家から追い出された後、私は皇帝陛下の隠し子だったということが判明したらしいです。
大舟
第1話
「ほんっっとに役に立たないな、レベッカ…。いったいいつになったら俺の望む理想の娘になってくれるんだっ!!!」
激高したリーゲルお父様の右手が、私の頬に命中する。
鈍い痛みが瞬く間に顔中に広まっていき、なんだか反対の頬まで殴られた衝撃を感じるほどだった。
…これでもう何度目かもわからない。
最初のころは数えていたのだろうけれど、これが毎日の当たり前になってしまってからは、もう数えることもなくなった。
お父様に殴られることは、そのくらいに私にとって当たり前のことになっていってしまっていた。
「くすくす…。お姉様ったら、いつもいつもお父様のことを怒らせてばかりですねぇ。やっぱり人を怒らせる才能が人一倍あるのかしら…?」
そんな私の姿を見てにやにやとした表情を浮かべるのは、妹のマイアだ。
とはいっても、私と彼女に血のつながりはないのだけれど…。
「…あら、お姉様?顔が痛いのですか?それじゃあ冷やして差し上げないといけませんね♪」
バシャッ!!!!
「っ!」
マイアはそういいながら、後ろ手に隠していたコップを私に向けひっくり返した。
コップの中にあった水は引力に従い落下し、そのまま私の顔に命中した。
さらにそこから垂れた水滴が首元あたりに流れていって服の下まで浸透し、気持ち悪さを拭えない。
その一方でマイアは、私の反応を見てそれはそれは楽しそうな表情を浮かべていた。
「はぁ…。レベッカ、もう俺はほとほとお前への愛想が尽きたよ。今までは少なからずお前の事を気にかけていたからここに置いておいてやったが、それももう終わりだ。今日をもってここから出て行ってくれるか?」
高圧的な口調でそう話すお父様の声が、私の脳内に響き渡る。
…でももしかしたら私は、その言葉をずっとずっと待っていたのかもしれない。
「お前がいなくなっても、別に誰が悲しむこともないし、誰が困ることもない。あぁ、お前がいなくなろうとマイアとセレスティンの事は俺がちゃんと愛して面倒を見るから、心配はいらないぞ」
セレスティンはお父様の再婚相手で、マイアはその時セレスティンが連れてきた子だった。
二人が結ばれたのが、今から4年前の事。
それ以前も私はお父様に虐げられていたけれど、それを境に私の扱いはさらに悪くなった。
お父様は二人の事を溺愛していて、二人に見せつけるかのように私の事をいたぶり続けていた。
そんな光景を見て二人もまた、お父様と同じことを始めた。
…だからこの家に私の味方は、一人もいなかった…。
そんな中でかけられた、お父様のその言葉。
私はそれを……受け入れることにした。
「…わ、わかりました…。私が出て行ってお父様のお気が済むのでしたら、それで構いません…」
「ほう、なかなか潔いじゃないか。それともあれか?そうやって悲劇のヒロインを演じることで、俺の同情を誘おうとしているのか?それは無理だなぁ、お前に同情なんてしても何の得にもならん(笑)」
「…それでは、いままでありがとうございました…」
私は痛む体を引きずりながら、6年ほど暮らした家を後にした。
――――
あまり食事を与えられていないから体は軽いはずなのだけれど、現実には私の体は鉄のように重く感じられて、私は全身を引きずるようにして歩いていた。
…鏡を見なくてもわかる。
腕も足もマッチ棒のように細くなっていて、頬もこけている。
髪の毛も整えられていなくて、傷みきっていることだろう。
今の私は13歳で、あの家で暮らした時間が6年くらい。
それ以前の記憶は、なぜだかあまり覚えていない…。
それでも、温かい口調でかけられた一つの言葉を今でも覚えていた。
『いいかい、よく聞くんだ。もしも私になにかあった時には、すぐにこの教会を目指すんだ。わかったね?』
その言葉が誰によってかけられたのか、なんの意図があるのかは思い出せなかった。
だけれどその言葉は、長く苦しい私の生活を支えてくれたお守りのような言葉だった。
私はその言葉に導かれるままに、痛む体を引きずってひたすらに教会を目指した。
――――
その一方、レベッカのいなくなった家では、3人が楽しそうに食事をしながら会話に花を咲かせていた。
「あら、レベッカはとうとう追い出してしまったの?まぁ、わかってはいたけれど(笑)」
「もう邪魔でしかなかったし、別に構わないだろう?むしろ清々するくらいだ」
「お姉様、今頃後悔して泣いているんじゃないですか?許してくださいと戻ってきたらどうされるのですか、お父様♪」
「くっくっく、それはそれで面白いな。再び家に入れてやる条件に、髪をすべて剃れとでも言ってみるか?」
「まぁまぁ、いくらレベッカがかわいくないからって、実の娘でそこまで遊ぶだなんて、あなたも鬼ねぇ♪」
「…あぁ、言っていなかったか。レベッカは俺の本当の娘じゃないんだよ。だからあいつがどこでどうなろうが、俺には全く関係ないのさ」
「……え?」
二人は実の親子であろうと信じ切っていたセレスティンにとって、その言葉は意外なものだった。
セレスティンが疑問に感じている様子を感じ取ったのか、リーゲルはそのまま言葉をつづけた。
「もともとあいつは捨て子だったんだよ。だから俺たちがどれだけあいつをいたぶって遊ぼうが、痛くもかゆくもないってわけだ」
「なぁんだ、そうだったのね。血がつながっていないっていうからびっくりしちゃったわ~」
「お姉様、捨て子だったのですね。確かに、あの品のなさや汚らしさはそうでないと説明がつかないかも…(笑)」
「まったくだわ。ある意味納得ね(笑)」
「さぁお父様お母様、せっかく邪魔者がいない至福の時なのですから、楽しく食べ進めましょ~♪」
マイアの言葉とともに食事に意識を戻す3人。しかしセレスティンの脳裏には、一片の疑問がちらついて離れなかった。
「(……で、でもそれじゃあ、レベッカの本当の父親って一体……?)」
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