高校生編

【動画投稿】第1話 三天美女

【動画URL】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093075180811886

https://youtu.be/pbyMshsXRUw?si=nGBfPC_jG8ZCUB0E


 うちの学校には『三天美女』と、呼ばれている女の子がいる。


 三天とは『天才/天然/天使』の三つを合わせた言葉であり、うちの学校の誰かが作った造語だった。


 天才の部分は言うまでもなく、天才的頭脳を指しており、全統模試で高校1年の時からトップを取り続ける天才っぷりがその証拠である。

それなのに通っているのは『私立森の丘高校』という、偏差値は中の中のどこにでもある普通の高校だった。


 どうやら家から近いからという理由だけでうちの高校を選んだらしい。

そこも天才っぽいと言えば天才っぽい感じがした。


 天然の部分は言うまでもなく、その抜けた性格から由来するものだ。

天才なのに真っすぐでマイペースな性格であり、気取ったところなんて一切なくて、それでいてどこか抜けているようなまさに俗にいう天然の人だった。


 おバカな天然というのは何度か見たことがあるが、天然の天才なんて初めて見た。


 天使の部分は言うまでもなく、その見た目から由来するものだ。

ハーフということもあり、白い肌に白い髪、天使の輪を彷彿させるキューティクル。

まるで天使の生まれ変わりのようなそんな可愛くて美しい見た目に合わせて、誰にでも優しいという性格を合わせ持った彼女はまさに天使という名に相応しかった。


 そんな彼女と俺は地味に小学生の頃から一緒であり、何度か一緒のクラスなったことはあるのだが接点はほとんどない。

その理由は単純明快であり、俺は女子が苦手などこにでもいる陰キャだったからだ。


 きっと卒業してから数年後に卒アルを見ながら「こんな可愛い子同じクラスにいたんだぜ?」と、自慢するだけの関係だ。


 これはそんな6月12日の出来事だった。


 ◇2024年6月12日(水)


 何でもないただの平日。

そして、水曜日という平日の中でも中弛みが起こる不人気な曜日だった。


 何事もないように家を出て、学校に向かう。

高校は家から徒歩で約15分ほどで、春になると綺麗な桜の木がお出迎えしてくれる。


 今は初夏ということもあり全身に太陽光を浴びながら、気持ち良い通学路を一人で歩く。


 ちなみに、先ほどの何でもないというのは他の人にとってであり、俺にとってはそれなりに大事な日であった。

そう、今日は俺の18歳の誕生日なのだ。


 18歳ということはつまり成人ということだ。

法改正により高校3年で成人になるわけだが、別に酒が飲めるわけでも、タバコを吸えるわけでもない。


 結局、成人というより学生という肩書きの方が強いようでまだ1人でできないことも多いが、それでもそれなりに意味を持った誕生日だった。


 そんなことを考えながら教室に入ると

「誕生日おめでとう!」

「おめでとう!」

「おめおめ!」という言葉がクラス内を飛び交う。


 そんな声を見事にスルーしながら、自席に座る。


 なぜスルーしたかというと、それは俺に向けられたものではないからだ。

クラスの人気者である汐崎しおざき真凜まりんに向けられたものだった。


「ありがとう!みんな!」と、ニコッと笑う。


「これ、クラスのみんなから!」


「...え?」


「ほら、真凜には色々お世話になってるからさー。学級委員とか...。生徒会で忙しいのに誰もやりたがらないこと積極的にもやってくれてさ....。だから、これはそのお礼!」


