」


「もぉ!//馬鹿!//私はあんたのこと好きなんだっての!//言わせんな!//」


「ごめんなさい。好きじゃありません」


「ノールック返答やめろよ!」


「...」


「わーかった!やるよ!やればいいんだろ!」


 こうして、テスト前になると清人の家で勉強するのが日課だった。

本人がちゃらんぽらんなのに対し、親御さんは中々に厳しい人で清人の家で遊べるのは、テスト期間中と大型連休の時くらいだった。


「んで、大学はどこにいくん?清大?浜大?」


「まぁ、俺の学力から考えると無難なのは浜大だろうな。頑張れば清大もあるかもだが」


「ふーん。そっかー。んじゃ、清大に行くなら頭いいやつに教わんないとな。うちのクラスの頭いい人と言えば、汐崎さんと海ちゃんかー。トップ2がどっちも女子か。まー、汐崎さんは東大だろうし、海ちゃんも早大くらいはいけるだろうし...。本当、あの2人ってなんでうちの高校にいるんだろうってくらい頭いいもんなー」


「...」


 よく考えたらその2人からストーキングを受けていた...いや、1人からは現在進行形で受けているわけだけど...。


「てか、海ちゃんなら勉強教えてくれるんじゃね?」


「...いや...七谷さんは...」


「なんだよー、良いじゃん!巨乳照れ屋ロリ。清純派ビッチの次に人気な属性だぞ?」


「清純派ビッチなんて俺は嫌いだし、巨乳照れ屋ロリは...嫌いではないけど」


「だろ!ははーん?お前は汐崎さんより海ちゃん派だなー」


「いや、別にそんなことないけど」


「あー、そういやさー、汐崎さんの旦那が誰かわかったぜ」


 パキンとシャーペンの芯を折ってしまう。


「おっ、なんだかんだお前も気になってたのかー?このエロ介が!」


 この反応...俺ではない名前が出てきそうだが。


「んで?誰なの?」


「名前とかは分からないんだけどさー、昨日お前と駅前歩いてたら男と2人で腕組んで仲良さそうに歩いててさー」


「...男?...腕を組んで...?どんなやつ?」


「うーん。めちゃくちゃイケメンだった。背も高いし、すらっとしてるし...。いやー、ありゃお似合いだわ」


「...ふーん」


 浮気...?あの真凜ちゃんが?

けど、確かに昨日も...いや一昨日も珍しく遅く帰ってきたけど...。

あの見た目だし清人が見間違いってこともないだろうし...。


 問い詰めるって言ってもなー...。

微妙な返答で告白を先延ばしにしている俺にそんな権利ないよな。


「どうした?ぼーっとして」


「あぁ、いや...それより勉強だ、勉強」


 当然、その後の勉強など頭に入るわけもなかった。


 ◇


 少しモヤモヤした気持ちを抱きながら家に帰ると、リビングの方から声が響いていた。


 それは真凜ちゃんと...知らない人の声だった。


 そうして、ゆっくりとリビングに入るとそこには真凜ちゃんと知らない男がソファでイチャイチャしていたのだった。


「...真凜ちゃん...?」


「あっ、碧くん!おかえり!」


「コラコラ、真凜。旦那さんが帰ってきたんだから離れな」


「えー!別にいいじゃーん」と、頭をすりすりする真凜ちゃん。


「えっと...真凜ちゃんの...お兄さんとか?」


「いーや、僕は真凜ちゃんの...彼氏かな?」と、キメ顔で彼はそう言った。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093075378471325

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