「みんな...」と、涙ぐむ彼女。


 そういや、この間お金を徴収されたっけ。

実際クラスの面倒ごとはいつも彼女が引き受けてるしな...。と言っても、彼らもまさか同じ誕生日の人から誕プレ代を徴収してるなんて夢にも思ってないだろうな。


 そんな様子をぼんやりと眺めていると、肩を叩かれる。


「俺も今日誕生日なんだぜって言わなくていいのか?」と、半笑いで話しかけてきたのは友達である大迫おおさこ清人きよひとである。


「...言わねーよ」


「俺が代わりに言ってやろうか?」


「絶対やめろ。マジで」


「冗談だってのw」


「...」


 こいつは幼稚園の時からの友達であり、いわゆる幼馴染というやつだった。

俺とは違い活発で、明るい性格で、いつも笑っている太陽のようなやつだ。

こいつがいなければきっと今俺はここに居ないと思うくらい色々とお世話になっている。


「はい、これ」と、コンビニで売ってるちょっとお高いチョコレートを渡される。


「お、おう。ありがとう...って、いや...誕生日プレゼントならもうもらったぞ?」


「いや、あげてないからw何言ってんだよw」


「え...でも...」


「寝ぼけてんのか?wてか、これであおいも成人かー」


「...そうだな」


「成人になった気分はどうですか!?大人になった感じしますか!?」


「何も変わんねーよ。何も変わらないまま、なにも努力しないまま称号だけもらった感じ」


「はーん。まぁ、何か自分で達成したわけじゃなくて自動達成しただけの称号だもんな。自覚がなくて当たり前か。そんで?あれはいつ出しに行くんだ?」


「...明日行こうと思ってる」


「そっか」


「...うん」


 ...成人、なんて言われても全くピンと来ない。

中身は数年前からあまり変わらないのに、見た目ばっかり大人になっていく。

小さい頃想像していた18歳には慣れていない気がした。


 しかし、中身がどうであれ成人になったということは、ようやくあの家との関係を書類上は断てるということだ。

そんなことを考えながら、またぼーっと窓の外を眺めるのだった。


 ◇同日 22:00


「お疲れ様でしたー」と、店長に挨拶してバイト先を出ようとしたところで、店長に呼び止められる。


「待て待て。これやるよ」と、ケーキを手渡される。


「...え?」


「今日、誕生日だろ?持ってけ」と、こちらを見ることなく差し出す。


「...ありがとうございます」と、深々と礼をしてバイト先を後にする。


 そして、いつも通り暗い夜道を1人で歩いていた。

ここを通るのもあと数ヶ月ほどしかないだろう。

てか、これ何ケーキかな?と、中を覗こうとしていると、家の前に人が立っていることに気づく。


 それは灯に照らされていつもより余計に天使に見える三天美女こと汐崎真凜だった。


「...汐崎さん?」


「あっ、待ってたよ、山口やまぐちくん!」と、元気よく手を振っている。


「...待ってた?」


 なぜ彼女が俺の家の前で待ってるんだ?と、思わず言葉を失う。


「うん!お誕生日おめでとう!」と、紙袋を手渡される。


「え?...あ、ありがとう」と、流れで受け取ってしまう。


 よく見るとその袋には誰でも知っているような有名ブランドのロゴが描かれていた。


「え?これ...。てか、なんで俺の誕生日なんて...」


「知ってるよ?だって小学校から一緒なんだし!てか、ちゃんと毎年プレゼントもあげてたんだけど?」と、満面の笑みで笑う。


 それを言われて一つ思い当たる節があった。


「...図書カード?」


「正解!」


 毎年、俺の誕生日の日に机の中に図書カードが入っていた。

てっきり清人が入れてると思ってた...。


「...そうだったんだ。ありがとう...。ごめん、俺はてっきり清人がくれたものだと思ってて...。まさか...汐崎さんがくれてるなんて思わなくて...」


「うん!大丈夫!きっと私があげたって気づいたらお返しとか考えちゃうんだろうなーって思ってたから!あっ、今までのお返しとか要らないからね!もう、山口くんからは色んなもの貰ってるから!」


「色んなもの?...いや、でも...ほら、今年はもう図書カードももらってるし...それにこんな高そうなのもらえないよ」と、紙袋を返そうとするが彼女は一向に受け取ってくれる気配がない。


「いいからいいから!それじゃあ、また明日ね!」と、手を振って彼女は颯爽と去っていくのだった。


【挿絵】

https://kakuyomu.jp/users/tanakamatao01/news/16818093074593358294


 取り残された俺は少し首を傾げながら家に入る。何で俺なんかにプレゼントをくれてたのだろう。てか、毎年図書カードをくれていたのも謎である。


 いや、もしかしたら俺の現状を知っててくれての行動だったのだろうか?と、それらしい答えを見つけて一旦納得する。


 少しはしゃいでしまうが、いつも通り電気の消え、真っ暗で静寂に包まれた家の中を見た瞬間、現実に引き戻さ。

そして、物音を立てないように忍足でゆっくりと家に入る。


 この家には父と母と妹2人と俺で住んでいる。もっと正確に表現するなら4人家族と1人の部外者が住んでいる感じだ。

この家に俺の居場所なんてなかった。


 そのままいつも通り屋根裏に向かう。

立つこともできないほどの高さの天井部屋。

これが俺の部屋だった。


 そのまま、ぺったんこの布団にダイブし、携帯のライトを使いながら、彼女にもらったプレゼントを開けることにした。


 そこから出てきたのは何やら白い箱であり、

中から出てきたのは...めちゃくちゃ高そうな指輪だった。


 いやいやいや...なんでいきなりこんなのくれるんだよ。と、またしても首を傾げる。


 やっぱり明日返そう。

そう思ってバイトで疲れていた俺は店長からもらったケーキを食べて、眠りについたのだった。


 その翌日、あの指輪の意味を知ることとなるのだった。

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